第14話 大反省会からの召集令状
エルミドへと戻ってきた三人と、500匹のスライムと一匹のカーバンクル。
当然のように、街の中はちょっとした騒ぎになった。
「なんだ、あのスライムの大群は!?」
「また来たぞ!」
「前に来た時より増えてないか!?」
「いや、最初からあれだけいたらしいぞ!」
「どういうことだよ!?」
街の人々がざわめく中、先頭を歩いていたシャンティが足を止め、大きな声で
「はいはい。騒がなくていいわよ! 今回も私が保証するから!」
ギルドマスターであるシャンティの言葉に、街の人々も少しずつ落ち着いていく。
その横で、フロウベルは胸を張った。
「さすがシャンティさん! 人気者ですね!」
「なんで、あんたが、ない……うほんっ……胸張ってんのよ。」
咳込み、危なくNGワードをいうところだったリンナ。主にシャンティの怒りは買いたくない。
「私の人望だけじゃないわよ。」
「?」
フロウベルは首を傾げる。
リンナは何も言わなかった。
冒険者ギルドへ戻ると、三人は奥の部屋へと通された。
500匹のスライムは、ギルドの広い訓練場へ。
さすがに受付カウンターの前へ連れていくわけにはいかない。
そして――。
受付嬢に調査報告の達成だけを告げ、奥の部屋へ。
「さて、報告を兼ねての打ち合わせをするけど、その前に……」
シャンティがフロウベルを見る。
「フロウベル」
「はい?」
「ちょっと座りなさい」
シャンティが椅子を指差した。
フロウベルは素直に座る。
その隣にリンナも座った。
「なんか……怒ってます?」
「怒ってないわよ。」
「本当ですか?」
「ええ」
シャンティはにっこりとほほ笑む。目は笑ってない。
「ただ、反省会をするだけよ」
「……」
「……」
フロウベルとリンナが顔を見合わせる。
「それ、ほぼ怒ってるじゃん……」
リンナが小声で呟いた。
「フロウベル。あなた自分の召喚士として能力、どれくらい把握しているの?」
「と、言いますと?」
なんで、そんなことを聞くの?って首を傾げるフロウベル。
額に手をあて、俯き加減でため息を漏らすシャンティ。
傍観者を決め込むリンナ。心の中で『なるべく発言しないでかかわらない』と決めている。
しばらくして顔をあげ、
「まず、今回の出来事を大雑把に振り返っても、あなたの能力が事態の収束に大きく貢献した」
「え、そうですか? シャンティさんの交渉とかがあったからですよね。」
シャンティは机の上に資料を広げた。
「森の魔物が異常に強くなっていたことから始まった今回の調査……」
「はい」
「整理すると、これだけのことが起こったわ。
1つ目、森の中で大量の魔力溜まりを発見。
2つ目、ワイバーンとの遭遇。
3つ目、魔族のアスタと遭遇。
4つ目、魔力溜まりを作成し、利用していたアラクネと遭遇。
5つ目、アラクネとの交渉と、狩猟場の範囲の取り決め
6つ目、アラクネとワイバーンの召喚獣化。」
ここまで、一気に話し、一息つきフロウベルに告げる。
「異変調査依頼で、なんで、こんなにいろんなことが起こるのよ!しかも、
ほとんど、あなたが首ツッコんで……」
「イベント回収ですかね?」
さらっと答える、フロウベル。
「違うだろ!って、なんだよ、その、いべんと回収って?」
思わず、ツッコミをいれてしまったリンナ。
「さぁ、なんとなく頭の中に言葉が浮かびました。よくわかりません。」
さらに続けて、
「でも、ワイちゃんやアラクネさんと遭遇したのは私のせいじゃないですよ?」
「『遭遇』って言葉だけで片付けたら、あなたのせいじゃないわ。」
「でも、そのあと、グリフォンを召喚して、ワイバーンをスライムと一緒に抑え込んだり、
そのワイバーンやアラクネを召喚獣にしたのは、どこの誰よ!そもそもそれだっておかしいわよ!」
段々と興奮し声を荒げるシャンティ。
「まぁ、召喚士ですから。召喚でできることで解決できるなら……」
「お前のその認識がおかしい。なんでも『召喚士』で片付けんな」
リンナもツッコむ。
「そうですか?」
「私も長くは生きてるし、エルフにも召喚士はいました。どんなに魔力や知識をもった人でも、契約できたのは2~3体。しかも大きさによってその数も限られてましたよ?」
「それに、同じ種の個体がたくさんいる場合、特定の個体を召喚するのは難しいんでしょう?」
これは、以前にフロウベルがリンナに話していたことがある。
ベヒモスやカーバンクのように1体しか存在しないという個体は別として、アラクネやワイバーンのような個体数があるものは、次の召喚で同じ個体が召喚されるかわからないと。
「……そ、それはですね、わ、私だからですよ、きっと。たはは……」
シャンティの目が光る。
「言いなさい。隠していることを!洗いざらい、ほら、いま、早く!」
