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【完結】いきものたちの国〜生き物に変身できる国で、ラプトル少女とハチドリ少年が出会った話〜  作者: きろみりぐらむ
第三章 花まつり

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第19話 カレアの歌

 気持ちが良い青空が広がっている昼下がり。

 本日もナラは花壇の水遣り当番をしていた。

 いつもはナラとエメ、二人でやっている花壇の水遣りだったが━━

 今日はそれにカレアが加わっている。

 というのも、歌唱部の顧問が本日は不在のため、昼練習がないからだ。

 そうとは言えど、水を汲む時も、ナラが水をやってほしい場所を指示した時も、カレアはずっとそわそわしていて落ち着きがなかった。


 「カレア、歌練習したいんでしょ?」


 耐えかねてエメがカレアに声を掛けた。


 「でもたまには喉休めないと、酷使するのは良くないよー」

 「だよね、だよねー、分かってる」


 自分にもそう言い聞かせながら、カレアは呟いた。


 「カレア、そこもう水遣ってるよ」

 「わぁっ!」


 ナラに指摘され、カレアは持っていた水差しを落としてしまった。

 エメは呆れつつ、水差しを拾ってカレアに渡す。


 「……歌だったら、多少心得あるから聴こうか?」


 その提案にカレアの表情は、ぱっと明るくなった。

 

 「本当!?それじゃあ早速聞いてみて!」


 切り替え早いな、とナラが感じたのも束の間。

 カレアは、数歩距離を取りつつ、軽く咳払いをして、大きく息を吸った。

 ━━静かな空間を鳴らす鈴の音のように、綺麗な歌が響いた。

 心の底から歌が好きなのだろう。

 耳心地の良い歌声と、何より楽しそうなカレアの表情を目にして、ナラはしみじみと思った。

 カレアは数フレーズ歌い、エメが軽く指摘する。

 それを繰り返ししていたところで、休憩が終わる鐘の音が鳴り響いた。


*****


 放課後になり、カレアは一目散に部室へと向かって行った。 

 慌てていたからだろうか、机には先程配られたプリントが乗ったままである。


 「……届けに行こうかな」

 「さんせーい!」


 プリントを手にし、ナラとエメは歌唱部の部室へ、向かうことにした。


 ナラは部室……もとい、音楽室の扉を開けて、中の様子を覗き込んだ。

 数十人の生徒が個人であったり、グループであったり、各々練習している光景が広がっている。

 カレアも、個人でパートの練習をしているようだ。

 なるべく邪魔しないようにカレアに近付いたが、エメの存在に気付いた生徒が色めき立ち、かえって目立ってしまった。


 「二人ともどうしたの?」


 慌てて駆け寄るカレアに申し訳ないと思いながら、ナラはプリントを渡した。


 「ごめん、これ忘れてたから渡したくて…邪魔しちゃったね」

 「良いよ良いよ、わざわざごめんね!」


 カレアに受け取ってもらえ、ナラは早々に立ち去ろうとした。

 しかし、目の前に一人の男子生徒が立ちはだかり、阻止される。


 「ごきげんよう、君達は入部希望者かい?」


 身だしなみをきっちり整え、姿勢も大変よろしく、その態度から揺るぎない自信が滲み出ていた。

 ナラがカレアに「誰?」と小さな声で尋ねると、「前言ってたオウムの奴」と答えた。

 カレアは、オウムの男子に向き合った。


 「この子らはただ、私に忘れ物届けに来ただけだよ」

 

 それを聞いた男子は「なるほど」と言いつつ、再びナラ達の方へ顔を向けた。


 「今は忙しいけど、『花まつり』が終わったら是非とも入部を検討してほしいね。そうだ、慰霊祭の時に歌唱部で献歌するから、参考に聴いてみてほしいな…代表者が歌う場面もあるから、是非にね」


 そう言い終わると、今度はカレアに目をやる。


 「君も結果は分かっているだろうから、そんなに力まなくても良いだろうに」


━━心臓が締め付けられるのをナラは感じた。

 この男子、自分が選ばれて当然であると思っていそうな態度だったが…。

 さらりと、突き刺す言葉を言い切ったのだ。

 カレアはそれに動揺した様子もなく、はっきりとした口調で答えた。


 「別に良いじゃん。本気でやった方が楽しいし」


 「…そうかい」とだけ言うと、男子は踵を返して元の場所へ戻って行った。

 ナラはカレアに目をやった。

 カレアは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

 「ごめん、何か変な感じにしちゃったね」


 やがてカレアから声を掛けられたところで、ナラ達は音楽室から去ることにした。

 ━━扉の前に来た瞬間、はっとなってナラは後ろを振り返った。

 響き渡る、胸を揺さぶる音の震え。

 ━━空気が変わったのが分かった。

 そして、その音の響きはオウムの男子から発せられたのが分かった。

 言葉を失っていると、エメが無言でナラの肩に手を添える。

 お互い何も声を発することなく、音楽室を出た。

 


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