第15話 新たな依頼・・・新たな大騒動への予兆
王宮から戻ってきた翌日。
「さて……」
フロウベルは冒険者ギルドの依頼掲示板を眺めていた。
「今日は何を受けましょうかね……」
「おはよう……依頼を受けるの?」
隣に立ったリンナが声をかける。
そこで、ふと、リンナが質問する。
「そういえば、フロウベルってどこで寝泊まりしてるの?あれだけのスライムと?」
「あ、言ってませんでしたっけ?研究所を間借りしてます。あれだけのスライムですから、宿屋には泊まれませんし。」
「なるほどね……研究所の人たちは、それで大丈夫なんだ。」
「ええ、いい研究材料として、スライムさんたちを調べてますし。」
「……謎多いもんね、あのスライムたち」
「そうですか?ただの『スライム?』ですけどね」
リンナはこの微妙な違和感でモヤモヤしている。
「そういえば、カーバンクルは?」
「あそこです」
ぶすっとした表情で、受付の方を指さす。
そこには、愛想を振りまき(そう見える)受付嬢たち、特にイリアにかわいがられてるカーバンクルがいた。
「ずっと、ああなんですよ。私の召喚獣なのに」
「意外とあざとかったな、カーバンクル」
リンナもちょっとだけ、フロウベルに同情した。
「で、何か依頼受けるんだろ?」
「そうでした」
「やっぱり、冒険者は冒険しないと!」
「はいはい」
リンナは適当に返事をしながら、依頼掲示板を見る。
そこには様々な依頼が貼られていた。
「薬草採取……」
「普通ですね」
「魔獣の討伐……」
「これも普通です」
「商人の護衛……」
リンナが依頼書を一枚、手に取る。
「これなんてどう?」
「護衛ですか?」
「ええ。王都から近隣の町まで商人の荷物を運ぶ護衛。街道を使うから、それほど危険でもないみたい」
フロウベルが依頼書を覗き込む。
「報酬も悪くないですね」
「でしょ?」
「これにしましょう!」
「決めるの早っ!」
「普通の冒険ですから!」
「……まあ、確かに」
リンナは苦笑した。
「今回は普通に終わるといいわね」
遠い目になるリンナ。そしてこの一言を口走ったことを後悔することになる。
「何を言ってるんですか?」
「……何でもない」
二人は受付へ向かった。
「護衛依頼ですね」
カーバンクルを可愛がっていたイリアが依頼書を確認する。
「はい。これを受けたいです」
ぶすっと答えるフロウベル。胸とカーバンクルの可愛がりが気に食わない。
「分かりました」
イリアが依頼書に目を通す。
「王都セレナから、近隣の町まで商人の方と荷物を護衛する依頼ですね」
「そうです」
「今回の依頼は、護衛対象の方と一度顔合わせをしていただきます」
「分かりました」
イリアが少しだけ微笑む。
「ちなみに、今回はベヒモスさんは?」
「呼びません」
「……」
「大きすぎますから」
「そうですよね」
イリアがほっとしたような顔をする。このほっとした感情も後で後悔する。
皆、まだ、フロウベルをわかっていない。
「それに、今回は普通の護衛ですから」
「……」
イリアは一瞬だけリンナを見る。
リンナも同じような顔をしていた。
「何ですか?」
「いえ、何でもありません」
イリアは笑顔に戻る。
「それでは、護衛対象の方を呼んできますね」
しばらくして。
「お待たせしました」
イリアの後ろから、一人の男性がやってきた。
四十代くらいだろうか。
少しふっくらとした体型で、身なりの整った商人風の男性だった。
「今回、護衛をお願いする商人のグレイスと申します」
「フロウベルです。召喚士です。冒険者ランクFです。」
「リンナです。Cランク冒険者です」
二人が挨拶する。
そこで、イリアが口を挟んだ。
「フロウベルさん、すみません。あなた、特別処置でCランクまで上がってます。まだギルド証の書き換えが済んでませんでした」
「へ!?この間、登録したばっかですよ。なんで?」
