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【完結】いきものたちの国〜生き物に変身できる国で、ラプトル少女とハチドリ少年が出会った話〜  作者: きろみりぐらむ
第五章 禁足地の影

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第28話 渓谷へ(暗雲)

 港のすぐ側に馬車は用意されていた。

 ふんだんに金細工があしらわれ、いかにも上層部向けの物だと判断できる。

 ルシアンにエスコートされ、ナラはそれに足を踏み入れた。

 シートの心地良さも一級品で、まるで本家の馬車のようだとナラは思った。

 しばらくして馬車は動き始めたが、揺れをほぼ感じさせない。

 何から話すべきかと考えていたナラであったが、乗ってからはほぼルシアンの独擅場だった。


 「アルケアは本当に素晴らしいですね。『ギフト』もさながら、このような特色豊かな国は他に例を見ません」

 「建築物も大変興味深い。港の正面にあった建物は歴史を感じさせるものでしたね」

 「島国だからでしょうか、独自の生態系が確立されているようですね。路地を少し観察しただけでも、目にしたことのない植物がいくつかありました」

 「他国ではすでに絶滅してしまった生態も生き残っているそうですね。ヴェイル家が管理している渓谷の奥深くにも、そういったものが現存している、とか」


 窓の外の風景を楽しむ訳ではなく、続けざまに話しかけるルシアン。

 ナラは、ただ戸惑うことしかできなかった。

 恐る恐る口を開く。


 「すみません、私はそういったことにあまり詳しくなくて。広い土地ですし、特に渓谷の奥は禁足地なもので……」

 

 期待に答えられず、申し訳ない気持ちでナラが話すと、ルシアンは目を見開いて驚いているようだった。


 「そうですか。いや、私もつい一方的に話してしまいました。申し訳ございません」


 そう言葉にしつつも、ルシアンは黙る様子を見せなかった。


 「しかし、こんなにも素晴らしい物の宝庫だというのに、アルケアの方々は実にもったいない」


 心から惜しむようにナラに話しかける。

 正確には、「ナラに」ではないかもしれない。

 目を向けながらも、その瞳にはナラは映っておらず、どこか別の場所を見ているようだった。

 それが感じられ、得体の知れない寒気がナラの背筋を這い上がった。

 ルシアンはナラの様子を気にかける様子もなく、続けた。


 「植物の『ギフト』をお持ちの貴方もそうです。いくら寿命が関わっているとはいえ、それをなくすことを選択肢の一つにするとは、疑問を持たざるを得ません」

 「侯爵っ!?」


 ナラは思わず声を荒げてしまった。


 「……おや、もしや本人はご存じないのですか?」


 ナラは咄嗟に、テオへ目を向けた。

 テオは取り立てて心乱した様子もなかった。

 慌ててナラは掛ける言葉を探りながら、話しかける。


 「……テオ、あのね……」

 「いいよ、言わなくて」


 テオは無機質に答えた。


 「そういうこと……なんでそ…」


 何事もなかったかのように淡々と話すテオに、ナラは言葉を失った。

 想像していた通りになってしまった。

 ただ━━テオの様子がおかしい。


 「テオ、具合悪いの?」


 ルシアンに話しかけられていたので今まで気付かなかったが、感情はないにしても変だ。

 呂律も回っていなかったような気がする。


 「テオっ!」


 その瞬間、テオは頭から前に倒れそうになった。

 それをナラが支えて、話しかけるも反応がない。

 こころなしか呼吸も浅い。


 「すみません!病院に……」


 ほぼ叫ぶ様に周りに声を掛けた。

 ━━それと同時だった。

 ナラの首筋に激痛が走る。

 思わずそれを振り解くと、馬車の窓に何かがぶつかる音がして、床に転がる。

 ━━注射器だった。

 言葉を失うナラ。

 ふと、顔を見上げてる。

 そこには悲しげなエメの顔があった。

 何が起こったのか、理解できなかった。

 それでも頭の中で考えがぐるぐると巡る。

 ……この馬車に乗って、エメは一言も話してなかった。

 護衛はどこに控えているのか?

 ここに来る前、港でエメがぶつかっていた男━━どこかで見たことがあったような気がしていた。

 そうだ、マーケットで……エメにスリをしたネズミの男。

 そして、テオは何でこのような状態に……

 ここに来る前に飲食していたのは……


 あ、と思う前に手足の感覚がなくなり、テオの身体はおろか、自分の身体でさえ支えることができなくなった。


 「……ごめんね」


 その声だけが、馬車の中に落ちた。

 


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