第21話 『花まつり』(街へ)
「はーい、できたよ!うん、可愛い!ボク天才!」
エメはそう言うと、椅子に座るナラへ鏡を差し出した。
鏡には、先程貰った花を髪に編み込んでまとめたナラの姿が映っていた。
リップやチークなど、ほんのりとしたナチュラルなメイクも施されている。
「……髪、素敵……エメ、ありがとう」
少し照れながら言うナラに、エメはぎゅっと抱きついた。
「髪型だけじゃなくて、ナラが可愛いの!ねぇ、テオ?」
急に話を振られたテオは、いつになく動揺していたが、しばらくして「……わかんないし」とだけ答えた。
それをエメが「照れてるねぇ」と茶化すと、ふてくされたようにそっぽを向いた。
そうやって三人で話しているうちに、使用人からナラに来客があると知らされ、エントランスへ向かった。
エントランスにいたのは、ルゥとミアだった。
髪をオールバックにまとめ、見慣れない制服のようなカチッとした服装に身を包んでいる。
二人に挨拶したナラだったが、ルゥはナラを見るなり、固まってしまった。
「その服装かっこいいね。……ん、どうかした?」
「……いや、そっちも雰囲気違うなぁ……と」
「あ、髪似合ってるかな?」
まとめている髪に触れながらナラが話すと、ルゥは言うに困っているような、戸惑っているような仕草を見せた。
ミアは横で弟を眉をひそめて見ている。
「か、髪もだけど……」
「あ、メイクかな?変?」
「いやいや!にあ……」
「にあ?」
「にあ……」
「にぁー?」
「違ぁぁう!猫じゃなぁぁぁい!」
意味不明なことを叫びながら立ち去ろうとするルゥの首根っこを、ミアが掴んで止めた。
「今年からあたしら家業の手伝いするから、先に花渡しに来た」
そう言うとミアは、空いてる方の手でぶっきらぼうに花をナラ達へ渡した。
無言のルゥにミアが「おい」と催促し、ルゥもナラに花を渡した。
ナラも二人に花を渡し、エメとテオもそれに続いた。
「……その、メイク……良いと思う」
やっと言葉を絞り出したのだろう、ルゥは顔を伏せたままナラに言った。
「本当?良かった、これエメからやってもらったんだよね」
それを聞いた瞬間、ルゥの表情はすんと真顔になった。
ナラの後ろでは、片方の口角を上げてほくそ笑むエメの姿があった。
*****
祖母への感謝の手紙も書いてしまい、ナラ達は街へと繰り出した。
エメ達も髪を軽くまとめ、衣装に着替えている。
「うわぁ、花がいっぱいだ!」
街中は、白い花を中心に様々な花や植物で飾られていた。
行き交う人々はナラ達と同じ様に白い衣装を身にまとっているが、刺繍の柄や色、幅は個人でかなり特色が出ている。
それを目にして、エメはすっかりテンションが上がっていた。
街灯や壁は、多様な生物の刺繍が施されたタペストリーで彩られている。
路上で演奏しているのだろう、どこからか陽気な音楽も流れてきていた。
「前、海の向こうから神様が現れてこの国を造ったって話したと思うんだけど、覚えてる?」
「うん、覚えてるよ」
エメが頷いたのを見て、ナラは続けた。
「海の向こうに神々の国があって、人や生き物達が死んだら魂はそこへ還るって考え方があるんだけど……『花まつり』の期間になると、神様達や死者の魂が現し世に遊びに来るから、それを迎えるためにこうやって花を飾ったり、おもてなしをしたりするんだよ」
「へぇ、面白い風習だね!」
足取り軽く、エメはあちこちに目をやる。
目新しいものに近付いては、にこにこと笑いながら、ナラに分からないことを訊ねて歩き回っていた。
しばらく歩いたところで、ふとテオが足を止めて何かを見ていた。
気になったナラがテオの目線の先を追うと、そこにあったのは花を売っている露店だった。
「……もしかして、花を贈りたい人がいる?」
ナラから訊ねられ、テオは少し考え込み、何か言おうとしたが、結局口を閉じたまま目を伏せた。
「花を直接渡せない時は、ちょっとしたお菓子を贈ったりしているよ」
そう言いながら、ナラは花の露店の隣で売っている、プレゼント用のお菓子を指差した。
テオは黙ってそちらの方へ近付く。
そして首に下げていた財布を手に取り、ラッピングされていたお菓子を一つ購入した。
きっと、テオは自分の母に贈りたいのだろうな、とナラは思った。
ナラの母からこっそり教えてもらったことがある。
━━ナラの母が縫ったものとしているテオの襟飾りは、実はテオの母が縫ったものだ。
テオの首の後ろに縫われたタンポポの花は、とても丁寧に縫われたものだった。
それを目にしてナラは、早くこの二人の思いが噛み合う日が来ることを━━心から願った。