「ちょ、ちょっと、横暴ですよ! シャンティさん!!」
シャンティの剣幕に、涙目で叫ぶフロウベル。
肩で息をしながら、落ち着きを取り戻したシャンティ。
「……ごめんなさい。少し興奮してしまったわ」
シャンティは深く息を吐き、声を落とした。
「あなたの能力は謎が多すぎる。それに、これだけ目立っていると、悪用しようとする人間が出てきてもおかしくないの」
「だから、あなたを守るためにも、話せる範囲で教えてほしいのよ」
シュンとしているフロウベル。
「私やリンナ、王都ギルマス、王様が知っていれば、守ることも、あなたの行動を注意することもできる」
フロウベルは口を開く。
「わ、私は、籠の中の鳥は嫌です……」
シャンティは、最初何を言っているのかわからなかったが、ふと気づき告げる。
「あなたの行動制限とかはしないわ。いえ、させないわ。」
シャンティは優しく声をかける。
「それに、そんなことしたって、あなたが持つ能力で逃げ出せるでしょ」
フロウベルに向かって、にっこりと微笑む。
「シャンティさん……」
「だから、話せることだけでいいから、教えて」
「……はい」
フロウベルが語り出す。
「幼いころから、よく見る夢があるんです。」
「夢」
それは、以前、フロウベルが王様に語った内容をシャンティにも聞かせる。
「その夢のために召喚士になったと?」
「大きな理由それなんですが……」
「何か他にあるの?」
「たぶん、こっちがシャンティさんが知りたい謎の部分だと思います。私、実は5歳ころから、召喚ができちゃいまして……」
「へ?」
ありえない……シャンティは混乱する。召喚は他の魔術より魔力を使う。5歳児の体では、どんな小さな魔物でも、召喚を行おうとした時点で枯渇してしまう。
「……その時は、何を召喚したの」
「えっとですね、アースドラゴンの幼体を……今じゃ立派な成体ですけどね。」
だんだん、元のテンションに戻ってくるフロウベル。
シャンティは段々と沈んでいく。
「で、召喚すると、いつも同じ個体が来るんです。どうしてなのかは分かりません。でも、召喚について学んだときに、それが普通じゃないと気づいたので、ずっと秘密にしていました」
続けて、
「それと、魔力の消費量がわかりません。召喚するときは確かに魔力を使ってますけど、契約後は、ほとんど魔力を消費していないみたいなんです。低燃費なんですかね」
他人事のように話すフロウベル。
「聞かなきゃよかった……」
フロウベルは完全にイレギュラーな存在だ。たぶん、自分でも本当にわかってないことが多いのだろう。魔力量の異常性、異常な精度の召喚魔術と召喚契約……ティムと召喚を併せ持ったようなものだ。
「まぁ、その辺に気づいていてくれたのは、僥倖だわ……ん?」
シャンティはあることに気づく。
「あなた、5歳のころからって言ったわよね」
「はい」
「今いくつだっけ?」
「18歳です!」
「あまり聞きたくないのだけど、それまでにどのくらい召喚したのよ。」
「まあ、だいたい一年に一体くらいですかね。今までに十数体くらいです」
シャンティは意外そうな顔をして、
「あら、思ってより全然少ないわね。貴方の事だから、無我夢中で召喚しまくってそうだけど」
「失礼ですね!一応、1体召喚したら、その召喚獣について研究していましたから。今もみんな元気にしてますよ」
にこやかに答えるフロウベル。
「そ、そうなのね。」
引きつった笑顔のシャンティ。
「あとは、あのスライムたちは別ですが、今まで召喚した子達とは、『念話』っていうんですかね、それが可能で、召喚してなくても話せます。そのせいでベヒモスさんが、ちょっとうるさいですけど……」
「……もう、なんでもありだわね。スライムたちとはダメなんだ。なんか意思疎通してるように見えたけど?」
「ええ、なんか、こう、スライムさんは『言葉』って感覚でなく『意思』そのものが伝わってくる感覚なんですよね。なので500匹は研究対象としていい材料なんです」
にこやかにひどいこと言うフロウベル。
シャンティは額に手を当てる。
「……まあいいわ。あなたの異常性はわかったし」
「はい」
「で、王都には、あなたが召喚獣を複数所有し、その中にアラクネもいることを伝えるくらいにするわ」
「有難うございます。」
シャンティは、この日、何度目かの溜息をつきながら、
「はぁ…… 今回の件で、森の異変そのものは一応解決。王都には、
アラクネには狩猟場の件。
魔力溜まりについても、アスタが処理する。
フロウベルの件。
以上を報告するわ。これで、魔物が街の近くまで流れてくる危険も、今までよりは減るでしょう」
「はい」
シャンティは一度、資料に目を落とした。
リンナもほっとしたように息を吐く。今まで置物のように傍観していたが、緊張はしてたみたいだ。
