幕間 テオ①
昼間の賑やかさから一転し、虫や夜鳥達の鳴き声が響く、深い夜。
テオは目が醒めてしまい、ベッドに横になりながらも寝付けられずにいた。
体制を何度変えても状況は変わりそうにない。
仕方がないので、家の中を少し歩き回ることにした。
「こんな夜更けに、どうしたんだい?」
廊下を出て少し歩いた所で、早々に声を掛けられテオは肩が跳ね上がった。
━━ナラの父親だった。
「……別に……ただ眠れなかっただけ」
内心、明かりもない場所で急に声をかけないでほしいと思いつつ、答える。
ナラの父はテオの思いを知ってか知らずか、穏やかな微笑みを浮かべた。
「そうかい、それなら私の部屋に来るといい、ちょうどお茶にしようかと思っていたところでね」
特に断る理由もなかったので、テオはその提案を受け入れることにした。
*****
案内されて足を踏み入れたのは、本や資料に囲まれたデスクのある部屋だった。
デスクの上には書類やペンが置かれている。
まだ仕事をしていたのだろう。
しばらくしたところで、ナラ父から「どうぞ」とカップを差し出され、それを口にする。
温かく、甘いココアだった。
「マーケットでは、色々あったそうだね」
ふいに、ナラの父が口を開いた。
「……ナラから、財布もらった。盗まれないように首から下げるやつ。別に良かったのに……」
「そうかい、まぁあの子なりの気遣いなんだろうけどね」
「そういうの別に良いんだけど……」
テオは思ったことをそのまま話した。
ナラの父は苦笑する。
「……ナラは良いよね、あの『ギフト』……特別って感じ」
ココアが気を緩ませたのだろうか。
テオの口からそんな言葉が漏れてきた。
こんなこと言うつもりはなかったと、はっとなったテオだったが、ナラ父は相変わらず穏やかに彼の言葉に耳を傾けている。
「あの『ギフト』は、確かに珍しいものかもしれない」
ナラの父は少し間をおいて、
「でもナラ本人は、良いものとは思っていないかもしれないね」
と、どこか遠くを見るように答えた。
「……しがらみが多い子でね。与えられたものを、そのまま受け取れないんだ」
「私も支えたいと思っているが……」とナラ父は小さく笑った。
「自分で言うのもなんだが、『人でなし』と呼ばれる分類の人間でね。良かれと思ってやったことが、かえってあの子を追い詰めてしまう」
カップを傾け、彼は続けた。
「この前も『ギフト』のことで、あの子にアドバイスしたかったんだが……」
「結果は君のご存知の通りさ」と、彼は自嘲気味に呟いた。
テオは考えた。
……「ご存知の通り」……初めて出会ったオークションのことだろうか?
アドバイスしようとして連れて行くような場所ではない気がする。
詳しいことは分からないながら、テオは思った。
「……後で妻にこっぴどく叱られたよ」
そう言ってナラの父は苦笑する。
━━確かにナラも、苦労はしているのかもしれない。
それでも、とテオは思う。
「それでも、ナラは恵まれてるよ」
テオはカップを握る手を強くした。
(心配してくれる父親がいるだけ、良いじゃないか)
そう言いかけた言葉を、ココアを口にすることで、全て飲み込んだ。




