第13話 王都に帰るよ!(一人、ベヒモスを見上げ不安なリンナさん)
リーフェンの街。
王都へ戻る前に、フロウベルたちは冒険者ギルドへ立ち寄っていた。
「フィナさん、ありがとうございました」
「いえいえ。無事に完了しましたよ。」
受付カウンターから飛び出してきて、フロウベルの前で笑顔を見せる。
「帰ってきてくれて嬉しい……!?」
「……どうしたの?」
不思議そうな顔でフィナの顔を見るフロウベル。
フィナは真っ青な顔で、無言でフロウベルの後ろを震える手で指さす。
その後ろには、五百匹のスライム。
そして――。
「……あの」
フィナが恐る恐る顔を上げる。
「はい?」
「あの大きな魔物みたいなのは……?」
フィナの視線の先。
そこには、巨大な角を持つベヒモスがいた。
「ベヒモスさんです」
「ベヒモス!?」
フィナの声がギルド内に響く。
そこにいた、冒険者や職員が一斉に立ち上がり、フロウベルいや、その後ろのベヒモスを見る。
「はい。私が召喚しました!」
何事もなかったように、さわやかに答えるフロウベル。騒ぎを起こす自覚無しである。
「……」
フィナが固まる。
そして、ゆっくりとベヒモスを見上げる。
「お……大きいですね……」
「そうですね」
フロウベルは平然としている。
「でも、とても頼りになりますよ」
「それは……そうでしょうね……」
フィナが苦笑する。
その横では、リンナが小声で呟いた。
「いや、街の中で見ると改めてデカいな……」
「そうですか?」
「そうだよ!」
フロウベルは不思議そうに首を傾げる。
その様子を見て、フィナが小さく笑った。
「ふふっ。フロウベルさんらしいですね」
「そうですか?」
「はい」
フィナは、数回しか会っていないというのに、フロウベルの無自覚な行動を少しずつ理解し始めていた。
短い時間だったが、三人は少しだけ話をした。
そして――。
「それでは、私たちは王都へ戻りますね」
「はい! 気をつけてくださいね」
「ありがとうございます」
「また来てください!」
「もちろんです」
フロウベルが笑顔で答える。
五百匹のスライムも、
「ぷるん」
「ぷるぷる」
と、フィナに別れを告げる。
「ふふっ。スライムさんたちも元気でね」
「ぷるん!」
こうしてフロウベルたちは、リーフェンを後にした。
王都への道のりは、特に問題もなく進んだ。
行きとは違い、帰りは道も分かっている。
途中で野営を挟みながら、順調に王都を目指していく。
そして、王都が見えてきたところで――。
「ベヒモスさん」
「なんだ、主よ」
「ここから先は、召喚を解除しますね」
「承知した」
フロウベルが手をかざす。
「――召喚解除」
淡い光がベヒモスを包み込む。
「では、また必要になったら呼びますね」
「うむ。いつでも応じよう」
ベヒモスが胸を張る。
「我はベヒモスだからな」
「……それ、やっぱり気に入ってるのね」
リンナが呆れたように呟く。
次の瞬間。
シュンッ。
ベヒモスの巨体が消えた。
「まぁ、あんまりベヒモスさんを呼ぶような事態が起こることがないのが一番いいんですが。」
いなくなった途端、辛辣なことを口にするフロウベル。
苦笑しながらリンナがふと質問する。
「そういえばさ、ベヒモスの召喚って、ベヒモスを召喚するって感じで行ったの?」
フロウベルは、それ聞きますみたいな顔でリンナを見て、
「いえ相手は豚だったから、こっちはそれより大きい牛で対抗したい!って感じで召喚したら……」
「……うん、聞かなかったことにする」
リンナは思考することやめた。
「では、行きましょう」
「そうね」
フロウベルとリンナ。
そして五百匹のスライムは、そのまま王都へと入っていった。
王都セレナ。
冒険者ギルド。
その内部では、妙な騒ぎが起きていた。
「だから、本当に見たんだって!」
「本当にベヒモスだったのか?」
「ああ! 森の向こうから、信じられないくらいデカい魔物が歩いてきたんだ!」
「それで?」
「突然、消えた」
「……消えた?」
「ああ」
冒険者たちがざわめいている。
少し前。
リーフェン方面から戻ってきた冒険者が、巨大な獣を目撃していた。
その姿は、ベヒモスにしか見えなかった。
慌ててギルドへ報告したものの――。
「今のところ、被害は?」
「ありません」
「目撃した場所は?」
「王都から少し離れた街道です」
「その後は?」
「……消えました」
「消えたって……」
ギルドマスターが頭を抱える。
「一体何なんだ……」
そこへ。
「ただいま戻りましたー」
聞き慣れた声が響いた。
「……」
「……」
ギルド内が静まり返る。
入口に立っていたのは、フロウベル。
その後ろにはリンナ。
さらにその後ろには――。
五百匹のスライム。
「ぷるん」
「ぷるぷる」
ぞろぞろ。
「…………」
ギルドマスターが固まる。
イリアも固まる。
「……どうしたんですか、皆さん?お金落としたみたいな悲壮感な顔をして?」
まだ、騒ぎの元凶が、元凶と認識していないとこうなる。
そして――。
「フロウベルさん」
「はい?」
「リーフェンから戻られたんですよね?」
「はい、そうですが?イリアさんから貰った依頼で行ったじゃないですか。
忘れちゃったですか?
