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【完結】いきものたちの国〜生き物に変身できる国で、ラプトル少女とハチドリ少年が出会った話〜  作者: きろみりぐらむ
第四章 『どういたしまして』

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幕間 イリス⑦(前編)


 セルディアスで一番規模が大きいと謳われる、博物館にて。

 侯爵ルシアンのエスコートを受けながら、イリスは館内を歩いていた。

 主な展示物の説明をルシアンが直々に説明してくれるのだが、イリスはどこか上の空であった。

 ……グレイは二人から離れた後方に控えている。


 先日イリスが外出した際、暴漢に襲われそうになったのを、グレイが防いだ。

 その事自体は何も問題はない。

 しかし、彼が暴漢を脅すために使用したのは、イリスが先日プレゼントしたペンだった。

 悪意はなく、その時たまたま手にしていたに過ぎない。

 ……それは理解している。

 彼は仕事をこなしただけであるし、そもそもプレゼントしたものをどう使おうが、彼の勝手である。

 それは理解している。

 けれど、暴漢の眼球スレスレでペン先を突き立てている瞬間を目撃してしまい、イリスは衝撃を受けてしまった。

 同時に言いようもないわだかまりが、胸の中にずっと残っていた。

 ━━それから、何となく二人は気まずくなり、距離を取るようになっていた。

 

 「お疲れでしょうか?」


 その様子に気付いたであろう、ルシアンが心配そうに声を掛けた。

 

 「いえ!しかし、素晴らしい展示物ですね。どれも貴重な品々ばかりで……」


 慌ててイリスが話を反らすと、ルシアンは微笑んでお礼を言った。


 「ところで閣下は何故、博物館の支援をしようと思い立ったのでしょうか?」


 特に深い意味はなく、イリスは会話の流れで言ったに過ぎないが、その問いにルシアンは考え込む。


 「そうですね……幼少期から歴史や文化財等に興味はあったのですが……」


 またしばらく考え込み、ルシアンは語りはじめた。 


 「私には昔、愛していた鳥がいまして。長期休暇で滞在する別荘で、よく見かけていた鳥なのですが、その美しい鳴き声を聞くのが私の楽しみでもありました」

 「鳥、ですか?」

 「はい、鳥です。……その鳥なのですが、ある年から、害鳥だとみなされ、大量に駆除されてしまいまして……」


 ルシアンは物悲しげに目を細め、続ける。 


 「今ではその姿は、幻の存在だと言われるほどになってしまいました」


 何故今、鳥の話なのかイリスには分からなかった。

 しかし、想像していなかった展開に何も言えなくなる。

 ルシアンは、なおも続けた。


 「イリス嬢は二十年ほど前に、とある遺跡が民族間の紛争で失われた、という事件はご存じですか?」

 「……学園で学んだことはあります」

 「そうですね、歴史的に重要な事件ですから。私もその事件を知った時に酷く衝撃を受けたものです。……くだらない民族同士の抗争で、価値があるものが失われるなど許されてはならない、と」

 

 ルシアンは一拍間を置き、続けた。

 

 「……だからこそ、思ったのです」

 「価値があるものは━━それを理解している者が、守らなければならないと」


 彼は決して声を荒げている訳ではない。

 しかし、確かな強い意志を感じさせるものである。


 「鳥は人にとっては害だったのでしょう」

 「……それでも、失われて良い理由にはならない」

 「私にその力があるのなら、守る側の人間として尽力すべきだ、と━━それが、私の活動の根源です」


 話が終わり、イリスは圧倒されながら、ぽつりと口を開いた。


 「……なるほど、ご立派ですね」


 そのぐらいしか、イリスは言葉が出なかった。

 どこか演説じみているとさえ感じた。 

 ルシアンのことが直視できず、一番近い展示物に目線を移す。

 そこで目にしたキャプションの内容が、イリスは妙に気になり始めた。

 どことなく、違和感を覚えていた。

 言うべきか迷ったイリスだったが、意を決してルシアンに訊ねる。

 

 「すみません、この壁画は先の遠征の戦利品として持ち帰った、とありますが、返還はされないのでしょうか?」

 「返還、ですか?」


 ルシアンは心底驚いた表情を見せた。


 「いえ、遠征も随分前で、現地も落ち着いていると話を聞いたものですから。何と言いますか……この壁画を失って心を痛めている現地の人がいるのではないかと思うと、これは略……」


 『略奪』と言いそうになり、イリスは慌てて訂正する。


 「盗まれた、と思う人もいるような気がしたのですが……」


 沈黙が流れた。

 ルシアンは思考を巡らせているようだった。


 「なるほど、興味深い考えですね」


 たっぷり時間をかけたところで、ルシアンが話し始めた。


 「そうですね、略奪は恥ずべき行為だと思われていてもおかしくないでしょう」


 『略奪』。

 その言葉が出た時、イリスは心臓が跳ね上がった。


 「……私としては、安全が保証され、管理技術が行き届いているのであれば、返還することもあり得るのでしょうが、実際はどうなのでしょう?」


 ルシアンはイリスを見据えて話した。


 「我々が管理することで、守られている貴重な品々も存在しているのは事実です」

 「……そうですね。知ったようなことを言ってしまい、申し訳ございませんでした」

 「いえいえ、ご意見大変に参考になります」


 もう何も言うまいとイリスは思った。

 ━━『参考』になる、なんて社交辞令だろう。

 イリスから見て、ルシアンの瞳は、自分の正しさを疑っているようには━━見えなかった。

 それよりも、とイリスは話題を切り替える。

 

 「ところで閣下、このような時に申し訳ございませんが、折り入って相談がございまして……」


 改って間を取り、イリスは話した。



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