第6話 森の奥……さぁ、一狩り行こうぜ!(フ) 違うわ!(リ)
翌日。
フロウベルたちは、再び森へ向かっていた。
昨日と違うのは、メンバーが一人増えていること。
「……本当に来るんですか?」
フロウベルが隣を歩くシャンティを見る。
「ええ。今回の件は、私自身が確認したほうがいいと思って」
「そうですか! じゃあ安心ですね!」
「……なぜ?」
「味方が増えました!」
「……そういう意味ではそうだけど、なるべく戦闘は避けたいわよ」
『味方』を素直にとらえ、シャンティが困ったように答える。
もちろん、フロウベルもそういう意味での『味方』ではない。
その後ろでは、リンナがため息をついていた。
「フロウベル。あんた、シャンティさんのこと本当に何も分かってないでしょ」
「ちゃんと分かってますよ?」
「何を?」
シャンティとリンナのある一部を見比べて、
「シャンティさんは、味方です!」
「私は!」
「私も今の気になるわね……」
笑顔だがこめかみに怒りが見えるシャンティ。
そしてそのさらに後ろには――
ぷるぷる。
ぞろぞろ。
500匹のスライムたちが続いている。
カーバンクルは、フロウベルの肩の上。
「きゅっ」
どうも緊張感なく、今日も平和そうである。
少なくとも、見た目だけは。
◇
森へ入る。
昨日と同じ道を進み、オーガの亜種が現れた場所へ向かう。
途中、シャンティは何度も足を止めた。
「……おかしいわね」
「何がですか?」
「この森は、オーガが出ること自体は珍しくないの。それが亜種だとしても」
「そうなんですか?」
「ええ。ただ、昨日の個体がいた場所が問題なのよ」
シャンティは周囲を見回す。
木々。
草。
岩。
どこにでもあるような森の風景。
しかし――。
「オーガのような強い魔物は、普通ならもっと森の奥にいるはずなの」
「じゃあ、昨日のオーガは迷子ですか?王都のお父さんを目指して……」
「そのネタやめろ!」
リンナがツッコミながら、軽くフロウベルの頭をはたく。
はたかれた頭を押さえ、涙目でリンナを見て
「ちょっとした、冗談じゃないですか。」
「……何のことかはわからないけれど」
シャンティはしゃがみ込み、地面を見る。
そこには大きな足跡が残っている。
「この足跡……」
「オーガですよね?」
「ええ。でも、それだけじゃない」
少し離れた場所。
木の幹には、何かに引っかかれたような傷。
さらにその先には、何本かの木が同じ方向へ倒れている。
「戦った跡……?」
リンナが周囲を見る。
「それにしては変ね」
「何が?」
「魔物同士が争ったなら、もっといろんな痕跡が残るはず。でも、ここには一方向へ逃げたような跡が多い」
シャンティが立ち上がる。
「そう。だから私は――」
一瞬、森の奥を見る。
「何かから逃げてきた可能性を考えているの」
「あの亜種が? 何かって……?」
リンナが聞く。
「まだ分からないわ」
シャンティの表情が少し険しくなる。
「ただ、昨日のオーガが原因ではなく、もっと奥で何かが起きている可能性がある」
「なるほど!」
フロウベルが手を叩く。
「じゃあ、探しましょう!」
「……話が早いわね」
「冒険者ですから!」
「その言葉で全部片付けないでほしいのだけれど」
◇
「みんな!」
フロウベルが声をかける。
500匹のスライムが一斉に動き出した。
ぷるぷる。
ぞろぞろ。
森のあちこちへ散っていく。
「……」
シャンティがその様子を見ている。
「命令は、それだけ?」
「はい!」
「何を探すか、具体的には?」
「いえ、何も?」
首を傾げるフロウベル。
「……え!?じゃあ、あのスライムたちは、何を始めたの?」
「森の中に変なものがないか探してます!」
どうも話がかみ合わない。
「えーっと……命令してないのよね?」
「はい!」
「じゃあ、なんでスライムが『探しもの』しているの?」
「……そう言われてみると、そうですね? まぁ、私の『スライム?』だからじゃないですか」
答えになってないのだが、堂々と答えるフロウベル。
シャンティはスライムたちを目で追う。
木の根元。
草むら。
岩陰。
小さな洞窟。
500匹のスライムが、それぞれ別々の場所を調べていく。
「なぜ……?」
「便利でしょう?」
フロウベルが(慎ましい)胸を張る。
「……そうね」
シャンティは答えながらも、どこか釈然としない表情だった。
しばらくして――。
ぷるっ。
一匹のスライムが戻ってきた。
「おかえりなさい!」
フロウベルがしゃがみ込む。
「どうしました?」
スライムがぷるぷると揺れる。
そして、森の奥を指すように跳ねた。
「あっちですか?」
ぷるっ!
「分かりました!」
フロウベルが立ち上がる。
「みんな、あっちに何かあるみたいです!」
「……」
シャンティがスライムを見る。
そしてフロウベルを見る。
「今の……」
「はい?」
「その子、何か会話……いえ、念話でもしたの?」
「いえ? なんとなくです。」
「……」
シャンティは黙った。
「なぁ、フロウベル?」
たまらず、リンナが声をかける。
「はい?」
「そのスライムたちとの意思疎通って……」
「私のやりたいことを、スライムさんたちが汲み取ってくれてる感じですかね」
朗らかに、答えるフロウベル。
「……そう」
シャンティは何とも言えない顔をした。
◇
スライムの案内で、森の奥へ進む。
そこには――。
黒く変色した地面があった。
「これは……?」
リンナが近づく。
シャンティが手をかざす。
「魔力の痕跡…いえ、完全に『魔力溜まり』になってるわね」
「魔力溜まり?」
「ええ。魔力が一点に溜まり続けている状態よ。 それも、かなり濃い」
シャンティは周囲を調べる。
「ここだけ、森の魔力の流れがおかしい」
「何かがいたんでしょうか?」
「その可能性は高いわね」
フロウベルは地面を見つめる。
「じゃあ、この辺に何かいるんですか?」
「分からない」
シャンティが答える。
「でも、少なくとも昨日のオーガとは別の何かがいる可能性はある」
その瞬間。
ガサッ。
「!」
全員が振り向く。
森の奥。
木々の間で、何かが動いた。
リンナが剣に手をかける。
シャンティも魔力を集中させる。
フロウベルは――。
「おほっ! 何かいますね!」
なぜか嬉しそうだった。
「嬉しそうにするな!」
リンナが叫ぶ。
500匹のスライムたちも、一斉に森の奥を見る。
ぷる。
ぷるぷる。
まるで何かを待っているように。
「……」
シャンティがスライムたちを見る。
「フロウベル」
「はい?」
「あなた、あの子たちに何か命令した?」
「いいえ? 臨戦態勢とってねとは、思いましたが」
「……そう」
シャンティは森の奥へ視線を戻す。
そして――。
ドン。
地面が、小さく揺れた。
「……何か来るわ」
リンナが剣を抜く。
フロウベルは目を輝かせた。
「冒険の続きですね!」
「だから、そこで喜ばないでってば!」
森の奥から。
もう一度、大きな音が響いた。
ドン――。
そして。
何かが、ゆっくりとこちらへ近づいてきていた。




