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いきものたちの国〜生き物に変身できる国で、ラプトル少女とハチドリ少年が出会った話〜  作者: きろみりぐらむ
第一章 『ギフト』の国

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第7話 お茶会

 『タンポポ』の少年、テオはあまり自己主張をしない子どもだった。

 自分で何かしたい、して欲しいなどの希望は言わず、こっちからの提案に「それで良い」「別に…」と一言言うだけ。

 どこか冷めている子どもだと、ナラは思った。

 この年頃の子どもでは珍しくないかもしれない。

 しかし、それは面倒くさいだとか、投げやりであるだとかとは違った━━全て諦めているような、そんな危うさをナラは感じていた。


 それでも彼がここにいる理由は、彼自身が「家に帰りたくない」と強く訴えたからだった。

 テオの母親は、息子に会うことを切望しているのだと、ナラの父が話していた。

 しかし、それをテオは断固として拒否した。

 何故拒むのか理由を訊ねても、彼は口を閉ざしたまま、話そうとはしなかった。

 その様子を見て察したナラの父が、今はお互い距離を取った方が良いのでは、とナラ家で一時的に預かることにしたのである。

 現在、彼はナラ家で教育を受けつつ、謎の多い植物の『ギフト』の解明のため、時折研究所に通う日々を送っている。

 ナラは何かテオの助けになることはないかと思っていた。

 しかし、エメから「本人が何も言わないうちは無理にどうこうしようとしない方が良いんじゃない?」と言われ、思い止まっている。


 そうこうしていたある日、ナラとエメ、テオは本家の祖母からお茶会に招待されることとなった。


 「とても香りの良いお茶ですね。シーロム島産のものとよく似ているような……」

 「あら、それは確かにシーロム産のものよ。違いが分かるなんて素晴らしいわ」


 早速だが、エメは溶け込んでいた。

 日頃の食事でも、エメはマナーを心得ているようだと、ナラは感じていた。

 このお茶会ではいつにも増して貴婦人もうっとり見惚れてしまうほどの、所作の美しさを披露している。

 祖母もすっかりエメを気に入っているようだった。

 一方、テオの方は緊張した面持ちでカップを握っている。

 何時も感情の起伏が分かりにくいテオだが、流石に祖母の威厳のある雰囲気に圧倒されているのだろう。

 大丈夫だろうかと、ナラは内心心配になった。


 「……貴方、先程から何も食べていないわね、食べなさい。」


 ふと、祖母がテオに声を掛けた。

 テオの肩は少し跳ね上がったようだが、


 「食べ方がわからなくて……」


 と小さな声で答えた。

 祖母は小さく溜息をついた。


 「この場は、貴方にマナーを求めている場ではないわ。好きなように食べなさい」

 

 言い方が少しきついようにも感じるが、祖母にしては、まだ優しい口調である。

 それでも、テオは固まっていた。

 仕方ないよなと思い、ナラは持っていたフォークをテーブルの上に置く。

 そして、目の前の皿に盛られたタルトを手に取り、そのまま口へと運んだ。

 ……エメはニコニコしてナラを見ており、いつもはマナーにうるさい祖母も、何も言わず紅茶を口にしている。

 ナラを横目で見ていたテオは、やがて決心したのか、自分も皿の上のタルトを手に取り、頬張った。

 ━━一瞬、テオの目が大きくなったが、すぐにいつもの表情に戻る。

 しかし、平らげるスピードは速くなっており、タルトはあっという間に彼の胃袋の中へと消えていった。

 祖母はそれを満足気に見ているようだった。


 「ところで二人とも、それぞれ勉強をがんばっていると聞いたわ」

 「はい、ナラお嬢さんと同じ学園に通わせてもらっています」

 「別に……勉強やった方が良いって言われたから、やってるだけ……です」

 「勉学に励むことは良いことよ。今後のためになるから、しっかり学びなさい」


 それぞれ答える二人に、祖母らしい助言を言ったところで、少し考え込むような仕草を見せた。


 「息抜きしたくなったら……そうね、我がヴェイル家の管理している土地に、自然公園として一部開放している渓谷があるのだけど。そこを訪れるといいわ。その時はナラが案内してあげなさい」


 急に名指しされたので、ナラは驚いた。

 少し考え、あの渓谷のことかと思い出し、「はい」とだけ答える。

 祖母は更に続ける。


 「訪れるのであれば、整備されていない場所には決して足を踏み入れないように。危険なのはもちろん、奥地はそもそも本家の人間ですら行くのをためらわれる場所なの」

 「はい、気をつけます」

 「なのに、最近奥地で不審な足跡が見つかっているようなの。……誠に遺憾なことだわ」


 祖母は一段と深い溜息をついた。


*****


 お茶会もお開きになり、自宅に帰ろうと向かったエントランスにて。


 「ナラ、来ていたの?久しぶりね」


 思わぬ人物に声を掛けられ、ナラは固まった。

 声の主の令嬢は階段を下り、ナラ達の方へ歩み寄ってくる。


 「うちに来てもすぐ帰るのだもの。元気にしていたかしら?」

 「……元気だよ」


 にこやかな微笑みを浮かべる令嬢に、ナラは作法に則ってエメ達の紹介をする。


 「……こちらは、今うちで預かってるエメと、テオ。二人とも、こちらは私の従姉妹でヴェイル本家のご息女、アメリ様」

 「『様』だなんて、いやねぇ。昔の様に『お姉様』でいいのよ。それはさておき、初めまして、ヴェイル家当主の長女、アメリと申します」

 「こちらこそ初めまして。ヴェイル家のご息女、しかもお美しいご令嬢に会えるなんて、身に余る光栄です」

 「あらまぁ、お上手ですこと」


 エメの言葉に満足したのか、まだ会話を続ける従姉妹。

 その眼中にはテオだけでなく、自分もまた映っていないことをナラは知っていた。

 しばらく従姉妹に付き合ってたエメだったが、ナラの様子に気付いたのだろう、


 「もう少しお話したいのですが、すみません遅くなると家の者が心配しますので。ごきげんよう」

 「あらまぁ残念。また家にいらっしゃっいね」

 「はい、是非」


 そう言ってエメは満面の笑みでナラとテオの手を引き、表に停めさせている馬車へと急いだ。




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