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【完結】いきものたちの国〜生き物に変身できる国で、ラプトル少女とハチドリ少年が出会った話〜  作者: きろみりぐらむ
番外編

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『ハイエナ』少年の恋(前編)

ハイエナ少年、ルゥの番外編です。

後編は夜9時頃投稿します。

 ━━詳しい事情は知らされぬまま、エメが学園から姿を消してしばらく経った頃。

 港の近くに立派な門を構える屋敷の中で、ミアはうなっていた。


 「なんでこんな窮屈なもの着ないといけない」


 黒ベースの赤いシックなドレスに身を包んだミアは、苛立ちながら鏡に映る自分の姿を睨んでいた。

 胸は開いているが、腰回りを締め付けるコルセットが気に食わないらしい。

 腹部は無駄な肉はなく、引き締まっている。

 コルセットはきつく締めている訳ではないが、それさえ彼女にとっては受け入れがたいもののようだ。


 近々、学園では毎年恒例となっているダンスパーティーが開催される。

 ━━双子はそれに着ていく衣装の試着をしている最中だ。


 「仕方ないだろ」


 ルゥはジャケットに袖を通しながら姉を諌めた。

 

 「これからそういう服着ないといけない機会も増えてくるだろ。練習くらいに思っとけよ」

 「面倒だ……」


 納得する気は毛頭ないらしい。

 ミアはぶつぶつ文句を垂れ流す。

 ルゥがため息を漏らしていると、不意にミアが横目で弟に目線を送った。


 「分かった上で訊く。おまえ、あいつ誘わないのか?」


 ルゥは目を伏せた。

 ミアの言う『あいつ』のことはよく分かっている。

 ナラのことだ。


 「……分かってんだろ」

 「今、あのオス鳥がいないのにか?」


 エメのことを言っているらしい、ミアが続けて話すも、ルゥの答えは揺るぎがなかった。

 

 「別に番にならないからって好きにしたら良いだろ?この童◯野郎が」

 「おい、それ以上言うな」


 息をするように暴言を吐くミアに、ルゥがツッコむ。

 

 「どヘタレが。自分のものにする気ないなら最初からそういう感情持つな」


 イライラした様子でミアは舌打ちをした。

 数年も片思いを拗らせ続ける片割れに、やきもきしているのだろう。

 

 「うっせ、そもそもお前のせいでもあるんだからな」


 負けじとルゥも悪態をつく。

 そうしたところで、彼の脳裏に鮮明な記憶の端々が思い浮かんでいた━━


*****


 ━━ミアとルゥ、ハイエナ一族は代々ハイエナ『ギフト』保持者がほとんどで、この都市の貿易の要、港町の警備を任せられている女系一族である。

 中でも直系の長女であり、生を受けてすぐに『ギフト』が覚醒。

 天才肌で攻撃性は高いが目標、指令に対し合理的判断ができるミアは一族の中でも期待される存在だった。

 その双子の弟、ルゥは『ギフト』の覚醒こそ姉より遅かったが幼い頃から視野が広く、姉のストッパー役として立ち回っていた。


 そんな彼らが中等校に入学した時のこと。

 いやに神妙な面持ちで窓の外を見ていた姉が気になり、ルゥは声を掛けた。


 「……あいつ」


 ミアはこちらにも目を向けず、ひたすら外を見続けている。

 ルゥは眉をしかめながらミアの目線の先を覗き込んだ。

 どうやら校庭の端あたりを見ていたらしい。

 そこにいたのは、一人の少女だった。


 「あいつ、フェンス越えのボール拾ってやったくせに、すぐ消えてた」

 「は?」

 「昨日も同じ様なことしてた。……助けるくせに相手から気付かれる前に消えてる」

 「…はぁ」

 「何の意味がある?……なんか、不快だ」


 それから、ミアはその少女━━ナラに突っかかるようになった。

 ルゥとしては、気に食わないなら無視したら良いのだと思っている。

 しかし、いくら止めても、首根っこを掴んでもミアはナラに向かい続けていた。

 姉なりに思うことがあったのかもしれない。

 片割れ故に理解できない訳ではないが、それでも止めるこちら側の身にもなってくれとルゥは呆れる日々を送っていた。 


*****


 ある昼休み。

 姉からパシられ、購買で即売り切れると名高い揚げドーナツを手に入れたルゥ。

 しかし、当の本人は何かやらかしたのであろう担任から呼び出しをくらい、ルウは宙ぶらりんな状態になっていた。

 

 「あーっ!」


 やってられないとばかりにルゥは勢い良く校庭のベンチに腰掛けたところで、背後から短い叫び声がした。

 慌ててベンチの背の向こう側を覗き込むと、そこにいたのはナラだった。

 

 「……えっと、何やってんの?」

 「……その…」


 ナラは座り込んだまま、真っ赤になった顔を手で覆って隠していた。


 「……疲れて寝てました。その、あまり褒められた行為ではないので、誰にも言わないでくれると…」

 「言わねぇって。…とりあえずこっち座れば?」


 いまだ地面にへたり込む彼女に隣に来るよう声を掛ける。

 最初ナラは警戒心の塊のようだった。

 それはそうだと思いつつ、ルゥが余ってしまったドーナツを食べてほしいと渡すと、遠慮がちに隣に腰掛けた。

 一口、ドーナツを口にしたところで、ナラは「美味しい」と、顔を若干ほころばせる。


 「……いつも馬鹿姉が迷惑かけて悪いな」

 「え、いや…」


 落ち着いたところで、ルウはナラに話し掛けた。

 戸惑いながらも答えるナラ。

 ほんの少しだけ、沈黙が流れた。

 ルゥは意を決してナラに訊ねる。


 「こんなこと訊くのもなんだけど……何でいつも人助けしてんの?」


 ……ナラは目を伏せた。

 青灰色の長い前髪が揺れる。

 言葉を選んでいるようだった。


 「……やらないといけないから。……ごめん、上手く言えないけど」


 しばらく時間をかけたところで出たのはそんな言葉だった。

 的を得ない言葉ではある。

 ルゥは目線を外して考えた。


 「あー……分かる気がする。いや、分かんねぇけど、何となく」


 事情はわからない。

 しかし、姉のフォローを義務としている自分の姿に重なる部分があった。


 「ま、自分がやるべきって思ったらやっても良いんじゃねぇの?」


 ルゥの言葉にナラは目を見開いた。

 ……そんなに意外だったのだろうか。


 「……ありがとう、そう言ってくれて少し気が晴れたよ」


 やがて、ナラは遠慮がちに微笑んだ。

 ━━その憂いを帯びた瞳に、ルゥは目を離すことができなかった。

 しばらくして「ドーナツありがとう」と言ってナラは席を立った。


 担任に解放されたミアがこっちに向かって来ていた。

 ナラとすれ違い、一瞬横目で見るも何も言わずにベンチに腰掛ける。


 「……あいつの行動は理解不能だ」


 ひとり言のように呟くミアに、ルゥは答える。


 「オレは……どんな理由であれ、実際行動できるのって、誰にでもできることじゃないと思う」


 何言ってるんだと言いかけたところで、ミアはその言葉を飲んだ。

 ナラが去って行った方向を、ルゥはしばらく見つめ続けていた。

 


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