第20話 花を贈る
明日になれば、『花まつり』が始まる。
机の明かりの下で、ナラは祖母から贈られた衣装を手にした。
襟飾りの首の後ろにはヴェイル家の家花である水色の花が刺繍されている。
━━分かってはいた、とナラは自分の心に言い聞かせた。
むしろ、分かっていたのに、こんなにも心がざわついている自分に驚いていた。
……衣装に添えられていた手紙には、『花まつり』が終わったら、本格的にナラの嫁ぎ先を見繕うのだと祖母は書いていた。
いよいよ自分の将来は固められていくのだと、ナラはひしひしと感じていた。
それよりも、今は。
酷く心を痛めることがある。
先日、父から打ち明けられたことだった。
━━このままでは、テオは長く生きられない可能性が高い。
『ギフト』研究所では、「何故植物の『ギフト』の保持者が稀なのか」を今まで調べていたらしい。
かき集めた資料によると、植物の『ギフト』保持者は、出現が稀な上に皆短命である━━そういう記述が記されていた、とのことだった。
それだけではなく、今までテオの協力のもと、様々な方法で調査してきたが、最終的な結論は「資料に記されている兆しが見られる」というものだった。
今はまだ、本人の身体に負荷は掛かっていない。
そして、それをまだ本人に告げてはいない。
テオのことだ、それを聞いてしまえば余計に自分の命に執着しなくなる。
ナラには容易に想像できてしまった。
研究所は解決方法を探すとのことであった。
━━ナラは机を眺めながら深く息を吸った。
自分一人の力で、何かできるわけではない。
それでも……藁にもすがる思いで、ナラは異国にいる友人へ手紙を書くことにした。
*****
祭りの当日。
ナラは使用人と一緒に今まで育ててきた花々を、屋内や門の前に飾った。
エメやテオもそれを手伝って、各々花を飾っている。
問題は重なっているが、今はテオやエメに祭りを楽しんでもらうように自分は行動しようと、ナラは決めていた。
それは、自分に課せられた将来のことを、少しでも忘れるためでもあった。
━━『花まつり』は、ひとえに自分の周りの存在に感謝する期間である。
それは神々、生物、祖先に限らず、家族や友人、身の回りで世話になっている人など、多岐に渡る。
例年であればナラは『花まつり』初日、本家で執り行われる先祖供養の儀式に参加しなければならない。
しかし今回はエメやテオをもてなすように、との祖母の意向でナラは免除されることになった。
「儀式では歴代当主の名前を読み上げるんだけど……ヴェイル家はそれなりに歴史があるから、それだけで結構時間がかかるんだよね……」
「千年くらい歴史あるんだっけ。……わぁ」
大きな声では言えないので、ひそひそとエメに内心ホッとしたと話していると、後ろの方でナラの母が咳払いをした。
「ナラ、本家へのお花は私から渡しておくから、お礼のお手紙書いてちょうだい。簡単なもので良いわよ。あと、これはお父さんと、私から」
そう言うと、ナラの母はそれぞれに二輪、花を差し出した。
その様子を見ていたエメやテオが不思議そうにしているのを、ナラが説明した。
「『花まつり』は日頃感謝を伝えたい人にお花や植物を贈る風習があるんだよ。私達が配る用も準備してるから待ってて」
ナラは慌ててリビングのテーブルに用意していた花を取り、エメとテオに渡した。
それをナラの母に渡させると、母は笑顔でお礼を言った。
「お父様は今日もお仕事だから、帰ってきたら渡すと良いわ。……それじゃあ今日は良い日を過ごしてちょうだいね」
それだけ言うと、ナラの母は去って行った。
母が去った後、ナラは花をエメとテオに再度渡した。
「これは私から二人に。胸ポケットとかに挿したら良いよ。数が多くなったら、腕輪とか首飾りにするね」
エメはにこやかにお礼を言い、テオも小さく「ありがと」と言った。
「これ、ボクたちが水遣りしてた花だね。それじゃあ、ここでやりとりするのもちょっと変かもしれないけど、ボクからも」
エメはナラの準備していた花に手を伸ばして、ナラとテオに差し出した。
テオも真似して、ナラとエメに渡す。
「確かに、ちょっとおかしいかも」
ナラが微かに笑うと、「だねー」とつられてエメも笑った。
「それはそうと、せっかくこれだけお花あるんだから、やりたいことがあるんだけど」
何やら企みがあるのか、エメは不敵な笑みを浮かべている。
ナラは首を傾げた。




