第4話 依頼受注(ギルド長は、いやいやだが…)
翌朝。
フロウベルたちは、再び冒険者ギルドを訪れていた。
もちろん、500匹のスライムと一緒に。
「おはようございます!」
「おはよう」
受付の職員が少しだけ引きつった笑顔を見せる。
昨日一日で、ギルド内にはすっかり500匹の存在が定着していた。
ただし、慣れたわけではない。
シャンティが、奥から現れ、
「ひとつ、聞いてもよいかしら?」
「なんでしょう?」
首を傾げるフロウベル。
「その子たち、どこで寝泊まりしたの?」
シャンティが、にっこり笑って聞く。目の奥は笑ってないが。
そんな目のことなど気付かず答えるフロウベル。
「宿屋です!おかみさんが快く受け入れてくれましたよ」
リンナが苦笑しながら、
「割増料金をきっちり取られてたけどな」
その言葉に憮然としながら、
「それは、しょうがありません。さすがに私もただじゃ気が引けます」
会話聞きながら、眉間に皺を寄せるシャンティ。
「あのね。宿屋から苦情が来てたわよ。急にあんな大量のスライムも泊めろなんてって」
リンナが、さらに苦笑しながら、
「まぁ、フロウベルも悪いけど、お金はきっちり払ったんだから、文句言うのも筋違いだと思うけどね」
「そうですよ。100匹金貨1枚、全部で5枚も払ってるんですよ。」
それを聞いて、首を傾げるシャンティ。
「あれ、おかしいわね。苦情で慰謝料だってギルドからお金払ったのに」
「ああ、おかみさんにやられたね」
シャンティの顔から表情が消える。
「あの宿屋、潰すわ」
その声に軽い悲鳴をあげるフロウベルとリンナ。
いきなり、物騒である。
「それとフロウベル」
「は、はい!」
「この街にいる間は、ギルドに泊まりなさい。スライムたちは訓練所の片隅にでも居てもらって」
「は、はい!了解したであります」
『逆らっちゃいけない』そう心に刻むフロウベルとリンナ。
周囲の人間も同じことを思う。
「で、今日は、ここで依頼を請けるのかしら」
「そ、そうであります!」
まだ、緊張感が抜けないフロウベル。
「今日はどんな依頼がありますか?」
リンナがとりあえず聞く。
「いくつかあるわ」
シャンティが依頼書を持ってきた。
「街道周辺の魔物討伐」
「うーん……」
「薬草採取」
「うーん……」
「商隊の護衛」
「まだ、どこかに行きたくありません。」
「そうね」
シャンティは別の依頼書を取り出した。
「では、これ」
フロウベルが依頼書を見る。
「森で行方不明になった採集者の捜索?」
「ええ」
「この街の近くの森ですか?」
「そうよ」
リンナが依頼書を覗き込む。
「採集者って、一人?」
「三人組よ。昨日の夕方から戻っていないの」
「結構危ないんじゃない?」
「可能性はあるわね」
シャンティは淡々と答える。
「だから捜索依頼になっているの」
「シャンティさんは行かないんですか?」
フロウベルが尋ねる。
「私はギルドマスターよ」
「?」
「ギルドマスターが依頼に出ていたら、ギルドが留守になるでしょう?」
「ああ、なるほど!」
フロウベルは納得した。当たり前のことが抜けてるところがフロウベルたる所以である。
リンナは小さく頷く。
「まあ、正論ね」
「それに」
シャンティは森の方を見る。
「私はこの辺りの森には詳しいけれど、捜索には人手が必要なの」
そして500匹のスライムを見る。
「……あなたたちなら、かなり役に立つかもしれないわ」
フロウベルの目が輝いた。
「お手の物ですよ!やります!」
「決まりね」
「任せてください!」
「ただし」
シャンティが釘を刺す。
「森の中で勝手に何かを倒さないこと」
「……なんで?」
バトルジャンキー化してきたのかフロウベル。やたら戦いたがる。
