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【完結】いきものたちの国〜生き物に変身できる国で、ラプトル少女とハチドリ少年が出会った話〜  作者: きろみりぐらむ
最終章 風邪の先

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幕間 イリス⑨(前編)

 イリス達は後ろからテオ親子の様子を見守っていた。

 ……突然、イリスは自分の両手で頬を思いっきり叩く。


 「な……んだ?」

 

 戸惑いを隠せないグレイに、イリスは答えた。


 「自分の愚かさを恥じているところです。私は友人……ナラを見下していた」


 損得考えず、むしろ損をするような行動をとるナラを、どこか要領の悪い人間だと思っていた。

 しかし、目の前の光景を見て思い知らされる。

 ━━これはナラがテオにやってきたことへの結果なのだろう。

 思えば、手紙をやり取りする中でも、ナラは何度もテオにとって最善になる方法を探していた。


 「……でも今は違うんだろ?」

 「はい、尊敬しています」


 その言葉がスッと口から出た時、イリスは胸の中にずっと引っ掛かっていたものが、消えていることに気付いた。

 それを確認できた後で、ふと背後を振り返る。


 「それはそうとジェニスさん、ずっと落ち着きありませんでしたね」


 数歩離れた後ろに立っていたジェニスは、明らかに動揺した様子だった。


 「そ、そうですかねぇー」

 「挨拶の時には落ち着いてましたけれど……」


 「多少」と喉まできていた言葉を、空気を読んで引っ込めるイリス。

 そのぐらいジェフはこの国に着いた……むしろ到着する前から、そわそわしていた。

 ナラ達との待ち合わせまで時間があったので周辺を散策したのだが、少年のように輝く瞳で、ずっと「素晴らしい」「なんてことだ」を繰り返しぶつぶつ言っていたのだ。


 「実は自分、小さい時からアルケアには憧れがありまして……本当はイリス嬢がセルディアスに来た時から話は色々聴きたかったんですよね」

 

 「話したがらなさそうだったから、ずっと聞けなかったんですが」と、ジェフは話した。

 イリスは苦笑した。


 「ちょっと語っても良いです?大学の時に禁書を読んだ時の話なんですが……」


 すっかり明らかになったところで、前々から話したかったのだろう、ジェフは軽快に切り出した。


 「古文書だったんですけどね……それによるとアルケアの『ギフト』は、あくまで魔術の一種ではないかと記されていたんですよ」

 「魔術の一種、ですか?」


 怪訝そうに眉をひそめるイリスに、ジェフは「驚いちゃいますよねー」と言いながら続けた。


 「詳しい話はこうです……昔、セルディアスの魔術士が船で遭難し、アルケアに流れ着いた。そこで生物達の力を持つアルケアの人々を見て彼は驚いたが、やがてアルケアの人々が魔術の素養に恵まれ、一つの動物だけでなく様々な魔術が使えることを知った。魔術師はアルケア国民に広く魔術を学ばないかと誘ったが、ある男が不思議そうにこう答えた。

『人間は災害があればすぐ巻き込まれ、オオカミの前に丸腰で転がり込めばすぐ食われる。そんなちっぽけな人間が得難い力を持っているとしたら、それは親切な生き物達が力を貸してくれているだけだ』」


 ━━イリスは言葉を失っていた。


「この話を読んで、より一層自分はアルケアに興味が湧きました」


 ━━海風がなびく音が、やけに大きく聞こえる。

 イリスは考え込んだ。


 「でも、テオ君のように自身の『ギフト』で苦しい状況になるんだったら、おかしくないですか?……私だって自分の『ギフト』はあまり好きでは……」

 「そうですよね、不快な気持ちにさせてしまってすみません」


 謝罪しつつ、ジェフは続けた。


 「……テオ君についてなんですが、彼の症状は魔力が人の身には強すぎて侵食しているものによく似ています」


 これはあくまで自分の推測ですけど……と、ジェフは続ける。


 「それにタンポポが当てられたってことも考えられるのでは、と思ったんです。だって植物ってなに考えてるのか分からないじゃないですか?それって怖くないです?タンポポってあんなささやかそうなのに根は深いですし」


 あくまで自分の推測ですからね、と彼は強調した。

 イリスは黙り込んだ。

 ジェフの言うことは一つの仮説に過ぎないが、意識的なものが『ギフト』決定に繋がっているとすると……自分の『ギフト』は……。

 それを思ったところで、イリスの頭に浮かんだことがあった。

 ━━ずっと昔に、部屋に迷い込んできたハエトリグモも逃がしたことがあった。

 紙の上に乗せても跳び回り、窓の外に出すまで思いの外苦戦してしまう。

 ようやく窓の縁に乗せたところで、まじまじと見ると、手を擦り合わせるような仕草をしていていた。

 ━━こんなに小さいのに、なんて驚異的で愛らしいのだろう。

 そう感じたことを、ありありと思い出す。


 「……ふっ」


 急に吹き出したイリスに、ジェフはギョッとした。


 「ありがとうございます、ジェニスさん。……おかげで、大切なことを思い出せたような気がします」

 「どう……いましまして?」


 いまいち状況を把握できず、戸惑うジェフ。

 それを差し置いて、イリスは風に舞う横髪をかきあげた。


ということで、プロローグはジェフ視線の話でした。


後半は夜9時頃に投稿します!

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