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伝説の召喚士、禁断の召喚術を試す ・・・500匹のスライムどうする?  作者: てるるん
第2章 伝説ってこう始まる(悪目立ちで)
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第1話 普通の護衛……のはずだった

 王都セレナを出発して、しばらく。


 馬車は街道をゆっくりと進んでいた。


 御者席には、今回の依頼主である商人のグレイス。


 荷台には商品。


 その周囲にはフロウベルとリンナ。


 そして――。


「ぷるっ」


「ぷるぷる」


「ぷるっ」


 500匹のスライムが、ぞろぞろと馬車についてきている。


 フロウベルの肩には、カーバンクル。


「……」


 ここまでの道程、何事もなかった――わけはない。


 すれ違う馬車がこの異様な光景を見て、中には相手が雇った冒険者が、魔獣と勘違いして討伐しようとする始末。


 そりゃ、初見の冒険者ならそうなると思ってはいたが、ギルド経由で情報は回っていなかったのだろうか?


 実は、王都のギルドマスターもイリアも失念していた。


 王都を出れば、フロウベルたちがどれだけ驚かれるのかということを。


 すでに二人とも、フロウベルに毒されかけているようである。


 そのため、行く先々で説明を繰り返すことになり、散々である。


 グレイスは、何度目か分からないため息をついた。


「本当に……ついてくるんですね」


「もちろんです」


 フロウベルが答える。


「私の召喚獣ですから」


「いや、そういう意味ではなく……」


 グレイスは後ろを見る。


 街道いっぱいに広がるわけではない。


 ちゃんと列を作り、馬車の後ろについてきている。


 ただし、その数は500。


「……まあ、いいか」


 グレイスは前を向いた。


「それより、目的地まではどのくらいですか?」


「このまま順調に進めば、今日の夕方には中間地点の宿場町に着きます。そこから明日の昼頃には目的地です」


「なるほど」


 リンナが周囲を見回す。


「街道も平和そうね」


「はい。今回は普通の護衛ですから」


 フロウベルが嬉しそうに答える。


「普通の護衛……」


 リンナが小さく呟く。


 王宮に呼ばれた。


 四大魔獣を召喚した。


 巨大な魔獣と戦った。


 そして今、500匹のスライムと一緒に街道を歩いている。


『わたし、なんで巻き込まれたんだろう……』


 リンナは心の中で呟く。


 最初に、興味本位でフロウベルに声をかけたのが運の尽きである。


「……まあ、いいか」


 リンナも考えるのをやめた。


 その時だった。


「……ん?」


 リンナが足を止める。


「どうしました?」


 フロウベルが振り返る。


「何か聞こえない?」


「え?」


 耳を澄ます。


 街道の先。


 草むらの奥から、ガサガサと音が聞こえる。


「……何かいますね」


 グレイスの顔が強張る。


「まさか……魔獣?」


「その可能性が高いわね」


 リンナが剣に手をかける。


 次の瞬間――。


「グルァァァァッ!」


 草むらから、数体のオークが飛び出してきた。


「来た!」


 リンナが剣を抜く。


「グレイスさん、馬車を止めて!」


「わ、分かった!」


 馬車が止まる。


 オークたちは一斉にこちらへ向かってくる。


「フロウベル、下がって!」


 リンナが前に出る。


「私が――」


「大丈夫ですよ! みんな、なんかやる気満々なんです!」


「え?」


 フロウベルはオークではなく、後ろを振り返った。


「みんな」


「ぷるっ!」


 500匹のスライムが、一斉に動いた。


「えっ?」


 リンナが目を見開く。


 次の瞬間。


 スライムたちが地面を跳ね、オークへ向かって飛びかかっていく。


「ぷるっ!」


「ぷるぷるっ!」


「ぷるるるっ!」


 一匹。


 二匹。


 十匹。


 数十匹。


 そして――数え切れないほどのスライムが、オークへと取りついていく。


「な……何してるの!?」


 リンナが叫ぶ。


「私もよく分からないんですが、なんか、ベヒモスさんや、カーちゃんに対抗意識燃やしてるみたいで」


 肩に乗っていたカーバンクルが、「えっ!?」という顔をしている……ように見えた。


 何かまずいと思っているのかもしれない。


 オークの脚に。


 胴体に。


 背中に。


 頭に。


 スライムたちが次々と張り付いていく。


「グルァ!?」


 オークが暴れる。


 しかし、スライムたちは離れない。


 むしろ、その身体を包み込むように広がっていく。


「……え?」


 リンナの顔が引きつる。


 スライムに覆われた部分。


 そこから、オークの身体が――消えていく。


 溶けている。


 いや。


