幕間 イリス⑨(後編)
「ただ見返してやりたかったんですけどね、いや、今もそうなんだけど……」
「?」
「いえ、独り言です」
突然のイリスの発言に、二人は目を丸くしていた。
「……私は私なりにやれることがあるのかも、って思っただけの話です。だからセルディアスに帰ったら……またがんばってみたいと思います」
「そう、ですか」
相変わらずジェフもグレイも、訳がわからない顔をしていた。
それで良いのだと、イリスは思った。
━━セルディアスで、色んな出来事があった。
鬱屈した気持ちにもなり、危険な目にもあった。
それでも、こんな自分にしかできないこともきっとあるのではないかと、今は思えた。
ナラの様に多くの人々を救おうとするのは、無理かもかれない。
しかし、自分が手を伸ばしたいと思った人とは、向き合えるような将来にはしたい。
「とりあえずセルディアスに着いたら出掛けませんか?」
━━意を決したイリスは、グレイの顔を見た。
ここで話しかけられるとは思っていなかったであろう、グレイは面食らっていたが、すぐに切り換える。
「あぁ……買い物か?でもまだ護衛としては足の具合が不十分だが……」
「………そう言う意味ではありません」
グレイは眉をしかめた。
イリスの言っている意味が分からないようだ。
何かしら察したジェフは、気配を消しながら後ずさりする。
「あぁもう!デートに誘ってます、私、貴方を!」
「……はぁ!?」
混乱し大きな声を上げるグレイ。
イリスは半ばやけくそになった。
「嫌ですか!?慎ましやかではない女は嫌ですか!?」
「そういうことじゃないだろ!」
「それでは……私が嫌ですか?」
「!!………」
グレイは黙り込んだ。
恐る恐る、イリスはグレイの顔を覗き込む。
「……嫌ではない、ですか?」
「………」
その返事は返ってこなかった。
ただ目線を逸らしてイリスを見ないようにしている。
「……それでは、好きになってください」
「できれば……」と、イリスは付け加えた。
グレイは唇を動かしているようだった。
しかし、それは音になることはなく、かすんでいるようだ。
━━否定はされていないのかもしれない。
イリスは黙り込むグレイの手に、ゆっくり指を伸ばした。
ぴくりと、グレイの手が反応する。
しかし、避ける様子は見当たらない。
それが分かったところで、イリスはグレイの手を握り締める。
━━船のエンジンの音が響く。
それよりも、自分の心臓の早鐘がうるさいと、イリスは思う。
そして、繋いだ手……冷たく震える手を、心から愛しいとイリスは思った。
一方、二人の様子を遠巻きに見ていたジェフ。
「……ありゃあ『好きになる』じゃなくて、既に『好き』なやつだねぇ」
口角を緩めつつ、一人船の中へと足を向けた。
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