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伝説の召喚士、禁断の召喚術を試す ・・・500匹のスライムどうする?  作者: てるるん
第3章 伝説の召喚士、貴族に目をつけられる(目をつけ返しました)
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第2話 スライムたちの居場所はどこ?

 王宮での報告を終えたフロウベルとリンナは、冒険者ギルドへと戻ってきた。


 もちろん、フロウベルの後ろには、ぷるぷると揺れながらついてくるスライムたちがいる。


「お帰りなさい、フロウベルさん。リンナさん」


 受付のイリアが、いつもの笑顔で二人を迎えた。


「ただいま戻りました!」


「……あら?」


 イリアは、フロウベルの周囲を見回した。


「スライムの数が減っていませんか?冒険で倒されてしまったの?」


「いいえ。 残りは研究所です!」


「研究所?」


 イリアが首を傾げる。


 隣にいたリンナが、疲れた顔で説明した。


「研究所に残りたいって、スライムたちが自分の意思で行っちゃった」


「……え?……スライムが?」


「はい……」


 フロウベルが元気なく返事をする。


 イリアは、フロウベルとリンナを交互に見た。


「……フロウベルさん、何かしたんですか?」


「何もしてません!なのに……」


 ちょっと涙目。リンナがダメ押しの一言。


「研究所行きたい奴の方が多くなって、あとはなんか渋々ついてきた感じで……」


「どういう意味ですか!?」


 フロウベルが抗議する。当たっているので悔しそうな顔をしている。


 イリアは困ったように笑った。


「大丈夫ですよ。きっと、研究所の居心地がいいんでしょうね」


「……イリアさんまで!」


「えっ? あ、いえ、そういう意味では……」


「私のところが居心地悪いみたいじゃないですか!」


「いや、実際そうなんじゃ……」


「……リンナさん?もぎますよ。」


「何をだ!……いや、はい、何でもありません!」


 フロウベルの怒りの目に、リンナは素早く視線を逸らした。


 イリアは、少し考えてからフロウベルに微笑みかける。


「でも、フロウベルさんのことが嫌いなわけではないと思いますよ?」


 フロウベルの表情がぱっと明るくなった。


「そうですよね! みんな、私のことが大好きですから!」


 足元のスライムたちが、ぷるぷると揺れた。


「ほら!」


「……それ、肯定してるの?」


「もちろんです!」


 リンナは、もう考えるのをやめた。


 この話を真面目に考えたところで、答えが出るとは思えなかったからだ。


     ◇


「それで、森の件はどうなった?」


 ギルドマスターの部屋に入ると、筋骨隆々のギルドマスターが二人を迎えた。


「オーガがしゃべった!?」


 フロウベルが声を上げる!