「ベヒモスを召喚する冒険者をFランクなんて低ランクに置いておけないと、ギルドマスターの判断です」
リンナは、苦笑。グレイスはドン引きしてる。
「イリアさん、なんですか、そのおとぎ話のベヒモスを召喚するって」
グレイスが尋ねる。
「先日、ベヒモス召喚にそこのフロウベルさんが成功しているんですよ。」
「……え、まさか。四大魔獣ですよね?」
「きゅ。うちも四大魔獣のカーバンクルだけど」
他の受付嬢にいじくられてたカーバンクルがフロウベルの肩に乗り話しかける。
「え!?栗鼠がしゃべった!?」
「栗鼠じゃないわい!」
カーバンクルが応戦する。
「見た目は栗鼠でしょ」
リンナが小声でツッコむ。イリアが何事もないように、
「なので、Cランク冒険者、しかも特殊能力持ちがついていきますので安心してください」
イリアに言われ、グレイスは顔を引きつらせながら、
「お二人とも、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
グレイスが二人の後ろを見る。
「……ところで」
「はい?」
「あちらの……大量のスライムは?」
グレイスの視線の先。
ギルドの入口付近には、いつものように500匹のスライムがいた。
「ああ、あれも、私のかわいい召喚獣です」
「……」
「一緒に行きます」
「……何匹ほど?」
「いっぱいです」
「500匹です」
リンナが横から訂正する。
「500……」
グレイスが固まる。
「500匹ですか?」
「はい」
フロウベルは何でもないことのように答えた。
「荷物運びもできますし、周囲の見張りもできます。とても役に立ちますよ」
「そ、そうですか……」
グレイスは500匹のスライムを見つめる。
そして、もう一度フロウベルを見る。
「……頼もしいですね」
「でしょう?」
フロウベルが笑う。
「では、よろしくお願いします」
「はい」
グレイスは苦笑しながら頭を下げた。
「では、準備ができ次第出発しましょう」
グレイスがそう言う。
「はい!」
フロウベルが元気よく返事をする。
「荷物はもう積み終わっていますので、あとは馬車に乗っていただければ大丈夫です」
「分かりました」
フロウベルが振り返る。
「みんな、出発しますよ!」
「ぷるっ!」
「ぷるぷる!」
「ぷるっ!」
500匹のスライムが一斉に動き始める。
「……」
グレイスが、その光景を呆然と眺める。
「本当に500匹いるんですね……」
「はい」
フロウベルは自信満々に答える。
「数えたんですか?」
「召喚したときに分かりました」
「なるほど……」
グレイスはそれ以上、何も聞かなかった。
王都セレナを出る。
馬車が街道を進み始める。
御者席にはグレイス。
荷台には商品。
その周囲を、フロウベルとリンナ。
そして――。
500匹のスライムが、ぞろぞろと後ろをついてくる。
フロウベルの肩にはカーバンクル。
「なんだか、久しぶりに普通の冒険って感じがしますね」
フロウベルが嬉しそうに言う。
「……そうね」
リンナが答える。
「王宮に呼ばれることもないし、巨大な魔獣もいない」
「ベヒモスさんもいません」
「うん」
「今回は本当に普通ですね」
「……」
リンナは後ろを振り返る。
500匹のスライム。
その先頭を歩くフロウベル。
肩には四大魔獣カーバンクル。
「……まあ」
リンナは小さく息を吐いた。
「これを普通って言えるなら、もう何も言わないわ」
「何か言いました?」
「何も」
「そうですか」
フロウベルは前を向く。
馬車はゆっくりと街道を進んでいく。
目的地は、王都セレナから数日ほど離れた近隣の町。
今回の依頼は、商人の護衛。
特別難しい依頼ではない。
魔獣の討伐が目的でもない。
危険な場所へ向かうわけでもない。
ただ、商人を目的地まで無事に送り届ける。
それだけの――。
ごく普通の護衛依頼だった。
少なくとも、この時のフロウベルはそう思っていた。




