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【完結】いきものたちの国〜生き物に変身できる国で、ラプトル少女とハチドリ少年が出会った話〜  作者: きろみりぐらむ
第四章 『どういたしまして』

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幕間 イリス⑦(後編)

 館内を歩く侯爵とイリスの姿を、離れた場所でグレイは見ていた。

 ━━上質な衣服と、それに見合った優雅な振る舞い。

 どう見ても模範的な紳士淑女だ。

 ふと、グレイは真横に展示されていた史料に目をやる。

 それはかつて魔鉱石鉱山採掘に使用されていた特殊な道具や、当時の様子を描いた絵画だった。

 グレイは視線を、再びイリス達に戻す。

 例え多少なりとも身なりを整えたとしても━━やはりあの二人と自分は違う。


*****


 博物館での目的を済ませたイリス。

 ルシアンとの話も無事まとまり、収穫ある時間だったはずだが、気持ちは晴れなかった。

 グレイはやはりイリスの後ろを歩いている。

 ━━相変わらず気まずい。

 そう考えながらイリスが歩いていると、年配の男性がすれ違いざまにグレイに声を掛けた。

 「お前グレイか?」「生きていたのか」「達者でな」

 そういったことを話し、すぐに去って行った。

 グレイは驚いた様子は見せるも、一言も声を発することはなかった。


 「お知り合いですか?」


 イリスは会話のきっかけにでもなるかと思い、グレイに話しかけた。

 グレイはぶっきらぼうに答えた。


 「……何もない」

 「いや、そんな訳ないでしょう?」

 「アンタには関係ない」

 「関係ないですけど……そんな言い方しなくても良いじゃないですか」


 「関係ない」と言われたら深入りするべきではないのだろう。

 しかし、ここ数日のもやもやが積もっていたイリスは思わず言い返してしまった。

 そこから押し問答が始まった。

 何度かそれを繰り返したところで、痺れを切らしたグレイがイリスを睨んだ。

 

 「……この国で無魔力者がどんな扱いを受けてきたのか、アンタ知っているか?」

 「はい?何を唐突に」

 「物心ついた時から、魔鉱石の鉱山にぶち込まれる」


 突然の告白に、イリスは言葉を失った。


 「……魔力がある人間にとって、魔鉱石が大量に集まっている鉱山は身体に障りが出る。それがからきしない奴だったらなんら問題はない。ましてや」


 グレイは言葉を飲んだが、目を伏せた後、淡々と話しを続けた。


 「狭い坑道を通れるガキなんてのは、使い勝手が良い。命綱一本で危険な坑道を歩かされて、夜も昼も分からないまま、一日中働かされる」


 ━━子どもでも関係ない。

使い潰されてきた過去がある。

 まさかこんなにも近くに、その最中にいた人物がいたとは、イリスは想像もしていなかった。

 戸惑うイリスを尻目に、グレイは続けた。


 「そうやってこき使われた挙句に、ずっと魔鉱石に触れ続けて、無魔力者でも身体に異常が出る。俺の場合、見ての通りだな」


 そう言って、グレイは髪で隠した顔に手を伸ばした。 


 「……色素が抜けてるから髪は染めてる。片目の機能はほとんど失われてる。……これが出始めた時、なんて言われたか分かるか?」

 「いえ…」

 「『目に出て良かったな、全盲になれば補助金が下りて、最低限食うには困らない』」

 「……」

 「結局全盲になる前に鉱山は閉鎖されて、こうやってしがない警備員をやっている訳だ。……これで満足か?」


 何も、言うことができなかった。

 あまりにも衝撃が強すぎて、イリスは話すべき言葉を失ってしまった。

 その様子を見て、グレイは手を下げて溜息を漏らす。 


 「分かっただろう?アンタと俺とはそもそも住む世界が違う。アンタが一緒にいるべきなのは、あの侯爵のような人間だ。俺には必要以上に近付くな。分かったら……」

 「そんなの……分かりませんよ」


 自分でも意図せず、反射的にイリスは言葉を発していた。

 その感情のままに、イリスはグレイを睨みつける。


 「侯爵と過ごすより、グレイさんと一緒にいた方が……私にとってはずっと意味があるのに!」


 そう吐き捨てて、視界が滲んだまま、イリスは走り出した。

 背後でグレイが呼び止める声がする。

 ━━知ったものか!と心の中で叫びながら、イリスは逃げるようにその場を去った。


*****


 閑散とした公園のベンチに座りながら、イリスは自己嫌悪に陥っていた。

 ……グレイが自分の過去を話したのは、決して気軽なことではなかったはずだ。

 ましてや、必要以上に話さない彼のことである。

 ━━それを、イリスが話させてしまった。

 こういうのはもう止めようと思っていたはずなのに、とイリスは溜息をついた。

 いつも自分が身勝手に感情を押し付けてばかりなのだ。

 彼を尊重できていただろうか?

 ━━せめて、彼の話に耳を傾けよう。

 それから自分の気持ちも伝えよう。

 

 (カレア……ナラ……)


 異国にいる友人達を思い出しながら、イリスはベンチから立ち上がった。


 ━━その瞬間、耳元で知らぬ声が聞こえた。

 聞き馴染みのない単語だったが、知っているような気がする。

 ……あぁ、これ学校で習った『失神の魔法』だ。

 でも、これ禁じ……。

 禁じられていたのではないか、と思う前にイリスは意識を失った。


不穏な空気になったところで、次の章に入ります!

次はいよいよクライマックスの章です。

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