「オーガじゃねぇって言ってんだろうが!」


 怒るギルドマスター。


「報告するであります!」


 やばいと悟ったフロウベルは、話題を変えるため、元気よく手を挙げる。


「チっ……おう。で、どうなった?」


「解決しました!」


「……何が?」


「森の問題です!」


「だから、どう解決したんだ!」


 ギルドマスターの怒声が響いた。


「まずは結果から報告するものですよ。そんなことも分からないんですか?」


 火に油を満遍なく注ぐフロウベル。


 リンナが慌てて口を挟む。


「えっと、魔力溜まりが原因で、森の魔物に異常が起きていたんです。それで、魔族のアスタが魔力溜まりを処理することになって……」


「待て。魔族?」


「あれ、シャンティさんから報告は上がってません?」


「あ、ああ。エルミドのギルドマスターか。報告は来てるぞ。ただ、詳細はお前らから聞けって書いてあったが」


「逃げやがった!!」


 リンナが頭を抱え、叫ぶ。


 それでも、通常運転のフロウベルが、


「はい。アラクネという魔族とも交渉して、縄張りを決めました」


「……アラクネ? 縄張り?」


「はい。蜘蛛の下半身を持った女性です!」


 フロウベルが補足する。


「そういう情報を聞きたいんじゃねえ!」


「えっ、そうなんですか?」


「当たり前だ!」


 リンナが額を押さえた。


「とにかく、アラクネの狩り場を森の奥に限定して、魔力溜まりもその範囲内で処理してもらうことになったの。アスタも約束を守って作業を続けるそうよ」


 リンナが、森の調査時の内容を、事細かに説明する。


 ギルドマスターは腕を組んで聞き、考え込んだ。


「……つまり、戦って倒したわけじゃなく、交渉で解決したんだな?」


「そういうことです。王宮に同じ報告しました。」


「……お前ら、本当によく生きて帰ってきたな」


「話の分かる方でしたよ?」


 フロウベルが首を傾げる。


「そういうことを言ってるんじゃねぇ! お前の危うさを話してるんだ、フロウベル!」


「えっ?」


「えっ、じゃねえ!」


 リンナは、深いため息をついた。


 報告はまだ終わっていない。


 この先、フロウベルが余計なことを言い出す前に、自分が説明しなければならないのだ。


 そう思ったリンナは、さらに疲れた。


「……で、そのスライムたちは何なんだ?」


 ギルドマスターが、フロウベルの足元を見た。


「私の召喚獣です。知ってるでしょ?」


「それは分かってる!」


「じゃあ、なんで聞くんですか?」


「数だ数。この前、もっと、いっぱいいただろうが!」


 リンナが再度、イリアに話した内容を説明する。


「ということなので、問題ありませんね!」


「問題ありだ!なんだ、その自立しているスライムは!」


 ギルドマスターの声が、再び部屋に響いた。


     ◇


 ようやく報告を終え、フロウベルが立ち上がった。


「それでは、研究所へ行きましょう!」


「……私は少し休みたいんだけど」


 リンナが、力なくつぶやく。


「そういえば、リンナさん。」


 疲れた顔でフロウベルを見るリンナ。


「ん、なに?」


「ちょうど、ギルマスもいるんで、確認したいんですけど?」


 ギルドマスターもフロウベルを見て、


「何をだ?」


「リンナさん、私の護衛依頼を請けてましたよね」


「そうだね」


「その依頼、誰からで、報酬はどうなってます?」


 ギルドマスターとリンナは、『え?』って顔で見合わせる。


「私、リンナさんとは『パーティー』を組んだつもりでしたが、確かギルドマスターから護衛しろって言われたんでしたよ」


 リンナはちょっと記憶をたどり、


「……確か、護衛も兼ねて監視ってことでね。」


「それ、ギルドマスターからの『指名依頼』ですよね」


 ニヤリとフロウベルが笑い、ギルドマスターを見る。


 リンナも意図に気付き、ニヤリと笑う。


「そういえばそうね。期限も報酬も聞いていないけど、未だ続行中ね。」


「それって、まずくないですか? このままだと、リンナさんに無償で指名依頼を受けさせていたことになりますよ」


 ギルドマスターに悪い顔して告げるフロウベル。顔が引きつるギルドマスター。


「いや、それはだな……」


「確かに、物資運搬や護衛、森の調査の報酬はもらったけど、フロウベルの護衛については報酬をもらってないなぁ」


 リンナも追従する。


「ちゃんと、こうやって色々含めて報告しているのに、リンナさんかわいそう」


 フロウベルが顔を隠し、ウソ泣きする。


「あ、わかった、わかった。ウソ泣きやめろ。とりあえず、フロウベルへの護衛、監視に関しては、ここで一旦終了でいい。報酬は金貨5枚だ」


「あら、意外と破格な報酬ですね」


「報告内容聞いていたら、それぐらい払わないと割に合わん気がしてな、苦労かけたリンナ」


「……報われた」


 報酬を手にし、本気で感動の涙を流す、リンナ。


「泣くほど、大変だったと思ってるんですか!」


「当たり前じゃない!」


 抗議するフロウベルに、即答で返すリンナ。ため息つくギルドマスター。


 今日も平和である。


