第12話 召喚解除・・・結構、雑な扱い受けてます
森の奥。
グラン・ボアが倒れていることを確認すると、リンナは双剣を鞘に収めた。
「……終わった、よね?」
「はい。たぶん」
「たぶんって何よ……」
リンナがため息をつく。
その横では、フロウベルが新たな召喚獣を見上げていた。
ベヒモス。
巨大な角を持ち、牛やバッファローを思わせる獣。
その巨体は、グラン・ボアよりもさらに大きい。
「……」
「……」
二人とも、しばらく無言だった。
「……フロウベル」
「はい?」
「この子、どうするの?」
「どうする……?意味がわかりませんけど?」
リンナがベヒモスを指差す。
「このままじゃ、大きすぎない?」
「あ、そういう事ですか……」
フロウベルも改めてベヒモスを見上げる。
確かに大きい。
森の中にいても、その存在感は隠しきれない。
「街の中を歩かせたら、大騒ぎになるよ?」
「あ、確かに。それは……困りますね」
考えてなかったのかよ、心の中でツッコむリンナ。
フロウベルは少し考え込む。
「……召喚を解除しましょうか」
「解除できるの?」
「まぁ、召喚しといて、そのままって人は、私含めて、ごく少数ですよ」
フロウベルは即答した。
「……ああ、なんかわかる気がする」
リンナが妙に納得する。
「じゃあ、戻せばいいじゃん」
「ただ……」
フロウベルの表情が少し曇る。
「一度解除した召喚獣を、もう一度、召喚できるかは分かりません」
「え?」
「召喚解除そのものは、普通にできます」
フロウベルはベヒモスを見る。
「でも、解除した召喚獣を再び同じ個体で呼び出せるかどうかは、
召喚獣によって違うんです。同じ個体じゃない可能性もあります。」
「なるほど……」
リンナが頷く。
「じゃあ、今までの召喚獣は?」
「もういる必要がないと思うまで、そのまま召喚を維持していました」
「え?」
「せっかく呼び出したのに、二度と呼べなくなったら困りますから」
「……ああ」
リンナは納得した。
フロウベルは召喚獣を使い捨てにするような召喚士ではない。
召喚したなら、最後まで責任を持つ。
それが彼女のやり方だった。
「でも……」
フロウベルはベヒモスを見る。
「今回は、そういうわけにもいきませんね」
「そうだね」
ベヒモスが二人の会話を聞いていた。
「主よ」
「はい?主?」
主認定されたフロウベル。
「我ならば、再び呼び出せる可能性がある」
「本当ですか?」
「ああ」
ベヒモスは自信満々に胸を張る。
「我はベヒモスだからな」
「……理由になってない気がするけど」
リンナが呟く。
「ああ、上位召喚獣、特にベヒモスやバハムートとなると個体数は、ごく少数……」
「そういうことだ。今この世界に存在するベヒモスは我1体のみだ」
「それなら、また召喚できるんじゃないか?」
リンナがフロウベルに問いかける。
「では、試してみます」
フロウベルはベヒモスへ向き直る。
「一度、戻ってください」
「承知した」
ベヒモスが頷く。
フロウベルが手をかざす。
「――召喚解除」
ベヒモスの身体が淡い光に包まれる。
「では、また会いましょう」
「うむ」
次の瞬間。
シュンッ。
ベヒモスの巨体が消えた。
「……」
「……」
「消えたね」
「はい」
フロウベルは少し不安そうに、ベヒモスがいた場所を見つめる。
「……大丈夫でしょうか」
「さっきまで自信満々だったけど?」
「でも、実際にやるのは初めてですから」
「なるほど」
フロウベルは深呼吸する。
「このまま、召喚しなかったら、ベヒモスは泣きますかね。」
酷いこと言うフロウベル。
「お前な……でも有りだな。」
リンナも大概である。
「冗談ですよ。では……」
再び魔力を集中させる。
「――我が魔力に応えよ」
地面に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「その力をもって、再び我が前へ!」
魔法陣が強く輝く。
光の中から巨大な角が現れる。
続いて、頭。
太い首。
隆々とした四肢。
そして――。
ズンッ!!
