八話 狩人、迷宮で相見える 其の肆
「はい、ストップね」
声がした。
聞き覚えのない声が、命のやり取りを、風雅との【狩り】が最高潮に達した瞬間を、声が全てを奪い去った。
ツカサの振るうナイフは風雅の首を一瞬の痛みなく切り落とせるはずであったがそれは何故か、空を切るといつの間にか迷宮ではなく、別の場所へと移動させられていた。
棚の中に大量の本が置かれ、真ん中には木製のデスクが置かれた部屋にツカサは飛ばされており、彼を見つめる者が居た。
視線に気付いたと同時、ツカサはその方向へと本能のままに駆けると彼はそこにはいた人間に対して容赦無く、ナイフを振るった。
しかし、それは壁の様な物に阻まれると彼は飛びかかろうとした状態で空中で固定まってしまう。
「?!!?!」
声も何故か出せずに視線のみで相手を捉えるとそこには銀髪を短く整え、右が青、左が黄の目を携えたスーツ姿の男が立っていた。
「視線を向けた瞬間、襲い掛かるとは野蛮極まれりだね、全く」
スーツのジャケットを羽織り、手には万年筆を握る男はツカサを空中で固定したまま、彼に喋りかけた。
「初めましてだ、ホシナミ・ツカサ。僕はWDG事務総長代理【原初の刃】 久遠寺永遠。以後、お見知りおきを」
永遠と名乗った男は立ち上がり、手を胸に当て、お辞儀をする。ツカサはそれを見ながら固定された体を動かそうともがいていおり、永遠は少しだけ意地悪く微笑み、彼に声をかけた。
「あはは、ごめんごめん。意地悪したね。そろそろ解いてあげる」
永遠が指をパチリと鳴らした瞬間、ツカサの体は空中から一気に地面に叩きつけられると受け身をギリギリで取り、距離を取った。
(今のは何だ? 空中で止められた? いや、固定された? 風雅との【狩り】は邪魔されたのか? と言うよりも何なんだ、この女は? さっきから儂に向ける視線、それは昔、先生が向けた感情にそっくりだ)
ツカサは永遠を睨め付けており、彼女はそれを気にすることなく、喋り始めた。
「そんなに警戒しないでくれ。別に取って食おうともしてないだろう?」
「お前は儂の狩りの邪魔をした。それだけで充分だ」
殺意を持って相対するツカサに対して、永遠はワザとらしくため息を吐き、大袈裟なリアクションを取った。
「はぁー、これだから異界人は困るね。この世界じゃ、人殺しってのは罪になるんだ。君の世界ではどうか知らないけどね」
「む、儂がいた場所でも人殺しは禁止されていたぞ」
ツカサがそう答えると永遠は彼を突然、ジッと見つめた。
左右非対称の色をした眼は、全てを飲み込もうとするかの様な錯覚に陥る程の底知れない光を見せるとツカサは自身の根底を見抜こうとしている感覚を覚え、敵対心が高まり続けた。
そして、数十秒の沈黙の中、永遠は突然、ニコリと微笑んだ。
「そっか、なら、君は風雅との戦いは【狩り】だったと言うんだね」
「そうだ」
ツカサの即答に全てを理解したのか、再び深いため息を吐くと永遠は再び口を開く。
「OK、分かった理解。君は危険だ。ここで殺す、と言いたい所なんだが、最近は忙しくてね。手を動かせる強い人間が何人居ても足りやしない。だけど、君はその【狩人】としての異質さと強さを世界に見せてくれた」
再びパチリと指を鳴らすとツカサと永遠の前に巨大な電子ディスプレイが開かれた。
そして、そこにはE tubeのとある動画が映し出されており、急上昇と記されたそれを流し始めた。
――――――
「お前、強いな! 迷宮では人も狩猟の対象でもあるのか?」
「バカを言うな。俺がこの剣を向けるのはお前のような違反者だけだ」
「む? 違反者? 儂がか?」
「お前以外に何処にいる?! 【探検者】登録もせず、合成獣も持たずに迷宮へ突入! 他の【探検者】の配信に入り込んでは堂々と“ホシナミ・ツカサ”と名乗る! 極めつけはあれだ、何処から見つけたか知らない合成獣を持って、迷宮内で動画配信?! WDG迷宮探索規則一条、五条、十二条、全部を違反してる! お前の様な違反ばかりの馬鹿は初めて見るくらいだ!」
「それは申し訳ないことをした」
「謝れば済むなら俺は要らない! 調子が狂うな、本当に! それはもうどうでもいい事だ。俺はな、お前みたいな違反者を狩る為の刃だ。自己紹介がまだだったな。死ぬ間際に覚えておけ。WDG検察庁検事総長、【原初の刃】三日月風雅だ。これからお前をWDGの規則に則り、死を与える」
――――――
ツカサと風雅の戦い、それが配信されており、彼は映像を見ながらも風雅の動きを常に追いかけていた。そんなツカサに対して、永遠は少しだけ笑うととある提案を持ちかける。
「【安置】を目前にして、戦いが始まったせいで合成獣がカメラを起動させていたらしい。本来ではあれば禁止させるべきの配信なんだけどね、違反者である君の配信活動なんて。だけど、ここ数日の迷宮探索深度と熱狂的なファン達。極め付けは英雄三日月風雅との決闘で、彼女を殺す手前までに至った実績。以上を持って、私、WDG事務総長代理久遠寺永遠がホシナミ・ツカサに提案する。君をWDGの【探索者】として迎え入れたい」
向かいに居るツカサに対して、永遠は手を前にして、彼がそれを取るのを待った。
「断る」
しかし、ツカサが選んだのは【拒否】であった。
ツカサの即答に永遠の表情がガキリと固まる。
「ん????? いやいや、ん、待って、ツカサ。君は、これを飲まなきゃ迷宮に戻れないし」
「儂は【狩人】だ。【探検者】ではない。それに儂を使って何かをしようとしてるのがお前の視線からよく分かる」
「そうか、そうか。君、もしかして、自分の立場分かって無いな」
永遠は羽織っていたスーツのジャケットのポッケに差していた万年筆を取り出すとツカサも同様に彼女を狩るためにナイフを構えた。
一触即発の緊張感が漂う中、それを蹴破るかの様に扉が開かれ、そこには風雅が立っていた。
「そこまでにしておけよ、永遠」
突如、現れた風雅は永遠にそう言うと彼らの間に立ち、再び口を開く。
「ツカサ、俺の龍星を避けたヤツと【狩り】を行いたくないか?」
その言葉にツカサはビクリと体を揺らし、薄らと笑みをこぼすと嬉しそうにするのを何とか堪えようとする。
「ほう、出来るのか?」
ツカサの興味は完全に風雅の言葉に沸いていた。風雅はツカサを【狩人】でありながら【探検者】として、迷宮に挑ませるための答えを彼女は出した。
「お前が【探検者】として迷宮に潜るなら三日月風雅の名の下に、必ず彼らに会わせ、【狩り】を行わせる」
自信満々で答える風雅の言葉に対して、ツカサは。
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