第33話 襟飾り
━━テオが去って数ヶ月が経った。
彼の手紙によると、やはり『ギフト』を失うことにはなったが、体調は今までにないくらい良好らしい。
今は経過を見つつ、近年設立された無魔力者向けの学校に通っているとのこと。
テオの母は無事手に職をつけ、言語の不自由さはあるものの、移民コミュニティに入りそこそこ上手くやっている、と記されていた。
━━ナラは微笑み、手紙を封筒に仕舞う。
そうして馬車の車窓から広がる風景をぼんやりと眺めた。
……きっと、この手紙に書かれていないことはたくさんあるだろう。
それでも、二人とも懸命に生きているのだ、とナラは思った。
しばらくして、馬車はヴェイル本家へと到着した。
執事に案内されるがまま、ナラは庭園へと足を運ぶ。
そうして、東屋でうたた寝をしている祖母を目にした。
珍しいな、と思いながら側に寄ると、ふと祖母の傍らに置いていた手紙と、二枚の写真が目に入る。
一つは、ティラノサウルスの背中に子ども達がたくさん乗っている写真、もう一つは祖母を中心に子ども達が集まっている写真だった。
子ども達の表情は明るい。
そして、祖母はナラが知る限り見たこともない、明るいパンツスタイルの服を身に着けている。
目に厳しさは残っているものの、口角は上がっているように見えた。
「……来ているのなら、声を掛けなさい」
やっと目を覚ましたらしい、祖母がさっと手紙を隠しながら口を開いた。
「被災地支援に行った時の写真ですか?」
「…えぇ、まぁ」
祖母にしては歯切れ悪く返事をする。
「…お礼の手紙が届いたの」
あの日以来、祖母は自分の『ギフト』を活用すべく、被災地への支援を行うようになった。
金銭面でも元々支援はしていたが、今は主に持ち前のパワーを生かして瓦礫などの撤去作業をしているという。
━━廃材を軽々押し退けるティラノサウルスが子どもウケが良いのは、何となく想像がついた。
「素敵な写真ですね」
「……でも、まだまだ向こうのインフラは安定していない。やらなくてはいけないことは、たくさんあるわ」
そう話す祖母は真剣であるものの、今までの威圧感漂う姿ではなかった。
「私のことは良いのよ。それより今日来てもらったのは、ナラに渡したいものがあるからなの」
祖母は話を変えて、近くに控えていた執事にある物を持ってこさせる。
━━それはリボンが結んである、薄い箱だった。
ナラが不思議そうに見つめていると、祖母は開けるように催促する。
恐る恐る、ナラはリボンを解いて箱の蓋を開けた。
━━襟飾りだった。
それなら以前『花まつり』の際に貰っている。
ナラは目を見開いて祖母を見た。
以前と違う点がある。
━━首の後ろにある刺繍、それはラプトルのシルエットだ。
「貴方は私と同じだと思っていた」
祖母は口を開いた。
「でも、そういう時代ではもうないのよね。何より」
少し、間を置いて祖母は言葉を紡ぐ。
「……ナラは自分の足で立つことができるもの。私がお膳立てしなくても」
祖母の瞳に、穏やかさが宿っていた。
二人の間を、風が静かに吹き抜ける。
「私に教えてくれたように、貴方も貴方の人生を走り抜けてちょうだい。……ただ、暴走はしないように」
くれぐれもお願い、と言い聞かせる祖母。
━━ナラは襟飾りを抱き締めた。
言葉が出ない。
胸の奥がじんわりと熱くなる。
……『花まつり』まで、まだ早い。
きっと、あの日から被災地の支援の合間を縫って、刺してくれていたのだろう。
「ありがとう、お祖母様っ!」
大切にすると話すナラに、祖母はわずかに口角を緩めていた。
次はいよいよ最終話です!
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