第3話 「残念」
「ラプトル?」
「はっきりとは分かりませんが、ラプトルの系統では?とのことです」
「何それ、初めて聞いたわ」
それはこっちだってそうだと言いそうになったが、ナラはその言葉を飲み込んだ。
職員はドロマエ何とかの仲間……などと言っていたが、正直飲み込めていない。
ナラにとってその手の生物はあまり馴染みがなかった。
強いて言うならば幼い頃、家にあった図鑑に載っていたのを読んだことはあっただろうか。
「こんな生物がいたんだなぁ」と感心した記憶はあるのだが、曖昧である。
━━穏やかな日差しが、心地よいはずの午後。
剪定した庭木や花々が美しさを誇っている東屋にて。
ナラと老婦人はお茶を口にしていた。
彼女はナラの父方の祖母だ。
お茶を口に運ぶ完璧な所作、威厳な顔立ち、そして彼女の夫が亡くなって以降、黒に統一されたドレス。
どれもが祖母の人となりを表している。
『ギフト』は、例外はあるものの、おおよそ家系によってある程度の傾向がみられるとされている。
ナラの家系は、爬虫類系の『ギフト』を多く輩出している、アルケアの中でも古く由緒正しい一族であった。
その中において、前当主の妻である祖母は、絶大な影響力を持つ存在であり、ナラにとっては畏怖の象徴だ。
ナラは祖母にとって三男の娘にあたり、厳密に言うと本家筋ではないが、こうしてお茶やパーティーに呼ばれることが度々あった。
それらはナラにとっては身構えてしまう時間でもある。
━━今日ナラが呼ばれた目的はきっと『覚醒の儀式』の結果について、だろう。
ナラはお茶の席について早々、その話題に触れることにした。
「どうやら肉食系の絶滅種のようで……あまり多くない『ギフト』だから、分かるまで時間がかかったようです」
ナラが説明した瞬間、祖母は一瞬カップを持つ手を止めた。
しかし、すぐに「そう」とだけ言って、再び紅茶を一口、口にする。
「……それは残念ね」
「え?」
━━木々のざわめきが、いやに反響して聞こえた。
「嫁ぎ先で嫌がられるかもしれない」
こちらの様子を伺うことなく、祖母は続ける。
「……学園でしっかり制御する方法を学びなさい」
全身が凍てつく感覚を、ナラは覚えた。
正直、その後のことはあまり覚えていない。
━━確かに、この『ギフト』を与えられたことで、多少不安を感じてはいた。
しかし、祖母からそういった判断を下されるものだとは思っていなかった。
(……これは「残念」なもの、なの?)
*****
……嫌なことを思い出してしまった。
ナラは帰宅し、夕食の後でさえ、晴れない気持ちを抱えたままでいた。
自分の部屋に入って気分転換に手紙を書こうと机に向かうも、ペンは進まずにいる。
そうしていると、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「ごきげんいかがかな?愛しのマイガール」
整えられた髪に、センスの良い礼服。
嫌味がなく、上品な時計などのアクセサリーを身に着けた紳士━━父だ。
仕事で帰宅が遅くなることが多い彼であったが、疲れた様子など、どこにも見当たらない。
むしろ朝出勤する前だと言われても、疑わないほどの余裕を持ち合わせていた。
「君のママが心配していたよ、何だか元気がないってね。何かあったのかい?」
「……別に、何もないよ」
「さしずめ、『ギフト』のことだろう?」
ギクリとして父に目をやると、彼は相変わらず余裕のある微笑みを浮かべていた。
━━この父に隠し事をするのは容易ではない。
そう思ったナラの感情でさえ、手に取るように分かっているのだろう。
「ハハハ、それじゃあ今度の土曜日、気分転換にパパと一緒にお出掛けしようじゃないか」
「お出掛け?」
━━ナラは目を丸くした。




