九話 狩人、迷宮で相見える 其の伍
***
風雅とツカサは永遠の書斎から離れ、施設の中の廊下を歩いていた。
永遠の書斎で風雅が出した提案を呑み、ツカサは今、【探検者】として登録を行うためにWDG本部を歩いていた。
ツカサは見たこともない壁や、照明に目を輝かせ、辺り構わず見回した。
「これは見たことも無いものばかりだ!」
キョロキョロと紅の双眸を動かすと落ち着きのないツカサに対して、風雅は彼を大人しくさせようとする。
「落ち着けツカサ。ソワソワしすぎだ」
「そうか! そうかもな! ここには獲物はいないのか?」
「いねえよ、ここは安全地帯みたいなもんだから、魔物も出ない」
その言葉を聞き、ツカサは少ししょんぼりした。
「そうか、それは残念だ」
「そんなに落ち込むなって。これから全部登録が済めば、また迷宮に潜れるんだ。そうだ、ツカサ。お前、永遠が最初に出した提案、別に飲んでも良いと思っていたろ?」
風雅は目的の場所に到着し、足を止めたと同時にツカサに対して気になっていたことを尋ねた。
「…何故そう思う?」
「質問を質問で返すなんて大したヤツだよ、全く。まぁ、そうだな。お前は狩りバカだが、バカじゃない。会ってすぐに殺し合った仲の俺が言うのも何だが礼儀を知ってるし、それをワザと本能に寄せてるだけで思考を止めず、常に考えてる。だから、永遠の提案を飲んでも良かったんじゃないか?」
「ふむ、いや、そうだな。飲んでも良かった、それはそうかもしれんなぁ。だがな、あの永遠と言ったか? あの女はかつての儂を導いた人と同じ目をしていた。儂はそれが先生以外から向けられることが気に入らなかったんだよ」
ツカサはそう言い切ると彼の目がほんの少しだけ普段よりも優しくなっていることに風雅は気づいた。
「そうか。なら、それ以上は何も聞かん。じゃあ、とりあえず、入るぞ」
風雅が扉を開けた先、そこに彼を待ち受けていたのは…。
***
黒いスーツに身を包み、ストレートの黒髪を綺麗に纏め、大きめの眼鏡をつけた少女にツカサは身体中を触られ、腰、腕、太ももと採寸されると慣れていない状況にぐったりとしていた。そんな事はお構い無しにと少女はツカサの軍服を全て奪い去り、全てをとられた彼はシクシクと涙を流していた。
WDG本部装飾部、ここでは【探検者】用の衣服を作成、加工、修繕を行っている。
「うう、風雅、これは本当に儂に必要なことか?」
予備のシャツとズボンを身に纏ったツカサに喋りかけられた風雅は威風堂々としてばかりの彼が初めてしおらしくしている姿を見て、内心少しだけ面白がっていた。
「まぁ、【探検者】になるって言ったからには良いものを揃えて行かないとな。WDG製は高えけど、そのぶん性能は折り紙つきだ。俺が保証してやる。うちは民間だけど国家機関より強いって評判だからな」
WDG本部内には迷宮に潜るため道具、備品、全てを取り揃えている。他のブランドが出した商品よりも優れていて最先端、しかし、圧倒的なまでの価格により、買える人間の方が限られた。
故に、それらはプロフェッショナル御用達の商品として名を馳せていた。
ツカサと風雅が会話していると眼鏡をかけた少女が嬉しそうに喋りかけた。
「うんうん、そっか! 風ちゃんの連れって聞いてどんなのなって思ったらとっても良い子ね! この服も似合ってるし、あんまり調整はしない方向で、汚れ落とし機能とマント下部に武器を仕込めたり、服の裾からも簡単に武器を取り出せる様に加工しておくね!」
「おう、そこら辺は全部、お前の趣味でいいよ、春」
「えへへ! ここから5時間程度で完成させるから先に武器屋にでも行ってて! よーし! 腕によりかけちゃうぞ!」
春と呼ばれた少女は風雅に笑顔を向けると彼女は嬉しそうに手を振り、彼らはその場を後にした。
「知り合いだったのか?」
ツカサが問いかけると風雅は嬉しそうに答えた。
「幼馴染ってやつさ。次は武器屋だ、お前の武器は個性を使用出来るようになってないと思うからな、加工しに行くぞ」
***
WDG本部武工具部加工場にて。
「風雅様、これマジ? このナイフ、遺物ですよ」
「まぁ、そうだろうなとは思ってた」
風雅は少し面倒だな感じ、手を頭に置くとため息をついた。
遺物であれば申請を行わなければならず、そうなるとそのナイフを本部に置いておく必要があった。
髪をオールバックにし、黒いスーツを身に纏う男はナイフの柄を掴んで、それの説明をツカサと風雅に始める。
「特級遺物級のナイフです。ナイフの加工はいじればワンチャン、ここ一体が平地になる可能性が有りますので、私からは手をつけれません。正直、これの使い方も未知数なのでツカサ様が使いこなす迄は口出ししないって方針でいいと思います」
「つまり、この儂のナイフがすごいってことか?」
「今はその認識で大丈夫です、ツカサ様」
男は風雅に視線を向けており、彼女の判断を待っていた。
「ベンジャミン、その事は後で俺が片付けておく。だから、永遠には黙っておいてくれ」
風雅の言葉を聞き入れ、ベンジャミンと呼ばれた男はナイフを少しだけ砥石で刃を研ぐとすぐにツカサに返し、彼らに再び笑顔を向けた。
「承知しました。これで私の仕事が終わりとなると面目が潰れてしまうのでツカサ様、もしよろしければ、私、ベンジャミンがあなたに見合う武器を準備しておいたのですが、ご覧になりませんか?」
「武器、得物か! 是非! 見せてくれ!」
***
5時間後。
ツカサは買い漁った武器を抱え、WDG本部装飾部に向かうと時間通りに仕上がった服に袖を通した。
真っ黒な軍服の様な服には、幾つかの装飾が加えられており、以前よりも正規の軍の様な雄々しさを感じ取れ、右肩だけに羽織っていたマントには幾つかの武器が仕込める様になっていた。
「新品みたくなっていて、これは想像以上にピッタリだ!」
子どもの様にハシャグ、ツカサを見て、春は嬉しそうにする。
「気に入ってくれて何より!」
春が笑顔で答えるとツカサはしっかりと頭を下げた。
「儂のために服を準備してくれて、恩に着る!」
「ふふ、どういたしまして! まぁ、私は仕事だし、修繕とか、こう言う改造がしたいとかあったら言って。ツカサちゃんの要求ならすぐに応えるから!」
春はそう言うと自身の職場に戻って行った。ツカサは新しく綺麗されたグローブのなじみ具合を確かめていると風雅が彼を待っているかの様にその場に佇んでいた。
「似合ってるぜ、【狩人】」
「風雅、お前にも礼を言わないとな! 助かった、感謝する!」
「いいって事よ。それよか、【探検者】登録済ませておいたよ」
風雅はツカサの【探検者】登録証を手渡すと彼に対して、挑戦状を渡すかの様に堂々とした口ぶりで声を上げた。
「ようこそ、WDG【探検者】へ。この迷宮はお前を歓迎してるぜ、ツカサ」
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