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伝説の召喚士、禁断の召喚術を試す ・・・500匹のスライムどうする?  作者: てるるん
第1章 若き召喚士、伝説の入り口に立つ(いきなりやらかしすぎです)
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第2話 五百匹のスライム、どうする?

翌朝。


 王国魔法研究所、第一大型召喚実験場。


 昨日まで巨大な魔法陣が描かれていた床には、現在――。


「ぷるっ」


「ぷるぷる」


「ぷるん」


「……」


「……多すぎません?」


 研究員の一人が、遠い目をしていた。


 実験場いっぱいに、五百匹のスライムがいる。


 青くて、丸くて、手のひらほどの大きさ。


 昨日と何も変わっていない。


 ただし――。


「なんで一晩たったら、さらに増えたように見えるんでしょう……」


「増えてませんよ」


 そっけなく答える、フロウベル。


「昨日からずっと五百匹です」


「そういう意味じゃないんです」


「?」


 フロウベルには、研究員の言いたいことがよく分からなかった。


 彼女の目の前では、五百匹のスライムがぎゅうぎゅうに集まっている。


 まるで青い絨毯だった。


「で……」


 研究員が、おそるおそる口を開く。


「この子たち、どうするんですか?」


「どうするって……」


 フロウベルはスライムたちを見た。


 スライムたちも、フロウベルを見る。


「ぷるっ」


「ぷるぷるっ」


「…………」


 しばらく考える。


「食べます?ゼリーみたいで美味しいかもしれませんよ?」


あくまでも真剣にまじめに話す、フロウベル。


「食べませんよ!」


 また、考え込むフロウベル、出た言葉は、


「……どうしましょう?」


「いや、私に聞かれても!」


 研究員が頭を抱えた。


「研究所で飼うわけにもいきませんよ!」


「でも、私の召喚獣ですよ?」


「そうなんですよ!」


「じゃあ、私が連れていけばいいんじゃないですか?」


「……五百匹ですよ?」


「五百匹ですね」


「普通、召喚士が連れて歩く召喚獣って、一匹とか二匹とか、多くても数匹ですよ?」


「そうなんですか?」


「そうなんです!」


 フロウベルは腕を組んだ。


 冒険者も兼ねているというのに、こういうところには妙に疎い。


「うーん……」


 改めて、五百匹のスライムを見る。


 昨日は失敗したと思っていた。


 伝説のゴーレムを召喚するはずだった。


 それなのに出てきたのは、普通のスライム五百匹。


 どう考えても、成功とは言えない。


「……でも」


 フロウベルが呟く。


「せっかく召喚したんですから、ちゃんと面倒を見るべきですよね」


 研究員たちが顔を見合わせた。


「フロウベルさん……」


「?」


「そこだけは、まともなんですね」


「そこだけって何ですか!」


 フロウベルがむっとする。


「私はいつだってまともです!」


「禁術を試した人の台詞じゃないですよ」


「理論上は可能だったんです!」


「またそれですか!」


 研究員たちの間に、ため息が広がった。


 そんな中。


 フロウベルは、ふと思いついた。


「そういえば……」


 杖を持ち直す。


「この子たちって、私の命令をちゃんと聞くんでしょうか?」


「そこは確認しておいたほうがいいでしょうね」


「じゃあ、やってみます」


 フロウベルは五百匹のスライムに向き直った。


「みんな!」


「ぷるっ!」


 五百匹が一斉に反応した。


「……おすわり」


 ぴたり。


 五百匹のスライムが、その場で止まった。


「…………」


 研究員たちが固まる。


「待ってください」


「はい?」


「今、全員止まりました?」


「そうみたいですね」


「五百匹全員?」


「たぶん」


 研究員の一人が慌てて数え始める。


「一、二、三……」


 しばらくして。


「……五百です」


「すごいですね」


 フロウベルは普通に感心した。


「次は……」


 少し考える。


「並んで」


 すると。


 ぷるっ!


 五百匹が一斉に動き始めた。


 右へ。


 左へ。


 少しずつ位置を調整し――。


「……」


 ずらり。


 五百匹のスライムが、綺麗な列を作った。


「…………」


 研究員たちは、また黙った。


「これ、普通なんですか?」


 フロウベルが聞く。


「普通なわけないでしょう!」


 研究員が叫んだ。


「ですよね」


 フロウベルは少し安心した。


「じゃあ、次」


 今度は実験場の端を指差す。


「あそこまで移動」


 ぷるっ!