「まあ、フロウベルって、無茶はするけど悪気はないのよね」
「失礼ですね。私はいつだって真面目です!」
「そこが余計に怖いのよ」
「えぇ……」
少し空気が和らいだところで、シャンティがふと思い出したように口を開く。
「500匹のスライムについて、ちょっと気になることがあるんだけど」
フロウベルが瞬きをする。
「スライムですか?」
「ええ」
「何が気になりますか?」
「ゴーレムを召喚しようとして、500匹のスライムが召喚されたのよね?」
「……はい、あれは失敗でした」
フロウベルは首を縦に振り頷く。
「本当に?」
「ゴーレムじゃなく、スライムですよ、失敗じゃなかったら何なんです」
フロウベルは渋い顔しながら答える
「……あのスライムたち、本当に普通のスライムなの?」
「普通ですよ?」
「……あなたがそう言うなら、今はそういうことにしておくわ」
シャンティはため息をついた。
フロウベルがスライムたちを見る。
訓練場の向こうでは、500匹がのんびりと、
「ぷるぷる」
「ぷるっ」
「ぷるん」
と揺れていた。
「まあ、スライムについては今すぐ結論を出せるものでもないわね」
シャンティは資料を閉じる。
「今回の件は、私から王都へ正式に報告することになるでしょう」
「お願いします!」
フロウベルは素直に頭を下げた。
「今回の森の異変については、ギルドマスターとしても報告義務があるからね」
「はい」
「それに、アラクネとの件もある。今後の狩猟場の正式な範囲について、王国側との調整も必要になるでしょう」
「なるほど」
フロウベルは頷く。
その横で、リンナがふと思いついたように言う。
「じゃあ、私たちはもう帰っていいの?」
「報告書をまとめるまではね」
「ですよねー……」
リンナが肩を落とした。
――そして数日後。
「暇ですねぇ……」
「暇だね……」
訓練所の片隅で、スライムをベッドにしながら横たわってるフロウベルとリンナ。
シャンティから、連絡があるまで、エルミドから出るなと言われている。
「グリちゃんとワイちゃんをここに召喚させて訓練します?」
「……やめて、瞬殺されるから」
手を振って断るリンナ。
「カーちゃんがいるから、怪我しても大丈夫ですよ」
にこやかで邪悪な笑みを浮かべるフロウベル。
「カーちゃんの力でどこまで治せるか実験したいんですよ」
「私で試すな!」
そこに、受付嬢が声をかける。
「ギルドマスターがお呼びですよ」
二人は顔を見合わせ、執務室へ向かう。
「……来たわね」
ギルドの執務室。
シャンティの手元には、一通の封書があった。
王家の紋章が刻まれた封蝋。
明らかに普通の手紙ではない。
「なんですか、それ?」
フロウベルが覗き込む。
「王都からよ」
「王都……?」
「ええ」
シャンティは封を切る。
中から出てきたのは、王国からの正式な書状だった。
「王都冒険者ギルド所属、フロウベル」
「はい」
「今回の森における一連の事件について、王国として事情を確認したいとのこと」
「……」
「王都への召集命令よ」
「召集……」
フロウベルが呟く。
そして――。
「面倒くさいなぁ……王様に会うのはうれしいけど」
フロウベルの目がハイライトになっている。
「ど、どうしたの!?」
リンナが心配そうに声をかける。
「だって、前回の謁見の時のあの貴族……(怒)」
召喚獣を兵器扱いしようとした貴族を思い出し、怒りを思い出す。
「あ、あれね。今回は大丈夫だろう、きっと。王様か宰相様が話をしてると思うよ」
リンナが宥める。シャンティが首を傾げ、
「なにかあったの?」
リンナが前回の謁見で会ったことを説明する。
「みんなを、ただの兵器みたいに扱おうとしたんです」
怒りながら訴えるフロウベル。
シャンティは書状を持ったまま、深いため息をついた。
「それは、怒るわね…… 本当に大丈夫なのかしら」
「まぁ、また言ってきたら、アラクネさんの狩猟場に放り込みます」
フロウベルは笑顔で答える。
「「やめて!」」
シャンティとリンナの叫びが重なった。
「ふふふ、もし同じことを言ってきたら、覚悟しろよ、あの馬鹿貴族!」
前回の謁見を思い出し、怒りをあらわにするフロウベル。
「……その言葉、今は聞きたくないわ」
シャンティは深いため息をついた。
こうして、フロウベルとリンナは再び王都へ向かうことになった。
シャンティはエルミドに残り、今回の事件の正式な報告と、アラクネの狩猟場に関する調整を進める。
「それじゃあ、シャンティさん。報告、よろしくお願いします!」
「ええ。あなたたちも、王様の前で余計なことをしないようにね」
「はい!」
「……本当に分かってるのかなぁ」
リンナは不安そうに呟いた。
その不安が的中するかどうかは、王都に着いてからのお楽しみである。




