表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】いきものたちの国〜生き物に変身できる国で、ラプトル少女とハチドリ少年が出会った話〜  作者: きろみりぐらむ
第三章 花まつり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/57

第18話 歌と刺繍

 早朝、ナラ達が教室に入るなり、何やら興奮した様子のカレアが駆け寄って来た。


 「ちょっとナラ、エメ聞いて!私、遂にやっちゃった!」

 「……え、何やったの……?」


 眉間を力ませているナラの顔に、カレアは「ちがうよ、そっちの意味じゃないから!」と全力で訂正する。


 「『慰霊祭』のソロパート……立候補しちゃった!」

 「なぁに、それ?」


 はしゃぐカレアに反して、エメは首を傾げる。

 「ごめんごめん!」と言ってカレアはエメに話した。


 「『花まつり』の一番最後に『慰霊祭』が行われるのね、そこで歌を捧げる儀式の中でソロパートがあるんだけど……」

 「なるほど、花形だ」

 「そうそう!で、そのソロパートを歌唱部で募ってて、それに立候補したって訳!」


 理解したエメは「おー」と言いながら、軽く拍手をした。

 ナラもそれに続くと、カレアは照れたように手を振り回しながら「立候補しただけだから!」と話す。


 「他にも候補者いるから選抜戦になったんだけどね!……最有力候補はオウム『ギフト』の男子なんだけど、とにかく私やってみる!」


 嬉々として宣言するカレアに、ナラは胸の中が温かい気持ちでいっぱいになった。


 「うん、応援してるよ」


 ナラが言うと、カレアは満面の笑みを浮かべた。


*****


 「ナラが選んでたから、ボクも取ったんだけど……」


 選択授業で移動した先の教室で。

 エメが席に着くなり、ナラに声を掛けた。


 「『刺繍』の授業とかあるんだ」

 「うん。この時期になると選択できるようになるみたい」


 話ながらナラは机の上に刺繍の糸を並べた。

 色彩豊かな糸の広がりを見て、エメの瞳が輝く。


 「綺麗だね」

 「うん、好きに使ってね。……これ、要は『花まつり』で伝統的な衣装着るんだけど、その襟と袖飾りを仕上げるための授業なんだよね」


 ナラは続けた。

 『花まつり』で着用する伝統的な衣装は、白い無地の衣服に、襟飾りと袖飾りを縫い付けたものである。

 そしてその飾りには、自分の『ギフト』の生物やそれぞれの家系で伝わるモチーフ、植物や花などを刺繍する。


 「最近は業者さんに頼む人も増えてきているらしいけど、基本は家族のために縫うものではあるかな。……私はお祖母様から送ってもらう予定だし、テオの分はお母様が縫うと言っていたから、二人でエメの分仕上げよう」

 「はーい」


 二人はまず、デザインを決めるところから取り掛かることにした。


 「家族のために、ねぇ。……つまり、ナラにとってボクは家族みたいってこと?」


 ふと、エメが思いついたように話した。

 茶化すような含みを持たせて言ったようだったが、ナラは首を傾げる。    


 「え、けっこう長く一緒に暮らしてるよね?」


 エメは一瞬ピタリと動きを止めたが、「そっかー」とだけ言うと慌ててデザイン図の方に目を向けた。

 ナラは、エメが何が言いたかったのだろうと不思議に思いつつ、自分も作業を続けることにした。

 自宅から持ってきていた父の襟飾りを参考に、首の後ろのところにハチドリ、植物や花のモチーフなど決めて図に描き起こしていく。

 配られたデザイン案の資料をめくりつつ、エメの好みも聞きながら配色なども決めていった。

 デザインが決まったところで、下地の布を張り、いよいよ縫い付ける作業へと入った。

 ナラは得意とは言えないながらも、真面目に一つ一つ丁寧に糸を縫い上げていった。

 エメも最初こそ上手くできなかったが、徐々にコツを掴んでいるようだ。

 それをナラが褒めると「こういう余計なこと考えなくて良い作業、好きかも」と返ってきた。


 「そういえばオニヤンマの子、仲良くなったの?」


 慣れてきたのだろう、エメが指を動かしながら小声でナラに話をしてきた。

 ナラも作業をしている他の生徒の邪魔にならないよう、小さな声で返す。


 「……うーん、あんまり話できてないかも」

 「そっか」


 お互い、糸と布とに目を向けたままでいると、再びエメが話しかけてきた。

 

 「ねぇ、ルゥって付き合い長いの?」

 「え?……えっと、カレアほどじゃないけど、長いかな。ミアが突っかかってきたのを止めてくれて、それから話すようになったね」

 「そっかー」


 話の内容が唐突だと思いながらも、針を通しながらナラが答えると、またエメは続けた。

 

 「……ねぇ、ナラはルゥのことどう思ってるの?」

 「どうって、好きだよ?」

 「……」


 返事の返ってこなくなったエメに、ナラは思わず彼の方に目線をやった。

 そうして、エメの手元に違和感があることに気付いた。


 「あれ?エメ今刺してるところズレてるよ?」

 「本当だ!……ダメだね、余計なこと考えちゃったら」


 そう笑うエメに、ナラは不安な気持ちに駆られた。


 「……大丈夫?」

 「大丈夫だよ!」 


 エメは作業に戻った。

 「元に戻さないとね」とズレた糸を解く。

 その様子を見ながら、ナラは胸の奥がざわざわとして落ち着かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