幕間 テオ③
船に乗り込み、荷物を降ろしたテオはふと、窓の外を覗き込んだ。
桟橋にはまだ、ナラとナラの母の姿がある。
名残惜しそうにこちら側を眺めている。
それを見て、テオは衝動に駆られた。
━━気がつけば走り出していた。
扉を開け、甲板に出て、見つけたナラに向かって叫ぶ。
「……ごめんっ!ごめんなさい!」
繰り返し叫んでいると、その声にナラが気づき、驚いた顔になった。
やがて、船は汽笛を上げて出航する。
離れていく桟橋の上を、ナラが走り出した。
「ごめん!」
エンジンでほとんど声は消される。
それでもテオは叫んだ。
「ナラ、ありがとうっ!」
そう叫んだ頃には、ナラの姿は小さくなっていた。
「……テオ」
背後から後を追いかけてきた母が声を掛ける。
「……本当に良くしてくれたんだ」
絞り出す声でテオは話した。
「訳が分かんない……なんであんなに良くしてくれたか……」
顔を伏せ、目を擦るテオに、母は答える。
「そうね、お母さんはナラさんのことはあまりよく分からないけど」
しばらく考え込んだ後に、母は口を開いた。
「きっと、そういう『あり方』の人なんだと思う。……テオの方がそれは分かるじゃない?」
母の問いに、テオはこれまでの出来事を思い出していた。
ヴェイル本家でお茶した時のこと、財布を貰ったこと……
━━そして、衝動的に走り出すラプトルの姿を思い出す。
やたらと絡んでくる人懐っこい姿も思い出す。
「……そう、そういう人だった」
━━テオは既に答えを知っていた。
「……もっと、ちゃんと……ありがとうって言えば良かった……」
「そうね。それじゃあ、手紙書かないとね」
「そのための手紙だもの」と母はテオの背中に手をやる。
テオは黙って頷いた。
「……あともう一人、伝えないといけないやつにも手紙書くよ」
そうして、顔を上げて目の前に広がる海原と、船の通った後に残る白い飛沫を、しばらく見つめていた。




