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【完結】いきものたちの国〜生き物に変身できる国で、ラプトル少女とハチドリ少年が出会った話〜  作者: きろみりぐらむ
第二章 庭と渓谷

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幕間 イリス④

 イリスの学園生活は、特に交友関係を築くことなく月日だけを消耗していった。

 相変わらずクラスメイトはイリスを意識下で見下している。

 数回ほどお茶会に誘われたが、あくまでそれは好奇の目にさらされているだけでしかなかった。

 ━━こんなものかとイリスは半ば諦めていた。

 腹は立つが。

 それはそうとして、イリスはとある書類を手に、談話室へ顔を出した。


 「ごきげんよう、グレイさん」


 いつものように、そこにはグレイが待機している。

 怪訝そうな表情で見ているグレイを差し置いて、イリスは書類を彼に差し出した。


 「グレイさん、ここの保護者?保証人?のサインを書く欄があるのですけれども。よろしければ、グレイさんの名前を書いていただきたいのですが」

 「……それは俺が書くので合っているのか?」

 「多分大丈夫でしょう。許可の必要な本を借りるかどうかの書類なので、そこまで厳密にという訳でもないでしょうし」


 より一層眉間の皺が濃くなるグレイであったが、黙ってイリスが差し出したペンを取り、サインをした。


 「ありがとうございます。あ、この私との関係を書く欄も記入してくださいね」


 そう言ってイリスが残っている空欄を指差す。

 しかし、グレイはペンを持つ手を下ろした。

 どうしたのかとイリスがグレイを見ると、彼は無表情のまま答えた。


 「……書けない」

 「ん?」

 「自分の名前以外書けない」


 余計な含みは持たず、淡々と事実を述べるようにグレイは呟いた。

 イリスは少し間をおく。


 「すみません。新聞読んでいる姿を見ていたので、てっきり書けるものかと思い込んでいました」

 「……文字は読めるようにした。読めないと騙してくる奴がいる。書くのは上手くできない」

 「そうですか。うーん……」


 今度は少し長めにイリスは考え込んだ。

 今までのグレイの姿を見て、些細だが引っ掛かりを覚えていた。


 「ちなみにグレイさんって左利きですか?」


 急に何事かと、グレイは怪しんでいるようだった。

 イリスは慌てて意図を話した。


 「あ、いや、不審者止めたりナイフ持ってたの右手だったなと思って。だけど、ペン持ってるの左手ですよね」


 そう言ってイリスが指差したのは、グレイがペンを持っている手だった。

 話の通り、彼は左手でペンを持っている。


 「それじゃあ右に持ち替えただけで、けっこう変わってきますよ」


 グレイはまだ疑っているようだったので、イリスは続けた。

 

 「護衛術とは違って独学だったら仕方ないのでは?ただえさえペンを持つのは練習が必要ですし」


 はい、とだけ言い、イリスはグレイからペンを奪って反対の手に持ち替えさせた。

 そのまま簡単に指の位置を教えて、イリスが持っていたメモに書いてもらう。

 たどたどしくはあったが、グレイは文字を並べて書くことができた。


 「ほら、これだけでも改善した」


 今までと異なる書き心地だったからだろうか、グレイは驚いているようだった。


 「あとは見本を見ながらやれば……」


 イリスはそう言って一度ペンを返してもらい、メモに見本を書いて、グレイに差し出す。

 すぐにでも書いてくれるかと思ったのだが、意に反してグレイは、受け取ったそれをまじまじと見ていた。


 「どうかしました?」


 メモから目を離さないまま、グレイは答えた。


 「……いや、アンタの字、綺麗だな」


 一瞬、イリスの思考が止まった。

 今、何と?褒められたのか?彼に?

 まだグレイは渡された文字を見ている。

 ━━どうも嫌味でも皮肉でもなく、純粋な意味で言っているようだった。


 「と、とにかく!この調子だったらすぐ習得できると思いますよ。良かったら私もお手伝いしますので」


 グレイは考え込んでいたが、しばらくしたところで「頼む」と答えた。

 それもそれで意外だと思いつつ、イリスは妙に心に落ち着きなく、そわそわとしていた。

 グレイは首を傾げていた。




ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます!

第二章はここまで、

次から第三章に入ります!

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