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【完結】いきものたちの国〜生き物に変身できる国で、ラプトル少女とハチドリ少年が出会った話〜  作者: きろみりぐらむ
第三章 花まつり

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幕間 イリス⑤(後編)

 「グレイさん、道路の上に屋根があります……」

 「あれは『アーケード』というやつだ。雨が降っても濡れずに買い物ができる」

 「な、なるほど……」

 「それじゃあ、あそこの大きな建物は何ですか?」

 「『百貨店』だ。食品だけじゃなく、雑貨やら服やら売っている」

 「へぇぇ……」

 

 イリスは街に来てから、ずっとこのような状態だった。

 本人としては冷静さを保っているつもりだろう。

 そう思っているのは本人だけで興奮が隠しきれないほど、そわそわしている。

 メイクを施された上、イリスから新品の服を手渡されたグレイ。

 いつもは好奇や悪意のある目を向けられる彼は、今日に限ってはそれが全くないことに気付いた。

 むしろ今、その目を向けられているのは……。


 「……ここはあまり詳しくない。別の通りに行くか?」

 「え?……あぁ、それではお願いします」


  グレイの方から提案されたことが意外だと思いつつ、イリスは彼が案内する先へ向かうことにした。


*****


 「こ、ここはまた違った雰囲気の……」


 二人が到着した通りは、先程の道よりも狭いものの、活気に溢れた商店が並ぶ場所だった。

 店主達の口上が飛び交い、見たこともない異国情緒溢れる商品が並んでいる。


 「この国に来た移民達向けの店が並んでる通りだ。……変な輩もいるから離れるな」

 「わかりました……!」


 返事をしたイリスの目先は、すでに店先へと向けられている。

 溜息を漏らしつつ、グレイはイリスの隣に並んだ。


 ━━珍しい絨毯や陶器、香辛料など。

 歩きながら質問責めにするイリスに、グレイはよく付き合っていた。

 それが一通り落ち着いたところで、ふとイリスが口を開いた。


 「先程のアーケード、私が通行人から注目されていたから移動してくれたんですね。……良くない意味で」

 「……」

 「すみません、気を遣わせてしまって」

 「……強引に付き合わせたくせに、そこは謝るんだな」


 正論で刺されたイリスが何も言えずにいると、グレイは続けた。


 「……こんな人間に文字教えたり……アンタは変わってる。こういう化粧だって、本来は使用人にやらせることじゃないのか?」


 イリスは咄嗟に「それは」と言って、言葉を詰まらせた後、しばらく間をとって話をし始めた。


 「私は自国で生家初の女性当主になりたかった……。だからやれる事は完璧に自分でやらなくては、と思っていたんですよ」

 

 少し苦い思いが湧き上がってきたのを噛み締めながら、イリスは続ける。


 「それに使用人が施すメイクは、あくまで他人から愛されるためのメイクでして。そうではなくて、一人で立ち向かうためのメイクをしたい……と考えた時、自分でやった方が手っ取り早いと思ったのがきっかけですね」


 言いながら、イリスはグレイの反応が気になったが、彼は何も言わなかった。

 変な空気にしてしまったのかと慌てたイリスは「他にもこんなことができますよ!」と、通りかかった花売りの少女から花を一輪、購入した。


 「タネも仕掛けもありません」


 グレイに花を一通り見せた後、手の平をくるりと回して花を消し、彼の目の前まで手を持って行ったところで、再び花を出現させる。

 グレイは無言であったが、目を見開いて丸くしていた。


 「これ、差し上げますね」


 思った以上の反応が見られたところで、イリスはその花をグレイに差し出した。


 「……男に花をやる奴がいるか」


 苦虫を噛み潰したような表情のグレイに、イリスは微笑む。


 「良いじゃないですか、花を貰うのに男女関係ないでしょう?それに私の故郷では、日頃お世話になっている人に花を贈る風習があるんです。…ちょうど、今の時期ですね」


 そう言いながら半ば無理矢理、イリスはグレイの胸ポケットに花を挿した。

 自分の胸に押し込められた薄いピンクの花を見て、グレイは溜息をつく。


 「本当に、つくづくおかしな人間だ」


 そう言ったグレイは真っ直ぐにイリスを見ていた。

 彼がまともにイリスに顔を向けたのは初めてかもしれない。

 ━━イリスの心臓は、早鐘を打っていた。


*****


 「それでは、メイク落としますね」


 下宿先に戻り、クレンジングをコットンに浸してイリスはグレイに声を掛けた。

 グレイから返事は返ってこなかった。

 椅子に腰掛ける彼の姿は、心なしか哀愁が漂っているように見えた。


 「またやりますから」

 「別に良い」


 イリスの言葉に間髪入れず、グレイは返した。

 もしかしてムキになったのかと思うと、イリスは無性にグレイが微笑ましくなった。


 「……また、外出する時はお願いしますよ」


 それにはグレイは何も答えなかった。

 イリスは口角を緩ませながら、コットンでグレイの顔をなぞった。

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