七話 狩人、迷宮で相見える 其の参
【迷宮】が現れてから世界に持たされた恩恵、それは大きく分けて3つ存在する。
1つは科学では証明不可能な現象【魔法】と呼ばれる奇跡とそれによって全ての人類に与えられた自分だけの【個性】。
もう1つは【ステータス】と呼ばれるレベルとパラメータの概念。
そして、最後の1つ、それは【遺物】と呼ばれる再現不可能なエネルギーを持つ人工物。
【遺物】は特定の魔物を倒した時にしか入手出来ず、それらは迷宮に十階層以上潜らなければ出会う事が不可能。だが、それを手にすれば国すらも転覆しかねる程の力を持つことが出来るとされていた。
三日月風雅が持つ刀、刃には碧い焔が渦巻く紋様が刻まれ、三日月の鍔を拵えた、あらゆる物を切り裂くとされている【遺物】。
――――――名を【星月夜】
その刀が最大限に真価を発揮するのは抜刀の瞬間であった。
「死ね、ホシナミ・ツカサ。個性解放、三日月流、秘技・龍星」
刃は鞘を駆けると同時、風雅は柄を握る手をほんの少しだけ緩め、刀を投げつけるかの様な異様な形で【星月夜】を抜く。
手から刀が離れる直前に柄頭を親指と人差し指で強く掴むとハッキリとホシナミ・ツカサと言う存在を捉え、碧い焔を纏いし斬撃が放たれた。
それは狩人のツカサは体験した事もない、人が時代をかけて作り出した術の結晶であり、予測不能の一撃。
放たれた碧い焔をツカサはナイフで無意識の内に防ごうとするも、刃が打つかる直前にそれは《《畝》》りを見た。
畝りは防御と言う手段を敵にわざと取らせるための布石であり、その合間の小さな穴を生み出すための物。
異様な形の抜刀術によって生まれた畝りにより、一時停止したかと思えば突如として防御の穴を通し、ツカサの額を貫く為に急加速する。
(これは凄いな! 攻撃の先は読めていて、そこに防御を裂こうとしていたのに無意識のうちに構えてしまった! 目前の矢は避けれない、不味いな! 脳よりも速く動いてくれよ、儂の体!)
この間コンマ0.2秒、ツカサの額を貫くために放たれた矢の様な斬撃は、彼の持つ研ぎ澄まされた動体視力を持ってしても、完全には避ける事は出来ない。
だが、それでも体が本能の内に動いており、なんとか体を逸らす事でギリギリ額の一部を掠るだけに留めた。
額の右から血が流れ、紅の瞳がさらに鮮烈な赤に染まり、ツカサの片方の視界は歪みを生じさせられてしまう。
ただ、それを受けて尚、ツカサは笑っていた。新しいおもちゃを買い与えられた子どもの様な純粋なまでの笑顔を浮かべ、体が動かなければ死んでいたにも関わらず、人と戦い、知恵ある戦士との【狩り】に胸の高まりを抑えずにはいられなかった。
「凄いな、本当に凄いな! 風雅と言ったか!? お前の殺意、その練り上げられた技術、全てが儂が体験した事もない物だ!」
目を輝かしながらツカサが興奮気味に風雅へ語りかけると彼に褒められた事に彼女は悪気はしなかった。
「チッ、調子狂うな本当。それを避けたのはお前が三人目、大した奴だよ。違反せずに迷宮に入っていたら重宝したんだがな」
そう言うと風雅は既に鞘に納めていた星月夜の柄に手を置いており、次の一手を打つ為に構えを取っていた。
「はは! それを避けたのがまだ、二人もいるのか! それは会ってみたいなぁ!」
ツカサは嬉しそうに叫ぶと片眼を失いながらも逃走と言う選択肢を捨て、右眼をあえて瞑り、左腕でナイフを前にした。
無意識のうちにツカサが構えたのは剣術の構えの中で最も基礎の型でありながら、最強と呼ばれた正眼の構えによく似たもの。
歪ながらもツカサは貪欲に風雅が持っていて、自身には無い物を貪欲に吸収し、結果として型を本能のままに昇華させた。
(ナイフで正眼の構え擬きだぁ? 俺を舐めてるのか? いや、違うな。コイツは真剣だ。さっきまでの動きを見れば分かるが、剣術を齧ってもいないし、武術を嗜んでいた訳でも無い。自由に体を動かせるはずの自身の強みである構えを捨てて、あえて型にはめたのか? 俺の構えと違うのは本能から竜星を防ぎ切る構えを取ったのか? ハハッ、それなら異常すぎるな。一体、何処からこんなもんが迷宮に迷い込んで来やがった?)
そんな事を考えながらツカサを見つめる風雅の口角は無意識に上がった。
久しく感じていなかった戦いから得られる愉悦。
違反者であるツカサからそれを得てしまった事を恥じるべきだと感じると同時に全力で噛み締めている自分がいた。
「いや、それで良い。それが良い! 今、全力で相見えん!」
風雅は声を張り上げ、難しい事は考えるなと自身に言い聞かせた。
ツカサもそこに何かを感じ取ったのか、全力で彼女を狩る為、全神経を左眼に注いだ。
自ら踏み込もうとせず、ツカサは竜星に真っ向から勝負しようとしており、風雅もそれに応えるために【星月夜】を握る腕に力を込めた。
「個性解放、三日月流、秘技・龍星!」
三日月流秘奥の極技、龍星。それは特殊な形の抜刀から放たれる斬撃は強制的に防御を取らせ、その防御の穴を無理矢理通し、相手を貫く。
【剣鬼】と恐れられた三日月嵐丸より、考案され三日月風雅によって完成させられた防御不能の穿つための抜刀術。
先ほどよりも整えられた碧き焔の斬撃は一直線にツカサへと奔り、彼を苦しみなく仕留めようと放たれる。
ツカサは真っ直ぐと片眼で碧い焔の道を辿りながら目前に迫った瞬間、その手を動かした。
畝る焔を前にして、ツカサはあえて防御を速くに取った。焔が加速する直前、ツカサがぶつけたナイフがその矛先を逸らされ、風雅は初めて、放つはずの矢が獲物を捉え損ねる。
急加速と同時に放たれた焔はツカサの背後にある床を穿った瞬間、彼は風雅の前に立っていた。
「その命、頂戴する!」
その声には、ただの殺意ではなく、狩人としての敬意が込められていた。彼女と刃を交えたこと、新しい知恵を授けてくれたことへの純粋な感謝の証として。
その手に握る得物を風雅の首元へと突き付ける。
感想、レビューいつもありがとうございます!
嬉しくて狂喜乱舞です!
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします!
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます!