    ◇


 しばらく、たわいもない雑談した後、


「さて、私は研究所に行きます。リンナさんはどうします?」


「私が行ってもなぁ。宿に戻って休憩でもするよ」


「なるほど……宿ってお金かかりますよね?」


「そりゃあね。でも、ちょっと懐温まったし」


 そういって、先ほど、貰った報酬を見せる。


 フロウベルは少し考えて、


「リンナさん、私と研究所に行きません?」


「研究所なら寝泊まりできるとこありますよ。ただで。」


「ただって……なんでだ」


 リンナが聞き返す。


「私の特権で用意します。」


 にっこり微笑むフロウベル。


「特権って……なんでフロウベルが?」


「私、これでも研究所ではそれなりの立場なんですよ。だから、あの大規模な召喚実験もできたんです!」


「え、それ初耳だぞ?」


 リンナが慌てる。ギルドマスターも黙って聞いていたが、それを聞いて、


「そういえば、聞いたことがあるぞ……。魔法研究所に、とんでもない召喚士がいるって」


「え?」


「確か、通り名は……『暴走召喚大迷惑少女』だったか?」


「なんですか、その通り名は! 私も初めて聞きましたよ!」


「なんで研究所を出てきたんだ? あまり外に出てこなかったはずだが……」


「あいつら……!」


 フロウベルは、今は見えない研究員たちに怒りの視線を向けた。


「いえ、今回、500匹の失敗スライムをどうするかで、ちょうどいいから、研究にも行き詰ってたので、冒険がてらなんて……」


「ほんとに迷惑な……」


「ああ、なんか言いましたか?」


 不機嫌な声で話すフロウベル。


「い、いや」


「で、どうします、リンナさん。三食昼寝付き、お風呂付ですよ」


「そう言われると、魅力的だけど大丈夫なのか?」


「文句は言わせません。通り名の代償は重いですよ。フフフ……」


 悪い顔で笑うフロウベル。


「じゃあ、世話になろうかな」


「わかりました! 研究所に行きましょう!」


 なんだかんだと、リンナと離れたくないフロウベル。元気に声をかける。


 イリアが、受付から笑顔で声をかけた。


「リンナさん、フロウベルさん、また依頼受けてくださいね!」


「はーい!」


 フロウベルは意気揚々と歩き、リンナはとぼとぼと歩き、スライムたちはぷるぷるとついていく。


 いつも通りの光景だった。


     ◇


 王国魔法研究所に到着すると、先に戻っていたスライムたちが研究員に囲まれていた。


 約500匹のスライムを囲む研究員……シュールな絵面である。


 机の上に並んでいるもの。


 箱の中に入っているもの。


 研究員の足元で、のんびりとぷるぷる揺れているもの。


 その様子は、まるで研究所にすっかり馴染んでいるかのようだった。


「みんな、ちゃんとお利口にしていたんですね!」


 フロウベルが感心する。


「ええ。こちらの指示には従ってくれますし、特に問題はありません」


 研究員の一人が答えた。


「……私の指示以外も聞くんですか?」


「あ、そういえば、そうですね。ただし、何を考えているのかは、さっぱり分かりません」


 フロウベルも大概だが、研究員もやっぱり同類である。


「私もです、この子たちだけは、わからないんですよね。」


「召喚士がそれでいいんですか!?」


 思わず研究員が叫んだ。


 リンナは、静かにうなずいた。


「……お気持ちは分かります」


「リンナさんまで!?」


 フロウベルが頬を膨らませた。


 気を取り直して、フロウベルはスライムたちに向き直る。


「みんな! 帰ってきましたよ!」


 スライムたちは一斉に、ぷるぷると揺れた。


「さあ、私のところへ!」


 フロウベルは両手を広げた。


 ……。


 ……ぷるぷる。


 スライムたちは、研究員の足元から動かなかった。


「……あれ?」


 リンナが静かにつぶやく。


「……人気、ないわね」


「そんなことありません!」


 フロウベルは、近くにいた一匹を抱き上げた。


「ね? あなたは私のところに来てくれますよね?」


 スライムは、ぷるっと揺れた。


「ほら!」


 フロウベルが笑顔になった、その直後。


 スライムは腕の中からするりと抜け出し、リンナの胸元へと飛び移った。


「な、なによ! こいつ!」


 リンナがスライムを引き離そうとするが、スライムはぷるぷると揺れながら、なかなか離れようとしない。


「…………」


 フロウベルは、目のハイライトが消えたような顔で、その光景を見つめていた。


 男性研究員は鼻の下を伸ばして眺めていたが、隣にいた女性研究員に張り飛ばされた。


「……リンナさん」


 フロウベルの目から、つうっと涙が流れる。


「な、何よ? こっちは忙しいのよ!」


 リンナはスライムを引き離そうと必死だった。


「今日、冒険に出るより疲れました……」


「私はずっと疲れてるわよ!!」


 研究所に、リンナのツッコミが響き渡った。


 スライムたちは、今日もぷるぷると揺れていた。

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