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【完結】いきものたちの国〜生き物に変身できる国で、ラプトル少女とハチドリ少年が出会った話〜  作者: きろみりぐらむ
第三章 花まつり

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第22話 『花まつり』(慰霊祭)


 『花まつり』も最終日になり、夕方になってナラとエメ、テオは慰霊祭が行われる海辺へと向かった。

 そこにはすでに多くの人々が会場に集まっており、日が暮れる時間にも関わらず、賑やかだった。

 海の近くに設置された祭壇の下には、白い衣装に花冠や花のネックレスで飾った男女入り交じった集団がいた。

 ナラはその中に、カレアの姿があるのを見つけ、駆け寄った。


「あ、ナラー!」

「お疲れ様、カレア」


 カレアもナラに気付き声を掛けた。

 

 「これから歌うの?」

 「うん、ソロは選ばれなかったけど、コーラスとして参加するんだ」


 笑って答えるカレアは活き活きとしていた。

 先日のショックから、すっかり立ち直ったらしい。

 そんなカレアにナラが花を渡すと、カレアは笑顔で受け取り、身に付けていた花冠にそれを挿した。


 「ありがと!がんばるから、見ててね!」


 カレアがそう言うと、いよいよ慰霊祭の始まる時間になった。

 ナラがカレアから離れてしばらくすると、祭壇の前に大人が出てきて祝詞を唱えた。

 それが終わると、オウム『ギフト』の男子が前に進み出て独唱が始まった。

 その場を飲み込むような音の響きに、誰もかもが魅入っている。

 祈りにふさわしい歌声だ、とナラは思った。

 そうしてコーラスが入り、音に厚みを持たせる。

 コーラス隊の中でカレアは胸を張って歌っていた。

 ━━それを目にしたナラは、胸がいっぱいになった。


 歌が響く中で、夕日は海へと沈み、オレンジ色の光で染まっていた視界はすっかり暗さを増していた。

 やがて、会場にいた人々は海の方へ移動していった。

 ナラも、バックの中に入れていた小さな木の小舟を取り出して、後に続く。

 海のすぐ側まで来たところで、エメやテオに頼んでバックの中の、紙製のランタンと花を取り出してもらい小舟の上に乗せた。

 ランタンに火を灯して、小舟を水面に浮かべる。

 ━━海の上は、光を灯した小舟でいっぱいになっていた。

 それらが灯火を揺らめかせながら、ゆっくりと陸地を離れていく。



 「現し世に遊びに来ていた魂を、こうやってお見送りしてるんだよ」


 ナラが二人の横顔に向かって声を掛けた。


 「そっか、海の向こうにまた戻っていくんだ。……綺麗だね」


 海を眺めたまま、エメが答えた。

 テオも無言で小舟に目を向けている。

 人々の話し声や笑い声が、波の音に混じって、穏やかな海に広がっていた。

 その様子を見て、ナラはふと思った。

 去年は、この光景をカレア達と見ていた。

 それが今は、カレアは慰霊祭で歌う側になり、ミヤとルゥは家業を手伝い……もう一人の友人に至ってはこの国を離れている。

 皆ばらばらで、それぞれの場所に立っている。

 ━━そして自分も変わっていく。

 せめて今はこの美しい光景を忘れないように目に焼き付けておこう、とナラは思った。

 エメとテオと過ごす、このひとときを━━

 一瞬、エメの指先が手に当たった気がした。

けれどきっと、気のせいだとナラは思った。


*****


 会場からの帰り道、街の路上でナラはルゥを見かけた。

 何やら大きな盾と拡声器を持っていて、ただならぬ雰囲気である。


 「あれー、どうしたのー?」

 「……おう」


 エメが近づくと、ルゥは返事はするもピリついた様子だった。


 「いや、悪ぃ。今ウシの男が酔っぱらって暴れてるらしいんだ。他の連中が出払ってるから、俺とミアで対応してる」

 「ルゥ達の家業って、こういうのなんだね」

 「まぁ……とりあえず今ミアがこっちに誘導しながら追い掛けてるから、ちょっと離れといてな」


 そう言うと、ルゥは拡張機で近くの人々をはけさせた。

 エメやナラは、指示通り道の端へ足を運んだ。

 しばらくしたところで、道の向こうがざわめき始めた。

 大きな黒いウシが、道の花を蹴散らし、タペストリーを巻き込みながら、勢い良くこちらの方へ突進来てきた。

 ルゥは盾を構えてウシを迎える体勢になる。

 身構えるナラとテオに、庇うようにエメが前に出た。

 いよいよ、ルゥとウシが接触しようとした時━━

 よそ見をしていた子どもが、道の真ん中で走っているのが見えた。

 このままでは、ウシに巻き込まれてしまう……。

 そう判断したのだろう、ルゥは走り、子どもを抱えて道の脇に逸れた。

 無情にもウシはルゥの横を素通りして行く。

 その後ろから、ハイエナが「クソが!」と吐き捨てながらウシの後を追っているのも、通り過ぎていった。

 ━━ナラは無意識のうちに、その後を追っていた。

 先を走るウシとハイエナの距離は、遠くなっていく。

 あぁ、このままでは。

 この姿のままでは、追いつけない━━

 そう思ったのと同時に、ナラの姿はすっかりラプトルの姿へと変わっていた。

 身体が軽い。

 思い通りに脚の筋肉が動く。

 やっぱりこの姿は良い。

 何も考えなくて良い。

 ━━どこまでも自由だ。

 ナラはあっという間にハイエナを追い抜き、ウシの足元で進行を妨害するように動いた。

 ウシは足をもつれさせ、大きくバランスを崩した。

 倒れたウシにハイエナが追いつく。


 「……悪かったな」


 ハイエナはミアに形を変え、ナラに軽く声を掛けた。

 そうしてすぐに振り返り、同じく人間の男に形を変えたウシを拘束して連れ去っていく。

 

 ナラは一人取り残された。

 やがて、追ってきたエメがナラの近くに駆け寄った。


 「また無茶して!ダメだってば!」


 ナラは小さく鳴き声を上げた。


 「もー、とにかく早く帰ろ」


 そう言って歩き出そうとするエメだったが━━違和感に気付き、ナラを見つめる。


 「……元に戻らないの?」

 

 ナラは━━ラプトルは首を傾げ、また小さく鳴き声を上げるだけだった。

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