第5話 反省会と愚痴大会……ついでにパーティ名?
王都冒険者ギルド。
衛兵所でみっちりと説教を受けたフロウベルとリンナは、疲れ切った様子でギルドへ戻ってきた。
「……疲れた」
「本当に疲れたわ……」
二人はカウンターの前で、そろって深いため息をついた。
すると、奥からギルドマスターが顔を出した。
「おう。帰ってきたか」
「ギルドマスター……」
「何ですか?」
「何ですか、じゃねえ!」
ギルドマスターの怒声がギルド内に響いた。
「お前ら、王都に戻ってきて早々に何をやらかしてるんだ!」
すでに耳に入っていたらしい。宰相から三時間もねちっこく説教されたばかりなので、二人は少しうんざりしていた。
「グリフォンの件ですよね。もう宰相様にみっちり、ねちっこく説教されました。」
「あん? なんで宰相様が?」
「なんでもたまたま通りかかったら、騒動に出くわしたそうで……」
「ふ~ん……なるほど」
ギルドマスターはちょっと思案して、
「宰相様から説教くらったんだったら、俺は手短に言ってやる。
伯爵が失礼なことを言ったのは分かる。直接お前に会いに行くのは筋が違う。だがな、グリフォンを召喚する奴があるか!」
「宰相様にも言いましたが、グリフォンには、すぐに帰ってもらいましたよ?」
「問題はそこじゃねえ!」
「……難しいですね」
「お前の常識がな!」
ギルドマスターは額を押さえた。
「とにかく、今後は問題を起こすな。と言ってもお前だから無理だが、貴族の件でなにかあったら相談しろ。いいな?」
「何か釈然としませんが、分かりました」
フロウベルは素直に返事をした。
その隣では、リンナが何とも言えない顔をしている。
「……本当に分かってるのかしら」
「分かってますよ?」
「ならいいが……」
ギルドマスターは二人を交互に見て、もう一度ため息をついた。
「リンナ。苦労をかけるな」
「……本当にですよ。もう依頼じゃないから怒られ損ですよ……」
「何でそこで、そんなにしみじみするんですか!?」
フロウベルが抗議する。
「お前、自分の行動を振り返ってみろ」
「私は、間違ったことは言っていません」
「行動の話をしてるんだよ!」
ギルドマスターは、これ以上話しても無駄だと判断したらしい。
「……まあいい。とにかく、しばらくは大人しくしていろ」
そう言い残すと、ギルドマスターは奥へと戻っていった。
残された二人は、再び顔を見合わせる。
「……怒られましたね」
「あんただけよ」
「何でですか!リンナも一緒にグリフォンさんを見ていたじゃないですか」
「私に何ができるのよ! 私は止めようとしたよ!」
「でも、止まりませんでしたよ?」
「あなたが止まらなかったからでしょうが!」
ギルドの片隅に、再びリンナの叫び声が響いた。
◇
「まあまあ。二人とも、少し落ち着いて」
カウンターから声をかけてきたのは、受付嬢のイリアだった。
いつもの穏やかな笑顔で、二人を空いているテーブルへと案内する。
「それで? どうしてこんな大事になったの?」
「聞いてください、イリアさん!」
リンナは、待ってましたとばかりに身を乗り出した。リンナは騒動の一部始終をかいつまんでイリアに聞かせた。
「はぁ……なるほどね……」
「私、別に伯爵を襲ったわけじゃないんですよ? ちょっとグリフォンさんを召喚しただけで……」
「フロウベルちゃん」
イリアが、にっこりと微笑んだ。
「その『ちょっと』が問題なのよ?」
「……イリアさんまで」
「だって、街中にグリフォンが現れたら、普通は大騒ぎになるでしょう?」
「でも、グリフォンさんはいい子ですよ?」
「そういう問題じゃないの!」
リンナがテーブルに突っ伏した。
「もう嫌……。この子と一緒にいると、私まで常識が分からなくなりそう……」
「大丈夫よ、リンナちゃん。あなたはちゃんと常識があるわ」
「イリアさん……!」
リンナが感動したように顔を上げる。
「だからこそ、苦労しているのね」
「……はい」
「納得しないでください!」
フロウベルの抗議は、二人にきれいに無視された。
「フロウベルちゃん、あなたに脅威じゃなくても、周りの人から見たら、魔物や魔獣は脅威よ」
イリアが諭す。
「いきなり現れた魔獣に襲われるかもってパニックになるのは当然。それで怪我したりする人だっている」
しょんぼりするフロウベル。自分の認識の甘さに少しは気づいたようだ。
「スライムたちやカーバンクルのようなものだったら、まだ落ち着けるけど、グリフォンのような魔獣は街中でしかもいきなり出してはダメよ」
「……すみません」
「分かればいいわよ。今度は間違えないでね。」
にっこりとほほ笑むイリア。
「ところで、伯爵とはどうなったの?」
イリアが尋ねると、フロウベルの表情がわずかに曇った。
「……あの人、私の召喚能力を利用しようとしているように感じました」
「利用?」
「研究の支援をするとか、お金を出すとか言っていましたけど……結局、私に何をさせたいのかは分かりませんでした」
フロウベルは少し考えてから、はっきりと言った。
「私は、自分の目的のために召喚を研究しています。誰かの都合で、召喚獣を戦争に使うつもりはありません」
その言葉に、イリアは静かにうなずいた。
「そうね。そこは、フロウベルちゃんが曲げてはいけないところだと思うわ」
「イリアさん……」
