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【完結】いきものたちの国〜生き物に変身できる国で、ラプトル少女とハチドリ少年が出会った話〜  作者: きろみりぐらむ
第二章 庭と渓谷

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幕間 テオ②

 静けさが広がっていく夜更け。

 テオはまた眠りにつけずにいた。

 ふと、ここの書斎を自由に使っても良いとナラの父に言われたことを思い出す。

 いっそのこと興味のない本でも読んでいたら寝付けるかもしれないと思い立ち、テオは部屋を出た。


 テオが書斎に入ると、そこには先客がいた。

 ━━ナラの母だ。


 「あらあら、こんな遅くにどうかしたのかしら?」


 ふんわりと穏やかに微笑む彼女だったが、手元は書きかけの手紙を隠そうとしている。

 ━━その手紙の宛先に、テオのよく知る名前が書かれていた。


 「……母さんに手紙書いてたの?」


 ナラの母は少し動揺したようだったが、すぐに気持ちを切り替えたのだろう、手紙を隠すのを止めた。


 「文通をしているの。貴方が元気にしているか、とても気がかりみたい」


 文通、ということは手紙は一回きりという訳ではないのだろう。

 テオはうつむいた。


 「……なんでこうなんだろう」


 その言葉をきっかけに。

 テオの中でせき止めていた思いが、ぽつりぽつりと表に出てくる。


 「……母さん、いつも余裕なさそうだった。おれ、前は体弱くて、しょっちゅう熱出してて、そのたび母さんは付きっきりで看病してた」


 テオの頭の中で、かつての母の姿が浮かぶ。

 テオの知る限り、母はいつも余裕がなさそうで、父と言い争いばかりしていた。


 「そんなだからお金もあんまなくて、でもおれ看病しなきゃだから働きにもいけなくて……」


 ━━少し言葉に詰まった後、テオは続けた。


 「……だから、『あの人』から『母さんのために売られてくれないか』って言われた時、それが良いと思ったんだ」


 『あの人』とは、テオの父親のことである。

 物心ついた時から、テオは父親が自分をよく思っていないと感付いていた。

 父親が『母さんのため』と言ったのは本心ではないだろう。

 それでも、父親の提案を受け入れたのは、確かに母のためになると思ったからだった。

 ナラの母は、テオの話をただ黙って聞いていた。


 「貴方は、とても優しい子だわ。……そう、気を遣ってしまったのね……」


 テオが一通り話し終えた後で、ナラの母は口を開いた。

 その瞳には物悲しさがにじみ出ていた。


 「……一応、言うのだけど」


 言葉にするのをためらう様子を見せながらも、ナラの母は話し出す。


 「子どものことは愛してる。それでも時に余裕がなくなってしまうこともあるの。テオのお母様も子育ては初めてだったでしょうし、生活のことも考えないといけなかったでしょうし……」


 ナラの母は少し目を伏せた。


 「特にテオのお母様は、一人でがんばろうとしてしまったようだったから」


 「……とはいえ、これは親の都合でしかないのだけれどね」と、ナラの母は苦笑する。

 それでも、と彼女は続ける。


 「……それでも、いなくなってしまった子どものことは一生忘れられないの。これから先、どんな幸せがあろうと。こちらのことを気遣っていなくなったのなら、なおさら。……テオのお母様も、きっとそういう方なのだと思うわ。」


 ナラの母は書きかけの手紙の端に手を添えた。

 ━━子に対する感情はその親によって様々だ。

 それこそ、テオの父親のような親もいる。

 しかし、何度も、何度も届くテオの母の手紙を読む度に、彼女の息子へ向ける愛情は伝わってくる。

 手紙をしばらく眺めた後で、ナラの母はぽつりと呟いた。


 「でもね、それを全部引っくるめて、子どもは何も考えなくて良いの。気を遣うのは心が痛むわ。そうさせてしまうのは、親の落ち度かもしれないのだけど……」

 

 ━━ただ生きているだけで親孝行しているようなものなのよ。

 ナラの母は穏やかでもあり、悲しげでもあるような笑顔を見せる。

 ……テオは何も言えなかった。


 「気持ちの整理がつくまで、この家に居てちょうだいね。……ゆっくりで良いから」


 そう言う彼女の言葉は、静まり返った夜の中に溶け込んでいくようだった。 


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