第4話 闇のオークション
━━そして迎えた父との外出の日。
行き先は内緒だと言われ、小船に揺られて連れられた先は、とある島だった。
到着する前に警備員のボディチェックが入り、目元を隠す仮面を渡される。
島自体はリゾート地の様に整備されている。
それなのに警備員の数がやたらと多い。
「これ……合法な場所……なんだよね?」
船着場から少し離れた場所、建てられた豪邸にて。
案内されたホールの一番後方の席に座ったところで、ナラは父に耳打ちした。
階段式に席が設置されている会場は薄暗く、あまりはっきりと周りが見渡せない。
ナラ達と同じ様に仮面を身に着けた紳士淑女達が、席に座っているのは確認できた。
どことなく聞こえる声のイントネーションは、聞き馴染みのないものである。
身なりからしてそれなりの富裕層でありそうだが、どこか浮き足立っているような、異様な空気を醸し出している。
不安で仕方ないナラに対し、父はニッコリと笑顔を返す。
「ハハハ、その質問に返答するなら……そうだな、『ゴリッゴリにアウト』だと答えようかな」
父から返ってきた言葉にナラは絶望した。
父の意図はまだ分からない。
だが、突拍子もないことを企んでるのは確かだ。
……そして、それを素直には答えてくれないのだ、とナラは知っている。
案の定「まぁ、もう少し待っていてごらん」と父が話す。
ナラは目線を中心のステージに向けたところで、視界が真っ暗になった。
他の観客達が会話していた声も止み、静まりかえったところでステージにスポットライトが当たる。
━━そこには仮面とシルクハットを身に着けた男が立っていた。
「紳士淑女の皆様!」と、会場の隅までよく通る声で観客達を讃える口上をしばらく述べていた。
「今宵も司会進行を務めますのは私と…」
そう言ったところで、ステージの袖から、スタッフが2人、棺のような箱を運んできた。
閉じていた蓋を開け、観客に何も入っていないことを確認させ、再び蓋を閉める。
スタッフ達は、箱を数回転し、横に倒した。
何時ぞや見た、マジックのようだとナラは思った。
そうして、箱の蓋がひとりでに開いたかと思うと、ナラの目に映ったのは、翼だった。
翠のような、蒼のような━━大きな翼がライトに照らされ、キラキラと光沢を放っている。
その翼が下ろされ、人の横顔が現れた。
━━美しい女性だった。
翠の中に赤が混じった髪に、メイクが映える華やかな顔立ち。
女性は観客側を向き、魅惑的な笑顔を向ける。
そして司会者から差し出された手を取り、箱から白くて細い脚を出す。
翼だった手はいつの間にか人の手になっていた。
「アシスタントは、我らがステージの宝石、エメ嬢!」
観客達が一斉にざわめいた。
皆、彼女に魅了されていた。
ナラもまた、彼女から目を離せなかった。
こんなに、美しさに特化した『ギフト』の有り様を目にしたのは、ナラが見てきた中でも初めてであった。
「……綺麗な人だね」
こぼれるように父に話すと、父は苦笑する。
「そうだね。でもこれから起こる事に、あまりショックを受け過ぎないことを願うよ」
「え?」
意味が分からず、父の顔を覗き込もうとしたところで、ステージの様子が一変する。
ステージではアシスタントの女性がアンティーク調の白い植木鉢を手にしている。
植えている花は……おおよその見た目で判断する限り、タンポポの様に見えた。
素敵な花だと思うが、随分と仰々しい鉢に植えているな、とナラが思った瞬間に黄色いタンポポは綿毛となり宙を舞う。
それが一箇所に集まったかと思うと、一人の少年が現れた。
━━会場は沸き立った。
「さぁさぁ、『ギフト』様々と言えど、こちらに見えるは世にも珍しい植物の『ギフト』を持った少年!しかも可憐なタンポポときた!もったいぶるのも惜しいというもの!開始価格1000万から!それでは早速入札スタート!」
━━全身の血の気が引くようだった。
会場は熱狂の渦、手札を上げる観客達、そして跳ね上がっていく数字。
━━その数字が示すところは何であるのか、嫌でもナラは理解してしまった。
「……醜いだろ?我々の『ギフト』は、こういった連中にとって商品価値があるようでね」
父が冷たく囁いた。
「そしてこちら側でも、貧困や育児放棄等を理由に、騙されて子どもや自身を売る者は少なくない。……その後どうなるかも知らずにね」
こういう世界もあるのだと、父は言った。
妙に冷えてきた頭の中で、ナラは考えた。
父の意図を理解するのは難しかった。
……この様なショッキングな現実があるのを見せた上で、足るを知るように、ということなのかもしれない。
━━昔から、父はこういうところがあった。
子どもに対する愛情はあるのだろうが、やることが極端なのである。
フォロー体制は整えた上ではあるものの、服毒された際、少しは動けるようになるよう実技有りで指導を受けたこともある。
その度にナラの母に怒られていたのだが。
「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」を言葉通りに実践する人間なのだ。
……それにしても、谷の闇が深過ぎではないか。
「気分転換というには、あまりにも吐気がする……」
「そうだね、ここはもう去るとしよう」
ナラと父は立ち上がり、異様な熱気に包まれる会場を後にすることにした。
「我が国も舐められたままにはいかないからねぇ……悪い連中には、しっかりお仕置きしないと」
そう呟く父の横顔は、少し恐ろしかった。




