第10話 悪魔の名前。 お前はディ・・・!(フ) やめなさい、版権がからむ!(リ)
魔力溜まりの前で、悪魔は黙々と魔力を集めていた。
その姿を、フロウベルたちは少し離れた場所から眺めている。
「……なんか、普通に馴染んでますね」
「馴染んでないわよ」
リンナが即座に否定する。
「そもそも、なんで私たちは悪魔の作業を眺めてるのよ」
「冒険だからです!」
「その一言で全部片付けないで!」
「一応、魔力溜まりが減少していくことが確認できれば脅威も減るだろうしね。」
シャンティが答える。
フロウベルは気にする様子もなく、悪魔のほうを見る。
「そういえば、まだ名前を聞いてませんでしたね」
「……名前?」
悪魔が振り返る。
「はい。ずっと『悪魔の人』じゃ呼びにくいですし」
「確かに」
シャンティも頷く。
「あなた、名前は?」
「……俺の名は」
悪魔は一度、目を閉じた。
そして、ゆっくりと振り返る。
「アスタ」
「アスタさんですね」
「……ああ」
「よろしくお願いします、アスタさん!」
「よろしく……」
少し照れたように、アスタが答える。
その様子を見て、リンナが小声で呟いた。
「……普通にいい人なのよね」
「だから言ったじゃないですか」
フロウベルが胸を張る。
「なんであんたが、無い胸を張るかはわからないけどね。」
「……一度、きっちり語り合おうじゃないですか。そのスライム胸、潰します!」
フロウベルがリンナの胸をビシッっと指差し、目が据わった状態で口走る。
「はいはい、やめなさい。リンナも私を敵に回したいのかしら? わ・た・し・も、ない胸を張ることあるんだけれどぉ?」
リンナは、自分の失態を悟り、素直にシャンティに謝る。
「すみませんでした」
アスタは少し困ったように三人を見る。
「……俺、そんなに変か?」
「変ですね!」
フロウベルが即答する。
「お前にだけは言われたくない!」
アスタが初めて声を荒らげた。
「……あ」
「……」
「……すみません」
「いや、こっちこそ……」
二人が同時に謝る。
リンナが頭を抱えた。
シャンティはため息をつきながら、魔力溜まりへ視線を戻す。
「それより、確認したいことがあるわ」
「なんですか?」
「アスタ。あなたがこの森で魔力を集め始めたのは、いつ?」
「……少し前だ」
「この魔力溜まりは、その前から存在していた?」
「もちろん」
アスタは即答した。
「俺が見つけたときには、すでにあった。じゃなきゃ通り過ぎてる」
シャンティの表情が変わる。
「どのくらい前から?」
「そこまでは分からない」
「魔力溜まりが発生した瞬間を見たわけではないのね?」
「ああ」
シャンティは考え込む。
「……つまり、何か他の原因がある可能性が高い」
「……なるほど、確かにな。この魔力溜まりは自然なものではない」
アスタが答える。
「あなたもそう思う?」
「ああ、この魔力、混じりっ気のない純粋なものが多すぎる」
「やっぱりね。」
リンナが不思議そうな顔をして聞いてくる。
「それって、どういうことですか?」
「ぶっちゃけ、誰かが意図的に作ったものってこと」
シャンティがしかめっ面しながら答える。
「基本、自然にできた魔力溜まりは、混じりあうものが多く、魔力として使える部分はほんの少しだ。」
アスタが説明する。
「だから魔力溜まりができたくらいじゃ、異変は起こらない」
シャンティが話を引き継ぐ。
「でも、この森にできている魔力溜まりは、アスタが喜ぶほどに魔力の塊なのよ。」
なるほど、と言った感じでフロウベルが、
「ああ、確かに私の感覚でも、ここなら大規模召喚魔術が成功しそうな気がします!」
いうな否や、魔法陣を展開し始めるフロウベル。
「やめなさい!」
慌てたシャンティが、フロウベルの頭をひっぱたく。
強制的に魔法陣の展開を止められ、頭を抱えてうずくまる。
「……いったぁ。何するんですか、シャンティさん!」
「あんたが、いきなりバカげたことしようとするからよ!」
「バカげたことじゃありません!浪漫です!」
フロウベルの返答に、呆れた声で、
「今はとにかくやめなさい。何かに引きつられて森の奥から出てくるかもしれないから」
「……はぁい」
渋々である。
「アスタも作業続けていいわよ」
既に場を仕切っているシャンティ。さすがは年長者である。
◇
しばらく、場所を移動しながら、魔力溜まりを見つけては作業するアスタ。見守る三人。
「ある程度、溜まったが、まぁ、さすがにまだ、莫大な力がってわけにはいかないな。」
「なら、もう少し奥に行ってみる?」
シャンティが声をかける。
「無論だ。魔力はいくらあってもよい。それに、この魔力溜まりがあり続けると森の魔物が異常になるな放ってはおけん」
「そこ、そんなに気にしてたんですか?」
フロウベルが首を傾げる。
「そりゃ気にするだろ!」
アスタが振り返る。
「俺は魔王を目指しているが、無関係だからといって、放っておくことはできん。」
その言葉に、シャンティが少しだけ表情を緩めた。
「それなら話は早いわ」
シャンティは周囲を見渡す。
「アスタが作業している間、この森で起きていることをもっと調べましょう」
「はい!」
フロウベルが元気よく手を挙げる。
「ああ、やっと体が動かせるのか」
リンナは退屈していた、なので言ってしまった。
「さっさと終わらせて帰ろう。」
フロウベルが、
「リンナさん……フラグ立てましたね?」
「え!? なに?」
すると――。
ぷるっ。
一匹のスライムが、三人の前へやってきた。
「ん?」
フロウベルがしゃがみ込む。
「どうしたんですか?」
ぷるぷるっ。
スライムは、森のさらに奥を向いた。
そして――。
ぴょん。
一度だけ跳ねた。
「……奥に何かある?」
フロウベルが呟く。
「何かあったの?」
シャンティが聞く。
「奥に何かいるみたいです」
「また勝手に動いていたのか……」
リンナがスライムを見る。
その後ろでは、他のスライムたちも次々と同じ方向を向き始めていた。
「……何がいるの」
シャンティが呟く。もうスライムの行動に関しては気にしない。
500匹。
誰にも命令されず、行動する。
主には従順な召喚獣。フロウベルとその召喚獣に関してはそういうものとシャンティは割り切った。
アスタも、その光景を見つめていた。
「……なんで、あいつらは勝手に行動している?」
「私の召喚獣です!」
フロウベルが自慢げに答える。
「いや、そうじゃなくて……」
アスタはスライムたちを見つめる。
そして、なぜか背筋に冷たいものを感じた。
「……やっぱり、なんとなく怖い」
「なんとなくですか?」
「なんとなくだ」
フロウベルは不思議そうに首を傾げる。
「変なの」
「お前にだけは言われたくない!」
森の奥から、風が吹いた。
木々がざわめく。
そして――。
地面の奥から。
かすかに。
ゴゴゴゴゴ……。
何かが動くような音が響いた。
フロウベルの目が輝く。
「……何かいますね!」
リンナは剣に手をかけた。
シャンティも魔法の準備をする。
アスタは――。
「……俺、帰っていい?」
「駄目です」
三人の声が重なった。
そして500匹のスライムたちは、森の奥を見つめたまま、一斉に跳ねた。
――ぷるっ。
森の異変の元凶がやってくる。