胸に栄養行き過ぎて、ボケちゃいました?」
依頼を達成したのと、大物召喚成功のハイテンションで、普段、心の底で敵認定していた感情が言葉で漏れてしまったフロウベル。
「あら、な・に・か、言いましたか?」
冷徹な笑みと言葉で返す、イリア。
「申し訳ございません、愚かな私をお許しください。」
すぐに謝る。即謝罪は大事である。
イリアは気を取り直し、
「……ベヒモスをみませんでしたか?」
「え?」
フロウベルが首を傾げる。
「解除しましたよ?」
「…………」
「王都に入る前に。よく私がベヒモスさんを召喚したってわかりましたね」
「…………そう」
イリアが笑顔を浮かべる。
ただし――。
目が笑っていない。
「なるほど……あなたが元凶でしたか。いえ、あなたが召喚したなんて誰も知りませんでしたよ。
ええ、この時点までは。」
「?」
リンナは額に手を当てて『盛大に自爆しやがった』っと顔を顰め、ため息をつく。
フロウベルは不思議そうに首を傾げた。
そこにギルドマスターがやってきて、口を開く。こちらは不機嫌さを隠していない。
「フロウベル、お前さん常識って知ってるか?」
「当たり前の知識や判断力、行動の基準……」
普通に答える、フロウベル。火に油をいっぱい注いでいる。
「お前はそれを持ち合わせてるのかって聞いてんだよ!」
「失礼ですね!私は常識の塊ですよ!」
言い返すフロウベル。無自覚もここまでくると悪である。
ギルドマスターも言い返そうとするが、イリアが割って入る。
「とりあえず、まず依頼の報告をして、そのあと、ベヒモス召喚の件を説明してちょうだい。」
ギルドマスターもため息をつく。
「あとで、部屋に来い。イリア、依頼の達成報告を聞いてやれ。」
「はい」
フロウベルとリンナは、報告用の席へ向かった。
「リーフェンの森の魔物調査依頼は問題なく完了しました」
「で、どんな魔物だったの?」
「体長5mほどのグラン・ボアです。」
リンナが話す。
「森の中で魔物の異常増加は、グラン・ボアに追い回されていた魔獣たちが同じ場所に集まってきたため、増加と捉えられたようです。」
フロウベルが続ける。
「グラン・ボアですか。」
「はい。リンナさんと遭遇しました」
「……リンナさん、大丈夫だったのですか?」
「まあ、なんとか」
リンナが苦笑する。
「そして、そのグラン・ボアとの戦闘中に――」
「え、戦闘したの? C……いえ、そのクラスならBにも相当するわよ?」
フロウベルが一度言葉を切る。
「そこで、新しい召喚獣を召喚しました」
その言葉で、イリアが手を額に当て、天を仰ぐように見て。
「それが……ベヒモスですね?」
「はい」
フロウベルが頷く。
「召喚に成功しました!成功したんですよ!大事なとこなので二度言いました!」
さっきまでのシリアスな雰囲気はどこへやら、また、ハイテンションなフロウベルである。
一拍置いて、イリアが告げる。
「討伐は成功のようなので、魔物調査依頼は達成とします。
では、ここからは、ギルドマスターのところで、お話ししましょうか?」
冷たい笑顔で言い放つ。
「…………はい」
ギルドマスターの部屋で、召喚まで経緯を話すフロウベル。
黙って聞いているギルドマスター
イリアも黙っている。
「……なぁ、フロウベル」
「はい?」
「ベヒモスって……あのベヒモスだよな?」
「どのベヒモスを指してるかはわかりませんが、たぶん、そうですよ?」
フロウベルは何の疑問もなく答える。
「とても強かったです」