 五百匹が一斉に移動を始めた。


 ぞろぞろ。


 ぷるぷる。


 ぞろぞろ。


 まるで小さな青い軍隊だった。


「……統率が取れすぎてる」


「召喚主との意思疎通も問題なし」


「魔力消費もほぼゼロ……」


 研究員たちが次々と記録を書き始める。


「フロウベルさん」


「はい?」


「もう一つ試してみてもいいですか?」


「もちろん」


 研究員が小さな木箱を持ってきた。


「これを運ばせてみてください」


 フロウベルは木箱を見る。


 それほど大きくない。


「みんな、この箱を運んでみて」


 ぷるっ!


 数匹のスライムが箱へ近づく。


 ぴょん。


 箱の下へ潜り込む。


 さらに別のスライムが集まってきて――。


 よいしょ。


 ぷるぷる。


 木箱が、ゆっくり持ち上がった。


「……」


 研究員たちが目を見開く。


 スライムたちは、よたよたしながらも木箱を運んでいく。


「できましたね」


 フロウベルが嬉しそうに笑う。


「この子たち、思ったより賢いですよ!」


「……思ったよりどころじゃないんですが」


 研究員は頭を抱えた。


「これなら、荷物運びくらいはできそうですね」


「他にも色々試してみましょう」


「まだやるんですか?」


「もちろんです!」


 フロウベルの目が輝いた。


「せっかく五百匹もいるんですから!」


「そこを喜ぶんですか……」


 その後。


 研究所では、奇妙な実験が始まった。


 荷物を運ぶ。


 指定した場所へ移動する。


 狭い隙間を通る。


 フロウベルの周囲を囲む。


 列を作る。


 待機する。


 呼べば戻ってくる。


 命令すれば、ほぼ正確に実行する。


 五百匹のスライムは、次々とその能力を見せていった。


「……」


 最後には、研究員たちも言葉を失っていた。


「フロウベルさん」


「はい?」


「これ……本当に普通のスライムなんでしょうか?」


「普通のスライムですよ、彼らのステータスは見えてますから。『スライム?』って出てます。」


「なんですか、最後の?は……」


 研究員は深いため息をついた。


 そして。


「ですが、やっぱり問題があります」


「何ですか?」


「この五百匹を、どうやって研究所の外へ連れ出すんです?」


「……」


 フロウベルが黙る。


 実験場いっぱいのスライムを見る。


 五百匹。


 改めて数えてみる。


 五百匹。


「……馬車?」


「何台必要になると思います?」


「…………」


 フロウベルは考えた。


 そして。


「歩いてもらいましょう」


「え?」


「みんな、歩いて」


 ぷるっ!


 五百匹が一斉に動き出す。


 ぞろぞろ。


 ぷるぷる。


 ぞろぞろ。


 フロウベルの後ろへ集まっていく。


「……本当に歩いてきましたね」


「ですね」


 フロウベルが歩く。


 五百匹も歩く。


 フロウベルが止まる。


 五百匹も止まる。


 フロウベルが振り返る。


 五百匹も一斉に振り返る。


「…………」


 なんだろう。


 妙に息が合っている。


「……まあ」


 フロウベルは少しだけ笑った。


「これなら、なんとかなるか」


 研究所の出口へ向かう。


 扉が開かれる。


 その先には、王都の街並みが広がっていた。


 フロウベルは一度だけ振り返る。


 そこには――。


 五百匹のスライム。


「みんな」


「ぷるっ!」


「私についてきて」


「ぷるっ!」


 五百匹が一斉に返事をした。


 そして。


 ぞろぞろぞろぞろ。


 五百匹のスライムが、フロウベルの後ろについて歩き始めた。


 研究員たちは、ただ呆然とその姿を見送っていた。


「……冒険者が、スライム五百匹を引き連れて歩いてる」


「前代未聞ですね」


「王都中の噂になるんじゃないですか?」


「……でしょうね」


 こうして。


 伝説のゴーレムを召喚するはずだった召喚士フロウベルは――。


 五百匹のスライムを連れて、冒険の旅へ出ることになった。


 本人は、まだ知らない。


 この五百匹のスライムが――。


 やがて、彼女の人生を大きく変えることになるなど。


 そして。


 五百匹の最後尾で、一匹だけ。


「……ぷるっ?」


 ほんの少しだけ、首を傾げるように揺れたスライムがいた。


 そのことに、まだ誰も気づいていなかった。

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