「グオオオオオオオオオオッ!!」
ベヒモスが再び姿を現した。
「……」
「……」
フロウベルとリンナが見上げる。
「呼べました……!」
フロウベルの顔がぱっと明るくなる。
「成功です!」
「よかったね」
「はい!」
ベヒモスが胸を張る。
「当然だ」
「でも、召喚ごとに咆哮するのはやめてください」
「……え?」
困惑するベヒモス。
「うるさいですよ。」
フロウベルは、ピシャリと言葉を投げつける。
「でも、これで大丈夫ですね」
フロウベルは嬉しそうに頷く。
「必要なときだけ呼べばいいんですから」
「……」
リンナはベヒモスを見上げる。
「必要なときだけ、ね」
そして、その巨体をもう一度見た。
「でも、やっぱり大きい……」
「そこはどうしようもないですね」
フロウベルが苦笑する。
そのとき。
「ぷるん」
後ろから声がした。
「……?」
ベヒモスが振り返る。
そこには――。
五百匹のスライムたちがいた。
ぞろぞろ。
ぷるぷる。
「……」
ベヒモスがじっとスライムたちを見る。
「どうしました?」
「いや……」
ベヒモスは少し考える。
「彼らも、我と同じ召喚獣なのだろう?」
「そうですよ?」
「ならば……」
ベヒモスがフロウベルを見る。
「彼らも召喚を解除できるのではないか?」
「あ」
フロウベルが目を丸くする。
「そういえば……」
リンナもスライムたちを見る。
「確かに」
「試してみましょう!」
フロウベルが手をかざす。
「みんな、ちょっと戻ってみてくださいね」
「ぷる?」
五百匹のスライムが一斉にフロウベルを見る。
「――召喚解除!」
魔力が広がる。
淡い光がスライムたちを包み込む。
「……」
「……」
しかし――。
「ぷるん」
何も起こらなかった。
「……あれ?」
フロウベルが首を傾げる。
「もう一度!」
「――召喚解除!」
再び光が広がる。
「ぷるぷる」
スライムたちは、いつも通りぷるぷるしている。
「……」
「……」
リンナも首を傾げる。
「戻らないね」
「そうですね……」
フロウベルはスライムたちをじっと見つめる。
「召喚解除が効いていません」
「なんで?」
「分かりません」
フロウベルは少し考える。
「もう少し試してみましょう」
「いや、無理に戻さなくてもいいんじゃない?」
リンナが言う。
「リンナさんがそんなこと言うなんて!?
できることなら何が何でも解除しろ!って言うかと思ってました。」
「私は、そこまで鬼じゃねぇ!」
「ぷるん」
「……戻りたくないの?」
フロウベルがスライムを見る。
「ぷるぷる」
「そうですか」
フロウベルは何となく納得した。
「では、このまま一緒に帰りましょう」
「ぷるん!」
「ぷるぷる!」
五百匹のスライムが一斉に動き出す。
ぞろぞろ。
ぷるん。
ぷるぷる。
「……」
ベヒモスは、その様子を黙って見つめていた。
「ベヒモスさん?」
「……いや」
ベヒモスは静かに首を横に振る。
「何でもない」
「そうですか?」
「ああ」
そして、小さく呟く。
「……やはり、先輩方は違うのだな」
「?」
フロウベルが首を傾げる。
「また何か言いました?」
「何でもない」
ベヒモスは、なぜかスライムたちから目を逸らした。
リンナがそんなベヒモスを見る。
「……やっぱり変じゃない?」
「そうですか?」
「うん」
フロウベルは気にせず歩き出す。
「では、リーフェンへ戻りましょう」
「そうね」
五百匹のスライムが、その後ろをぞろぞろとついていく。
そして、そのさらに後ろを――。
巨大なベヒモスが歩いていく。
「ところで、ベヒモスさん」
「なんだ、主よ」
「街に入る前には、また召喚解除しますからね」
「承知した」
「必要になったら、また呼びます」
「いつでも応じよう」
「頼りになりますね」
「当然だ」
ベヒモスが胸を張る。
「我はベヒモスだからな」
「……それ、気に入ってるの?」
リンナが呆れる。
「当然だ」
ベヒモスは真顔で答えた。
「我はベヒモスだからな」
その横を、五百匹のスライムが通り過ぎていく。
「ぷるん」
「…………」
ベヒモスは、しばらくスライムたちの背中を見つめていた。
――あの方々には、逆らってはいけない。
なぜそう思うのか。
ベヒモス自身にも、まだ分からなかった。
ただ――。
「ぷるん」
その声だけは、なぜか気になって仕方がなかった。