「でしょうね……」
イリアが遠い目をする。
「ちょっと待て」
ギルドマスターが口を挟む。
「お前、ベヒモスってなんだかわかってるか?」
「はい、上位の召喚獣ですよ。本人曰く、『現在この世では我1人』って人の数え方してましたけど。1匹が正解ですよね?」
「そんなことは、どうでもいい!お前、四大魔獣を召喚できんなのか! どうやって?!」
「召喚魔法で」
リンナは心の中で『でっかい牛を召喚でベヒモスきたとは言えんわな』と思う。
「理論上、できそうだったので」
「またそれか!」
ギルドマスターが頭を抱える。
「お前は……! ベヒモスなんてものを召喚したなら、先に報告しろ!」
「できませんよ!緊急事態で、こっちがやられそうなのに、『待って、一応報告するから、ちょっとタンマ』とか、魔獣に言うんですか!」
「あ、いや、そういう事ではなくてな……」
「それとも、助かる手段があるのに、報告できないなら、やられてしまえってことですか?」
「……」
何も言い返せない、ギルドマスター。
激高するふりをして、内心『よし、正当化できそう』とほくそをかむフロウベル。
ギルドマスターがため息をつく。
「だがな、街道を歩いている冒険者から『巨大な魔物を見た』なんて報告が来たんだぞ!」
「……あ」
フロウベルが目を丸くする。
「もしかして、それがベヒモスさんですか?」
「他に何がいる!」
「なるほど……」
リンナは、『ああ、やっぱりそうなるよな、』と思うが口に出さない。
「でも、王都に入る前に解除したので大丈夫ですよ」
「そういう問題じゃない!」
ギルドマスターが叫ぶ。
「……フロウベルさん」
イリアが優しく声をかける。
「はい」
「次からは、もう少し周囲への影響を考えてくださいね?」
「……はい」
「ベヒモスほどの召喚獣なら、なおさらです」
「分かりました」
フロウベルは素直に頷いた。
「すみませんでした」
「……よし」
ギルドマスターが大きく息を吐く。
「反省しているならもういい、フロウベルへの説教はこれくらいにして、あとリンナ」
「へ!?私も!?」
「当たり前だ、お前の俺からの依頼はなんだ?」
ちょっと考えて、気づいてすまなそうな顔をするリンナ。
「フロウベルのお目付け役です。」
「なぜ、この非常識な行動を止めなかった!」
「……フロウベルに毒されてました。」
「ひど!」
抗議の声を上げるフロウベル。
リンナとフロウベルを交互に見て、
「……ま、しかたないか、反省しているならいい」
「私より何も言われないなんて!ずるい!」
「お前は実行犯で、リンナは巻き込まれた側だろうが!」
これがきっかけで、またしばらく説教をくらうフロウベルであった。
そして、机の上の報告書を見る。
「ただし――」
「はい?」
「ベヒモスの件は、王宮にも報告する」
「……」
フロウベルの顔が固まった。
「またですか?」
「当然だろう!」
ギルドマスターが即答する。
「ベヒモスだぞ!」
「でも、必要なときに呼ぶだけですよ?」
「そういう問題じゃない!」
リンナが笑いをこらえる。
「フロウベル……諦めな」
「……はい」
フロウベルは肩を落とした。
その横では、五百匹のスライムたちが、
「ぷるん」
「ぷるぷる」
と、いつも通り元気にしている。
こうして――。
ベヒモス召喚の一件は、王宮へと報告されることになった。
そして数日後。
フロウベルのもとへ、一通の知らせが届くことになる。
――王宮からの呼び出しである。