「緊急事態になったら、悠長なこと出来ませんよ?」
「なるべく、自分たちから仕掛けないこと。分かった?」
目が据わるシャンティ。
「イ、イエッサー!」
「特に、何か分からないものを見つけても、まず私たちに知らせること」
「はい!」
「本当に?」
「はい!」
リンナが横から口を挟む。
「私も一緒に行くので大丈夫です」
「そうね」
シャンティはリンナを見る。
「あなたが一緒なら、少し安心できるわ」
「ですよね!」
リンナが胸を張る。
ぷるんと揺れる。ジト目で見るフロウベル。
『あのスライム、もぎ取ってやろうか』
「私、これでもCランクですから!」
「……フロウベルのお目付け役として?」
「はい!」
「それは大変ね」
「本当に……わかってくれる人がいた……」
涙目になるリンナ。
「リンナさん!」
フロウベルが抗議する。
シャンティは少し笑った。
「では、よろしくお願いするわ」
「はい!」
フロウベルが元気よく返事をする。
500匹のスライムも、
「ぷるっ!」
一斉に動いた。
◆
街を出る。
目指すのは、街の西に広がる森。
「また、あの子たち使って探すの?」
リンナがスライムを指さし尋ねる。
「え?」
「三人を探すんでしょう?」
「はい、みんなに探してもらいます」
フロウベルは500匹を見る。
リンナも500匹を見渡した。
「普通に考えたら、それが一番早いのよね……」
「ですよね!」
「なんか納得いかないけど」
森へ入る。
フロウベルが命令する。
「みんな、探してください!」
500匹が一斉に森の中へ散っていった。
「ぷるっ!」
「ぷるぷる!」
「ぷるっ!」
木々の間。
草むら。
岩陰。
小さな洞窟。
それぞれが別々の場所へ進んでいく。
リンナはその光景を眺めていた。
「……これ、私たち必要?」
「必要ですよ!私が命令しないと探さないでしょ。」
「まぁね」
「じゃあ、待ちますよ」
「……私、これで報酬貰えていいのだろうか」
しばらくして。
「ぷるっ!」
――リンナの胸の揺れではない。
一匹のスライムが戻ってきた。
「どうしました?」
フロウベルがしゃがみ込む。
スライムが何度か跳ねる。
「……向こうですか?」
「ぷるっ!」
「分かりました!」
フロウベルが立ち上がる。
「見つけたみたいです!」
「早っ!」
リンナが叫んだ。
二人がスライムについていく。
しばらく森を進む。
すると――。
「いた!」
木の陰。
三人の採集者が倒れていた。
「大丈夫ですか!?」
フロウベルが駆け寄る。
三人とも意識はある。
怪我も軽い。
「よかった……」
リンナが安堵する。
「どうしてこんなところに?」
「魔物に追われて……道が分からなくなってしまって」
「なるほど、カーバンクル、みんなを治してあげて」
カーバンクルが光輝き、負傷者を治す。
フロウベルは周囲を見る。
「魔物は?」
「……分からない。途中でいなくなったんだ」
「そうですか」
フロウベルは500匹を見る。
「みんな、ありがとう!」
「ぷるっ!」
500匹が嬉しそうに跳ねる。
リンナは三人と500匹を交互に見た。
「……捜索、終わっちゃったわね」
「はい!」
あまりにも早かった。
そのとき。
森の奥から。
ガサッ。
三人の採集者が怯えた。
「……魔物か?」
リンナが剣に手をかける。
フロウベルも森の奥を見る。
500匹のスライムも、一斉にそちらを向いた。
「ぷるっ……」
いつもの鳴き声とは少し違う。
リンナが眉をひそめた。
「……何かいる?」
「みたいですね」
フロウベルが笑う。
「じゃあ――」
彼女は一歩前に出た。
「冒険の続きですね!」
500匹のスライムが、一斉に前へ進んだ。
森の奥で、何かが動いた。




