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いきものたちの国〜生き物に変身できる国で、ラプトル少女とハチドリ少年が出会った話〜  作者: きろみりぐらむ
第一章 『ギフト』の国

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第6話 うるわし転校生

  ━━いつも通りの通学路。

 いつも通り、サルとガゼルが校門まで競争をしている。

 「勝った!」とサルが勝利宣言したところで、サルの頭から飛び出たノミが人間と化し、「俺がね」とニヤリと笑う。

 案の定、ノミの少年は怒り狂い猿叫(えんきょう)する少年に追いかけ回される。

 いつも通り、水面からシャチが勢い良く陸地に打ち寄せる。

 その近くで、頭から波しぶきを浴びたアシカが「オマエいい加減にしないと○すぞ!」と罵声を浴びせている。

 ━━そんな光景の中で、しかしはっきりといつもと違う朝。


 「すごいねっ!どこ見ても『ギフト』持ちの子ばっかり!」

 「うわぁ、学園すごいなぁ!」


 ナラは頭を抱えていた。

 隣に……隣と言うには近すぎる隣に、はっと目を引くような見目麗しい人間が歩いているからである。

 しかも、終始笑顔ではしゃいでいる。

 オークションの時とは違い、その顔にメイクを施してはいない。

 それでも彼女━━ではなく、彼の華やかな顔立ち、抜群のスタイルは隠しきれず、周りの生徒達の注目を浴びている。

 男女構わず、色めき立っている様だ。

 よく著名人はオーラが違うと言うが、このことを言うのだろう。


 オークションの事件後、エメの唐突な提案にナラの母がすんなり許可を出した。

 かくして、エメはナラ家に引き取られることになったのである。

 (それはそれとして、ナラ父が母から「娘を危険な場所に連れていくなんて、頭おかしい」と、きっちり締め上げられていたのは、言うまでもなく)


 ちなみにタンポポの少年━━テオも一時的にナラ家に引き取られている。

 テオは彼の父親の独断で売られることになった、らしい。

 それを知った彼の母親が父と離婚し、彼を引き取りたいと申し出ていた。

 しかしその申し出を他の誰でもなく、テオ自身が拒否をする。

 彼の態度は頑なだったため、落ち着くまでとの条件で、ナラの家で預かっている状態だった。

 

 ━━との、いきさつがあり。

 ひとまずナラと同世代であろう、エメも彼女と同じ学園に通うことにした、ということである。


 「……えっと、ナラ、こちらはどちら様?」


 そう声を掛けていたのはカレアだった。

 カレアの後ろにはルゥがいて、更にその後ろからミアがこちらを睨みつけている。

 警戒し過ぎではないか、とナラが思ったところで、唐突にミアが口を開いた。


 「……こいつ、オスだろ?」

 「はっ?男!?」


 眉間に皺を寄せながら言うミアに、ルゥは大きな声を上げる。


 「……ど、通りで着飾った雄鳥の匂いがプンプンするのかぁ……」

 「カレア、なんかその言い方ちょっと失礼の様な気がす……」

 「良いよ良いよ、カレアって言うんだね、初めましてボクはエメ、『ギフト』はハチドリだよ。ずっとセルディアス帝国にいたんだけど、今はナラと一緒に暮らしてるんだ!」

 「はぁっ?一緒に暮らっ……?!」


 叫ぶルゥにミアが「おい、うるさいっ!」と弟を小突く。

 ナラは慌ててエメを制止した。

 誤解を生むような言い方は止めてほしい。

 ……もっとも、ここ数日のエメの行動を見る限り、わざと誘導して反応を楽しんでいるのだろうと、ナラは思った。


 「ただ家でちょっと、お世話してるだけだからっ」

 「そういうこと。えっと、キミたちは……?」


 エメがハイエナ姉弟達に目を向けると、それを理解したルゥはミアの首根っこを掴む。


 「俺がルゥでこっちが双子の姉のミア。どっちも『ギフト』はハイエナ……です」

 

 改めて向き合うと、エメのオーラに緊張したのか、ルゥの語尾が尻すぼみになっていた。

 一方でミアは、相変わらず眉間に皺を寄せていたが、エメはそれを全く意に返さず、笑顔を返す。


 「そっかぁ、仲良くしてね!」


 輝かしいばかりの微笑みであった。

 真の美しさを真正面から目の当たりにしてしまうと、人は理性を失うらしい。

 それは性別関係なく。

 ……少なくとも、ナラはそう思った。


 「……はいぃ」


 情けない声を上げた弟に「なんだ、おまえ気持ち悪ぃ」と姉は容赦ない蹴りを浴びせた。


*****


 「っていうか、ずっとナラと一緒だと思ってたのにー。けっこう授業違うー」

 

 休み時間、エメは机に頭をもたれ掛かって、不貞腐れていた。


 「というかエメの学力偏ってるね」

  

 カレアの言う通り、エメの学力は語学堪能、数学全く駄目というように、かなり偏っていた。

 よって、ナラとは別の意味合いで数科目個別授業を設けることになった。

 

 「てか、数ヶ国喋れるってどんな人生歩んだらそうなるんだ?」

 「まぁ色々だよ!」

 

 ルゥの疑問が、さり気なく地雷を踏みそうだと判断したナラは、慌てて話題を変えた。


 「私『ギフト』の実技授業は個別指導だから、どうせ別々の授業があるよ。安定して使えるまで時間かかりそうだし……」

 「え、あの時使いこなせてたのに?」

 「『あの時』?」


 首を傾げている皆の前で、ナラは「大したことじゃないから!」と慌ててエメを止めた。


 「……ふぅん、それじゃあ逆にボクのためにあの時全力出したってことなんだ!嬉しい!」

 

 エメはそれを全く気にする様子もなく、楽しんでいる。

 「もうすぐ個別授業だから!」とナラはエメを引きずって、教室を後にした。


*****

 

 移動中もナラは居心地が悪かった。

 歩いている途中でさえ、彼女たちは注目の的であった。

 そのような中で、廊下ですれ違った女子生徒のポケットからハンカチが落ちたのを、ナラは見逃さなかった。

 友人との話に夢中なのか、女子生徒がそれに気付いたような様子は見られない。

 ナラは素早くそのハンカチを拾ったかと思うと、落とした本人が何も感じないまま、元のポケットに戻す。

 これにはエメも目を見張った。


 「……いや、それ逆に難しくない?普通に渡せば良いのに」

 「けっこう手慣れてる自信はある、かも」


 そういうことを言っているのではない、とエメは溜息を漏らした。 


 「なんかこう、『名は体を表す』というか…...ナラって『一杯の水』っていう意味あるでしょ?まさしく人々に恵みを与える存在たらんと……」

 

 途中まで言いかけたところで、ナラの顔が曇っていくのに気付いたのだろう。

 エメは口をつぐんだ。


 「……もしかして、何か気に障った?」

 「ううん、何でもない」


 ナラは首を横に振った。


 「私のこれは、そんな良いものでもないんだよ。……エメを助けたのだって、綺麗な理由じゃないよ。感謝されるようなことじゃない」


 目を伏せるナラ。

 エメは一瞬、言いかけた言葉を飲み込んで、なるべく優しい口調で声を掛けた。


 「そっか。……でも、それは悪いことでもないと思うよ」

 「どうなんだろうね、自分でもよく分からない……」


 それがナラの正直な気持ちだった。

 自分でも変だと思う時がある。

 けれど、どうしても体が先行して動いてしまう。

 これが合ってるのか間違っているのかさえ、自信がない。

 ━━強迫観念のようなものなのかもしれないが、やはりナラにはよく分からなかった。

 


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