 溶けているというより――。


 スライムの中へ、吸い込まれている。


「…………」


 リンナは固まった。


「ちょっと……待って」


 別のオークにも、スライムたちが一斉に飛びつく。


「ギャウッ!」


 身体を覆われる。


 輪郭が崩れる。


 そして――。


 ズズズ……。


 オークの姿が、スライムの中へと沈んでいく。


「いやぁぁぁぁぁぁっ!?」


 リンナが思わず顔を覆う。


 かなり目を覆いたくなる光景である。


「何これ!? 何してるの!?」


「すごい……!」


 隣では、フロウベルが目を輝かせていた。


「なるほど! こんな戦い方ができたんですね!」


「そこ!?」


 リンナが振り返る。


「今の見て、なんでそんな嬉しそうなのよ!?」


「だって、すごいじゃないですか!」


 フロウベルは完全に興奮している。


「今までこんなこと、やったことありませんよ!」


「今まで知らなかったの!?」


「はい!」


「なんでそんな自信満々なのよ!」


 リンナが叫んでいる間にも、戦闘は終わっていく。


 オークたちの姿は次々と消え。


 残ったのは――。


 何もない街道。


 そして。


「ぷるっ」


「ぷるぷる」


「ぷるっ」


 何事もなかったかのように戻ってくる500匹のスライムだった。


「…………」


 リンナは無言でスライムを見る。


 スライムたちは、フロウベルの足元へ集まってくる。


「みんな、お疲れさまでした!」


「ぷるっ!」


 フロウベルが嬉しそうに笑う。


 肩にいたカーバンクルは、いつの間にか荷台の方に隠れている。


 リンナは、ゆっくりとフロウベルを見る。


「ねえ、フロウベル」


「なんですか?」


「あの子たち……」


 リンナは500匹のスライムを指差す。


「本当にスライム?」


「『スライム?』ですよ?」


「……そう」


 リンナはそれ以上、何も言わなかった。


 少し離れたところでは、グレイスも呆然としている。


「……すごいですね」


「でしょう?」


 フロウベルが嬉しそうに答える。


「荷物運びもできますし、見張りもできますし、魔獣も倒せるんですよ!」


「……最後のは、初めて知りました」


「私もです!」


「…………」


 グレイスは何とも言えない顔になった。


 その横で、カーバンクルが小さく鳴く。


「きゅ……」


 まるで――


『先輩、本気出さないでよ……』


 と、心の中で泣いているようだった。


「さて、先を急ぎましょう!」


 フロウベルが元気よく歩き出す。


「ぷるっ!」


「ぷるぷる!」


「ぷるっ!」


 500匹のスライムも、その後をついていく。


 リンナはしばらくその背中を眺めていた。


「……そういえば」


 ふと、以前のことを思い出す。


 リーフェンへ向かった時。


 朝、目を覚ますと――。


 そこには、ゴブリンの姿はなく。


 武器や防具だけが残されていた。


「…………」


 リンナはスライムたちを見る。


「まさか……」


「リンナさん?」


「……なんでもない」


 今はまだ、確信できるほどの材料はなかった。


 ただ――。


 500匹のスライムを見る目が、ほんの少しだけ変わった。


 その後は、特に問題もなく街道を進んだ。


 夕方になる頃には、目的地の町が見えてくる。


「あれが、今回の目的地です」


 グレイスが前方を指差す。


「着きましたね!」


 フロウベルが嬉しそうに声を上げる。


 馬車が町へ近づいていく。


 門番がこちらに気づく。


 そして――。


「…………」


 門番の視線が、馬車から。


 フロウベルへ。


 リンナへ。


 そして――。


 その後ろに続く500匹のスライムへと移っていく。


「……あの」


 門番が恐る恐る声をかける。


「はい?」


「そちらの……大量のスライムは?」


「ああ、私の召喚獣です。ギルドか、王宮から何か聞いてません?」


「…………」


 門番はしばらく黙った。


「……本当だったんですね。クレイジーサモナーの噂は」


「誰ですか! そんな噂を流しているのは!」


「いえ、その連絡が来た時に、誰も信じてなくて……。『そんな奴がいたら、クレイジーだよな。ははは』となり、そのまま噂のクレイジーサモナーという通り名が……」


 フロウベルは涙目である。


 自業自得である。


 リンナは、フロウベルに聞かせたらダメなやつじゃん、と思った。


 なんだか、また何か起こりそうな気がする。


 リンナは、ため息をついた。


 こうしてフロウベルたちは、新たな町へと入っていった。


 今回の依頼は、商人の護衛。


 その目的は、商人と荷物を無事に目的地まで届けること。


 そして今のところ――。


 依頼は、順調だった?



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