第1話 伝説の召喚士、禁断の召喚術を試す
この度は、拙い私の作品をお読みいただき、誠にありがとうございます。
作品の詳細をご覧いただければお分かりかと思いますが、実は結構、チャッピーくんに助けてもらいながら執筆している作品です。
まだまだフロウベルたちの冒険は続いていきますので、どうぞ温かい目で見守っていただければ幸いです。
これからも、よろしくお願いいたします。
――王国魔法研究所、第一大型召喚実験場。
王都にある巨大な研究施設。
その一角に設けられた、直径二十メートルにも及ぶ巨大な魔法陣の中央に、一人の少女が立っていた。
長い緑色の髪を二つに束ね、背中へ流している。
小柄な身体に召喚士用のローブをまとった少女――フロウベル、十八歳。
彼女の周囲には、十人ほどの魔法研究員と、実験の安全確保を任された数名の冒険者が立っている。
「……本当に、やるんですか?」
研究員の一人が、不安そうな顔で尋ねた。
「もちろんです」
フロウベルは即答した。
「この召喚術式なら、理論上は可能なんですよね?」
「理論上は、です」
「だったら、試してみればいいじゃないですか」
あまりにも迷いのない返事だった。
研究員たちは顔を見合わせる。
「……それなんですよね」
「え?」
「フロウベルさんの怖いところ」
「どういう意味ですか?」
「『理論上できるなら、試してみればいい』で、禁術に手を出す人はそうそういませんよ」
「でも、できるかもしれないんですよ?」
「そういうところです」
フロウベルは納得できない顔をした。
彼女は、いたって真面目だった。
召喚魔法の修練も、人一倍努力している。
もっと強い魔物を。
もっと珍しい存在を。
いつかは、誰も見たことのないような召喚獣を。
そのためなら、地道な訓練だって苦にはならない。
そんな彼女には、昔から一つの夢があった。
夢の中に、何度も現れる存在。
色鮮やかな装甲を身にまとい、人のような姿をした巨大なゴーレム。
その巨体は空を覆うほど大きく、圧倒的な力を持っていた。
フロウベルは、それを「伝説のゴーレム」だと思っている。
なぜ夢に出てくるのかは分からない。
自分が、なぜそのゴーレムの夢を見るのかも分からない。
ただ――。
「いつか、あれを召喚してみたい」
それだけは、ずっと変わらなかった。
「では、始めます」
フロウベルが杖を構える。
巨大な魔法陣が、青白い光を放ち始めた。
「魔力供給、安定しています!」
「術式第一層、展開!」
「第二層、問題なし!」
「第三層、魔力圧上昇!」
研究員たちの声が飛び交う。
魔法陣の中心に、凄まじい量の魔力が集まっていく。
地面が震えた。
空気が震えた。
周囲の魔導具が一斉に警告音を鳴らす。
「魔力濃度、危険域です!」
「フロウベルさん、今ならまだ中止できます!」
「大丈夫です!」
フロウベルは魔法陣を見つめたまま答えた。
「理論上は、成功するはずですから!」
「その理論上が怖いんですよ!」
次の瞬間――。
ズドォォォォン!!
轟音とともに、魔法陣から猛烈な光が噴き上がった。
「うわっ!」
「防御結界、展開!」
「全員、下がって!」
爆発にも似た衝撃波が実験場を駆け抜ける。
白い煙が、視界を完全に覆った。
数秒。
十秒。
やがて煙が少しずつ晴れていく。
「……どうなった?」
「召喚反応は?」
「魔力反応、確認します!」
研究員たちが魔法陣の中央を覗き込む。
そこには――。
ぷるん。
「…………」
「…………」
「…………」
両手を広げたくらいの、大きさ。
青くて、丸くて、ぷるぷるしたもの。
スライムが一匹、ぽつんと立っていた。
「……スライム?」
フロウベルが呟く。
その瞬間。
ぷるん。
ぷるん。
ぷるん。
「……え?」
魔法陣のあちこちから、次々とスライムが現れ始めた。
一匹。
二匹。
十匹。
五十匹。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
研究員が慌てて数える。
「まだ増えてます!」
「百!」
「二百!」
「三百!」
「四百……!」
そして――。
「五百!」
実験場いっぱいに、スライムがいた。
どれもこれも手のひらほどの大きさ。
青くて、丸くて、ぷるぷるしている。
巨大な魔物でもない。
伝説の怪物でもない。
ただの普通のスライム。
フロウベルは、しばらくその光景を眺めていた。
「…………」
やがて。
「……失敗した」
ぽつり。
「完全に失敗したぁぁぁぁぁぁっ!」
フロウベルの大絶叫が響く。
「いやいやいや!」
研究員が叫んだ。
「五百匹ですよ!?」
「でも、スライムですよ!? ス・ラ・イ・ム!」
「五百匹の魔物を一度に召喚したんですよ!?」
「でもスライムです! ス・ラ・イ・ム!」
「そこじゃありません!」
研究員たちは大騒ぎだった。
召喚術とは、本来、一体の召喚獣を呼び出し、その存在を術者が維持・制御するものだ。
それを――。
「五百匹……同時制御?」
「しかも全個体、召喚主との契約状態を維持しています!」
「魔力消費は?」
「……ほとんどありません」
「そんな馬鹿な……」
研究員たちがざわめく。
一方、当の本人は頭を抱えていた。
「どうして……」
フロウベルは目の前のスライムたちを見る。
「どうしてゴーレムじゃなくて、スライムなのよ……」
すると。
ぷるん。
目の前のスライムが、一歩近づいた。
ぷるん。
隣のスライムも近づく。
ぷるぷる。
さらに後ろのスライムたちも、ぞろぞろとフロウベルのもとへ集まってくる。
「……?」
気がつけば、五百匹すべてのスライムが彼女を取り囲んでいた。
「え?」
フロウベルが一歩下がる。
スライムたちも一歩進む。
「……ちょっと」
フロウベルがさらに下がる。
スライムたちも、さらに近づく。
「なんで……」
そして。
「なんで全員ついてくるのよぉぉぉぉっ!」
研究員たちは、しばらく何も言えなかった。
ただ一人。
実験記録を書いていた研究員だけが、震える手でこう記した。
『大型召喚実験――成功』
ただし、召喚されたのは伝説の魔獣でもない。
夢に出てくる巨大なゴーレムでもない。
召喚されたのは――。
五百匹の、普通のスライムだった。




