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【完結】いきものたちの国〜生き物に変身できる国で、ラプトル少女とハチドリ少年が出会った話〜  作者: きろみりぐらむ
番外編

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『ハイエナ』少年の恋(後編)

 学園主催のダンスパーティーが始まった。

 この大掛かりなパーティーは、将来の紳士淑女の育成を目的に毎年開催されるイベントの一つでもある。

 見慣れたホールは豪華な装飾に彩られ、オーケストラによる軽快な音楽が流れる。


 生徒達は色めき立っている。

 これを機に想い人を誘う、誘われるなんてこともあったのだろう。

 しかし、ルゥにとってはただ姉をエスコートする、色気も何もない、いわば『業務』に近いイベントに過ぎなかった。


 学園長の挨拶もそこそこに位置につき、ファーストダンスが始まる。

 最初こそ基礎通りの動きが続くが、段々調子が乗ってきたのだろう。

 ミアは即興で高難度なステップを入れてきた。

 挑発的に、にやりと口角を上げ、楽しんでいる。

 ━━クソが、と心の中で悪態を付きながらルゥは負けじと姉の動きに振り落とされないよう立ち回った。


 気がつけば音楽は鳴り終え、双子は周囲の注目を集めていた。

 ダンス自慢の『ギフト』保持者が姉に次のパートナーの申し出をしていた。

 ルゥもまた、誘ってほしそうな女子の視線を感じながらも、すっかりヘトヘトになり会場の隅にある椅子に足を運んだ。

 全身全力で撃ち込まれるスパーリングを終えた後、流石に続けて踊る気になれなかった。


 そうして壁際に座り、飲み物を口にしていたところで、見覚えのある顔がこちらに向かって来ていた。


 「そこの紳士、誘ってくださらない?」

 「あー……ハイヨロコンデー」

 「うっわ、棒読みー」


 悪ノリするカレアだった。

 妙な安心感を覚えながら、ルゥはニヤつくカレアの手を取る。

 二人はホールの中心へと足を運んだ。


 「……やっぱ誘わないんだ」


 軽くステップを踏んだところでカレアが切り出した。

 誰が、というのはもはや言うまでもない。

 

 「誘ってるヤツ多いみたいだし……」

 「そんなんじゃないでしょ。言い訳過ぎて情けなー」


 カレアは大げさに溜息をついた。


 「ねぇ、このまま何もしないつもり?」

 「何もできないだろ?……もう決めた相手がいるみたいだし」

 「ルゥがグズグズしてるから……あのさ、この際言うけど、ルゥがその気ならだいぶ『ありよりのあり』だったでしょ」


 ━━歩幅が乱れた。

 ルゥはただ黙るしかできなかった。

 今日のカレアはいつにも増して手厳しい。

 それを通り越して、とどめを刺しに来ているようだ。


 「どうせ結婚できないってやつ?付き合ったからって必ず結婚する訳じゃないでしょ?」

 「ミアも同じこと言ってたわ」

 「でしょうよ」

 「……でも、オレにはできない」


 一瞬、ルゥは視線を外す。

 目を向けた先には、どこかの誰かと踊るナラの姿があった。

 それを確認した後、ルゥは目を伏せた。


 「結婚できないけど好きだから付き合ってほしいっていうのは……言えない」


 今度はカレアが黙り込む番だった。

 

 「私は、ナラが幸せなのが一番だけどね」


 ターンをしたところで、カレアは口を開いた。

 

 「ルゥも友達だから幸せにはなってほしいよ?」

 「悪い」

 「本っ当」


 ━━音楽はいつの間にか終わり、二人は離れた。

 

*****


 再び踊る気力をなくしたルゥは、一人バルコニーの手すりにもたれながら空を眺めていた。

 すっかり夜になり、闇夜には雲がかかった満月が浮かんでいた。

 このまま終わるまでここに待機しようかと思っていたところで、背後の扉が開く。

 気分が削がれたと思いながら後ろを振り返ると、そこにいたのはナラだった。


 「あれ、ルゥ?」

 「あぁー……っと、ナラ何でここに?」

 「疲れたから人がいないところで休もうかと思って……そしたら、カレアがここが開いてるって言ったから……」


 やられた、ルゥと思った。

 ナラは隣良い?と言い、ルゥはそれを許可する。

 軽めのフレグランスを付けているのか、隣でふわりと花の香りがした。

 その香りにつられ、ルゥは横目でナラを見た。

 淡いラベンダーのドレスに、髪は花の髪留めでまとめられている。


 「……似合ってる」

 「え?」

 「今日のドレス、似合ってる」


 思わず自然に出てしまった言葉に、ルゥは自分でも驚いていた。

 

 「ありがとう、ルゥも素敵だと思うよ」


 ナラも当然のように、さらりとルゥの装いを褒める。


 「最初のダンスも凄かったね。途中からみんな釘付けになってたよ」

 「アレは、馬鹿姉が調子に乗るから……振り回されて大変なのはこっちだってのに」

 「そっか。ミアもルゥが答えてくれるって信頼してるから、そうなったのかな?」


 まただ、とルゥは思った。

 深く息を吸って、舞い上がってしまうような心を鎮めるように努めた。


 「……オレは多分これから先も姉貴に振り回されてサポートしていくんだと思う」


 そして自分にも言い聞かせるため、ルゥはあえてそれを口にした。


 「卒業したら、家業継いで姉貴のフォローしていくんだと思う。それで、家のために決められた相手と結婚して……」


 そういう役割を自分は求められている、というのは物心ついた時からルゥの中にはあった。 


 「別に嫌じゃない。むしろ、誇りにさえ思ってる。それは嘘じゃない」


 それは本心だ。

 姉は自分の片割れでもあり、その強さに純粋な憧れもあった。

 きっと、お互い何かの危機に遭遇したら、片割れのために行動するだろう。

 それに関しては何の疑いもなかった。


 「……けど、心残りが全くない訳じゃないんだ」


 それもまた、ルゥの本心だった。

 それでも、どこかで区切りはつけなくてはいけない。

 理解はしていた。

 ルゥは目を伏せた。


 「今だけ……隣にいてくれねぇかな」


 とてもではないが、ナラの顔を見ることはできなかった。

 拒否されるなら、それはそれで良いとも思えた。

 ━━意に反して、ナラの手はルゥの背中に伸びた。


 「うん」


 それだけ言うと、ナラはルゥの側を離れなかった。

 ……こういう人だったと、ルゥは思っていた。

 だから好きになった。

 この優しさも、危うさも、強さも。

 ━━大好きだった。

 でも、踏み込むことはできなかった。

 それができたのは、『彼』なのだ。


 ルゥはまぶたを閉じ、ナラは震えるその肩を支え続けた。

 彼らの頭上には雲がすっかり流れ、夜空を煌々と照らす月の輝きがあった。


 ━━後日、公園で再会するナラとエメの姿を物陰から眺めていたルゥ。

 強がりでも何でもなく、心から「良かった」と友人二人を祝福していた。


 


番外編残り二本(それぞれ前後編)投稿します。

明日はエメの話です。


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