第23話 『ラプトル』
『花まつり』から自宅へ戻ると休む間もなく、ナラの家では家族、使用人を巻き込んだ緊急会議が開かれていた。
話の中心はもちろん、エメの膝の上に乗るラプトル━━もとい、ナラである。
大型犬ほどの大きさで、細長い顔に長い尾、短い前肢を持ち、羽毛に覆われた━━鳥のようでもあり、爬虫類のようでもある、不思議な生き物が、集まった皆の顔を見渡していた。
「これがナラなの……よね?」
初めてその姿を見たナラの母は、戸惑いつつ訊ねた。
エメは頷き、事の顛末を説明した。
「なるほど、それから元の姿に戻れないし、喋れなくなっている、ということだね?」
「そうなんだよね……」
ナラの父が確認すると、エメは困りながらも答えた。
それまで大人しくしていたナラはエメの膝から下り、母の足下に近寄る。
何事だろうかと母が目を瞬かせていると、小さな声を上げながらナラは母に頭をくっつけた。
そして後ろに控えていた、昔からこの家に仕える使用人のマイヤへも近寄り、同様の動作をしてみせる。
「え、ママさん、マイヤどうしたの!?」
静かに男泣きしている母とマイヤを見て驚いたエメが言うと、母はハンカチで軽く涙を拭いていた。
「……ナラがこんなに甘えてくるの、幼い時以来だと思うと感激してしまって」
「そんな……」
大袈裟な、とテオが言いかけたところで、ナラとテオは目が合った。
しまったとテオが後悔する間もなく、ナラはテオに駆け寄って、勢い良く詰め寄り、やたらと絡んでいた。
「ずっとこんな様子なんだよね」
唖然としている両親が何か口にする前に、エメが話した。
「日頃からテオに関わりたい気持ちが素直に出てるんだと思うんだけど……」
「分かったから、分かったから!」とテオは叫びつつ、ナラがくっつくのを許していた。
その様子を、ほっこりしながら両親は眺めていた。
「それじゃあ私も」
まだ相手されていない父が、待ちきれなかったのかナラを抱えた。
「我が愛しの……」
と、最後まで言う前にナラはスルリと父の腕から抜け出した。
「……」
何事もなかったかのように、父は咳払いをし、再度ナラを抱えた。
が、結果は同じだった。
「だから言ったでしょう?日頃の付き合い方には気をつけなさいって」
自業自得だと言いながら、母はナラを抱えた。
「一応言っておきますけど、娘のためだからって闇オークションに連れて行ったの、私一生忘れませんからね」
背後に修羅を宿して、母は笑顔で父に言い放った。
━━確実に怒っている。
涙目の父であったが、下手に事情を知るエメとテオは同情する気になれなかった。
*****
話もまとまらず、ひとまず寝るべきだと各々寝室へ向かうことになった。
しばらくして、ナラの部屋から鳴き声が響いたが、それが一向に止む様子がない。
何事かと皆ナラの部屋の前に集まると、困った顔でマイヤがナラを抱えていた。
騒ぎの源であるナラは、何事もなかったかのように、マイヤに抱かれるままになっている。
マイヤ曰く、ナラをベッドに運んだのは良いが、扉を閉じたところで騒ぎ出し、扉も爪で引っかきはじめたとのことだった。
「もしかしたら群れで過ごす生態なのかな?だとしたら寝る時に一人なのは、かえってストレスなのかもしれないね」
父が推測したところで、エメが勢い良く手を挙げた。
「それじゃあボクの部屋に連れて行こうか!」
「ハハハハ、夜遅くに冗談なんて本当にエメは元気だねぇ」
「うわぁパパさん怖ーい。ナラに相手してもらえなかったから余裕がないのかなぁ?」
「ハハッ、何を的外れなことを言っているのかい、君は」
男二人がよく分からない対抗心を水面下でぶつけている。
母はそれを冷ややかな目で見つつ、マイヤからナラを受け取り、男どもに向き合った。
「そういうことなら、もう決まっているでしょう?……アナタ、今日は別のベッドで寝てちょうだい」
そう言い捨てて、足早に自室へと向かった。
━━決定事項らしい。
自分の妻と娘の背中を見送りながら、父は崩れ落ちた。
ラプトルの描写は、ヴェロキラプトルを参考にしています。
化石の一部に、羽毛が生えてたのではないかとの証拠が発見されたとのことで最近の図鑑でも羽毛で覆われた姿で描かれていることが多いようですね!
何を隠そう私、毛の生えた生き物が特に好きなので、その描写を採用しています。
もちろんこれからの研究次第では、また別の姿で再現されているかもしれませんね!




