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【完結】いきものたちの国〜生き物に変身できる国で、ラプトル少女とハチドリ少年が出会った話〜  作者: きろみりぐらむ
第二章 庭と渓谷

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第13話 渓谷へ(休憩)

 「たまにね、さっきみたいに落ちる子がいるからねぇ、本当大事なくて良かったなぁ」

 「でもねぇ、やっぱり今後は気をつけてねぇ」

 「……すみません、ありがとうございました」


 管理センターでナラは、先程エメを助けてくれたカワウソと話をしていた。

 彼は渓谷を管理する職員の一人らしい。

 そんな彼はカワウソの姿のまま、水かきのある小さな手でナラに袋を渡す。


 「一応濡れたお洋服、脱水しておいたからね。まだ濡れてるけど。……それより、お嬢様のお連れさんなんだから、着替えの代金いらないんだけどねぇ」

 「いえいえ、そんなことしたら祖母にも怒られますから!」


 祖母の名を出したとたん、納得したらしいカワウソは「それなら仕方ないかぁ」とうんうん唸った。

 カワウソ……ちょっと愛嬌あるなと思いながら、ナラは管理センターを後にした。


*****


 川の近くに、開けた休憩スペースが設置されてる。

 そこのベンチに、エメは一人で座っていた。

 大きめで袖も余っている服に着替え、頭にはタオルを被っている。

 ナラは声を掛け、近くの売店で買ったジンジャーティーをエメに渡した。

 湯気がまだ残っているお茶を口にして、「温かいね」とエメは微笑む。

 その様子を見て、ナラは言うべきかどうか迷っていたことを聞くことにした。


 「さっきの……気を悪くしたらごめん、なんだけど」

 「なぁに?」

 「ああいう場になったら、誰でも咄嗟にそうするんだろうけど……正直、エメがテオ助けたの、意外だって思ってしまって……」


 意を決して、ナラは話を続けた。

 

 「エメはテオと距離を取ってる気がしていたから……」

  

 口にしてしまうと、妙に緊張感があるなとナラは思った。

 エメがコミュニケーション能力に優れているのは言うまでもない。

 いつの間にか人の懐の内に入り込んでいる器用さがうかがえる。

 そんなエメがテオと接する時の微妙な距離感を、ナラは何となく感じていた。

 エメは動きを止める。

 それは一瞬だけで、再びお茶を飲んで余裕がある表情を見せた。


 「だって、本人があんまり関わってほしそうにないのに、無理には近寄れないでしょ」

 「えぇー」


 自分にはグイグイ来てるのに……と内心思っていると、それを察したらしいエメが「ナラは特別!」と笑った。


 「でも、そうだな。罪悪感があるから、かもね」

 「罪悪、感?」

 「……ボクはほら、『例のオークション』で彼を売る側の人間だったし」

 「え、でもそれは……」


 エメも被害者側じゃないとかとナラは言いかけた。

 それを遮るように、エメはナラの服の裾を引っ張る。


 「それよりさ、隣座って」


 まだ、言いたいことはあったが、ナラはそれを飲み込んだ。

 納得したわけではないが、おずおずと隣に座る。

 エメは満足気に遠くに目をやった。

 目線の先には、友人達とテオがパスボールしている姿があった。

 売店でボールを見つけたミアが「こぞう、球蹴りするぞ」と、半ば強引にテオを連れて行ったのである。

 嫌がっていたテオだったが、ルゥのサポートもあって、上手くボールを相手に向かって蹴ることができるようになっていた。


 「三人がついて来たのって、ナラが『十歳くらいの男の子と、どうやったら仲良くなれる?』ってカレアに聞いてたからだよね」


 遠くを眺めながら、エメが言った。


 「……多分そうだと思う」

 「だよね。本当、みんな良い友達だね」


 カレアの大きな笑い声が響いた。

 自分が蹴ったボールがあらぬ方向に飛んでいったからだろう。


 「私もそう思うよ」 


 汗をかきながら、一生懸命にしているテオの姿を見て、ナラの胸に静かな温かい気持ちがこみ上げていた。


*****


 さっきまではしゃいでいたカレアが、ナラに駆け寄って来た。


 「ボール、立入禁止区域に入っちゃった!がんばれば捕れそうだけど、入っちゃダメかな?」

 「あ、駄目だよ!入らない方が良いよ!管理人さんに声掛けてくるから待ってて!」


 慌ててカレアを制止して、ナラは管理センターの方に駆け込んだ。

 先程のカワウソとは別の人に頼んで、ボールを取ってもらう。 

 カレアの言う通り、比較的手前で止まっていたボールは、管理人の手によって難なく救出されていた。

 管理人を見送ったところで、カレアがナラに話した。


 「思ったんだけど、ここって立入禁止区域の方が広いよね。入れるとこってほんの一部なんだ」


 皮肉という訳でもなく、カレアはただ純粋な疑問としてナラに話したようだった。

 

 「うん、私も普段公開されてない所だったら、儀式で使われる祭壇ぐらいしか入ったことないかも。特に奥は禁足地になってるし……」

 「そっか」


 ボールも無事戻ったところで、二人は友人達の元へ戻ることにした。

 先程まで目の前にあったフェンスが、遠くなっていく。

 そのフェンスの向こうにはな鬱蒼(うっそう)と茂る緑が広がっていた。


 



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