「でも、相手が貴族だからこそ、対応の仕方には気をつけないとね。あなた自身が困るだけじゃなく、周りの人まで巻き込んでしまうから」
「……分かりました」
フロウベルは、今度は少しだけ真剣な顔でうなずいた。
リンナも、ほっとしたように息をつく。
「そうそう。最初からそうしてくれれば、私だって……」
「でも、次にリンナやイリアさんに何かしたら、グリフォンさんかアラクネさんの餌にします」
「分かってないじゃない!!」
リンナの叫びが、ギルド内に響き渡った。
「既にアラクネさんからは『いつでもどうぞ』と返信ももらってます!」
イリアは困ったように笑っている。
「……フロウベルちゃん。今のは、聞かなかったことにしておくわね」
「ありがとうございます!」
「感謝するところじゃないわよ!」
◇
ひとしきり説教と愚痴を繰り返したところで、リンナがふと思い出したように口を開いた。
「……そういえばさ」
「何ですか?」
「あの通り名……『無敵美少女ブルー&サファイア』何とかしない?」
「そ、そうですよ。あれ、誰がつけて、しかもファンクラブとか発足したんですか?」
フロウベルが叫ぶ。
「だいたいファンクラブって本当にあるのかなぁ?」
リンナが疑問を口に出す。イリアが
「あるわよ。会員さんに何人か見てるから。」
「「本当にあるんかい!」」
口をそろえて叫ぶ二人。
「ええ、確か、会員ナンバー1の人が発足者って言ってたわね。」
イリアがさらっと情報を流す。
「い、イリアさん。ちなみにその話した会員の方のナンバーとか聞きました?」
「会員ナンバー123って自慢してたわね。」
「「す、既に100人越え!」」
愕然とする二人。
「さ、探しましょう! 会員ナンバー1を。そして解散させるか、運営費の一部を上納させましょう!」
リンナがやる気満々である。フロウベルが
「その前に通り名を変更させましょうよぉ」
そこで、イリアが提案した。
「それなら、お二人のパーティ名を決めたらどうですか?」
「パーティ……名?」
「……あ」
フロウベルが目を見開いた。
「確かにありませんね」
「冒険者として活動するなら、パーティ名くらいあってもいいんじゃない?」
「なるほど……。では、決めましょう!」
フロウベルは、なぜか急に目を輝かせた。
「まずは、スライム召喚団!」
「却下」
リンナの返事は即座だった。
「どうしてですか!? 分かりやすいじゃないですか!」
「スライムだけを召喚するみたいじゃない!」
「……では、スライムと愉快な仲間たち?」
「スライムから離れなさい!」
リンナが叫ぶ。
「いいと思うけど?」
イリアが口元に手を当てて笑った。
「イリアさん!?」
「だって、フロウベルちゃんらしいもの」
「なんか、褒められている気がしません……」
「褒めているのよ?」
「本当ですか?」
「ええ。たぶん」
「たぶん!?」
フロウベルは頭を抱えた。
すると、イリアが何かを思いついたように顔を上げた。
「それなら、『ブルー&サファイア』はどうかしら?」
「「それは嫌だから決めてるんです!!」」
二人の声が、見事に重なった。
「……あら、息ぴったりね」
「そこを喜ばないでください!」
リンナが顔を赤くして抗議する。
「そもそも、あの名前は私たちが望んだものじゃないんですよ!」
フロウベルも力強くうなずいた。
「でも、人気があるということじゃない?」
「人気なんていりません!」
「……そこまで言わなくても」
イリアは苦笑した。
「とにかく、あの名前だけは絶対に嫌です!」
フロウベルは腕を組み、きっぱりと言い切った。
「分かったわ。じゃあ、ほかの名前を考えましょう」
イリアがそう言うと、リンナも少し考え込む。
「うーん……。『青の双星』とか?」
「何だか格好いいですね!」
「でしょ?」
「でも、少なくとも私は青くないですよ?」
フロウベルが自分の髪をくるくると指で回しながら答える。
「……そうだったわね」
ふと、フロウベルが思いついたように
「では、『アラクネさんからは逃げられない』はどうでしょう?」
「もうパーティ名じゃない!!」
「それじゃなきゃ、『アラクネさんですが、何か?』はどうです?」
「やめろ!あらゆる面から抗議がくるー!!」
時たまメタ発言するフロウベル。それにツッコめるリンナにも何か問題ありそうである。
イリアは、とうとうこらえきれずに笑い出した。
テーブルを挟んで、フロウベルとリンナが真剣に言い合っている。
その様子は、どう見ても仲の良い友人同士だった。
「……ふふっ。二人とも、本当に仲がいいのね」
「「どこがですか!?」」
またしても、声が重なった。
イリアは、ますます楽しそうに笑った。
◇
「……結局、パーティ名は決まりませんでしたね」
ギルドを出る頃には、すっかり時間が経っていた。
「誰のせいよ……」
「リンナの案も決まりませんでしたよ?」
「あなたが変な案ばっかり出すからでしょうが!」
「でも、リンナは私の大切な仲間ですよ?いい名前つけないと」
「……っ」
リンナは一瞬、言葉に詰まった。
「……そういうことを、さらっと言わないでよ」
「何でですか?」
「何でもない!」
リンナは、顔をそらした。
フロウベルは不思議そうに首をかしげる。
「……変なリンナですね」
「誰のせいよ!」
二人の声が、王都の通りに響いた。
反省会は終わった。
愚痴も言った。
パーティ名も考えた。
しかし、反省したのかどうかは、誰にも分からなかった。




