三十七話 狩人、試験に挑む 其の拾参
メーガスは二丁の拳銃を構え、その晒された殲滅黒竜の素肌に狙いを定めた。
メーガスはこれまでに5人が見せてきた覚悟を前にして、人生で初めて他人のために能力を使いたいと感じていた。
「私も本気で、行かなければなりませんね」
メーガス・モリガンの【個性】、音波は音を操る事が出来ると本人が申告しているが、その真髄は異なっている。
音の振動数、強弱、音に関する全ての性質を操作が可能であり、メーガスはここまでそれを隠していた。
相手に底を知られれば、いつかどこかで必ず利用される。
メーガスはとある殺し屋に育てられ、そこで彼女は多くの地獄と最悪な世界を見つめて来た。
実力を知られれば、殺しをさせられ、相手を知れば利用され、両親と呼ばれる人間も同様であった。
故に、彼女は人とは信用に値しない、肉の塊が喋っていると言う考えに至る。
だから、最初は自分が彼らを利用するためにツカサ達と手を組んだ。
それこそが本心であり、そこに嘘偽りはなかった。
だが、この短い間に、ツカサ達が示してくれた人間の覚悟、想いや矜持を前にして、メーガスの固まっていたはずの心が動かされた。
構えた二丁の拳銃から放つのは二つの音の弾丸。
それは範囲を極限にまで絞り込み、相手にぶつかった瞬間に一気に爆発させるメーガスの切り札。
その名を
「音の修羅」
メーガスはそう一言残し、その引き金を引いた。引くと同時に、メーガスの能力に音響兵器である二丁の拳銃がその負荷に耐えきれず、銃身が爆ぜるも見えざる弾丸は殲滅黒竜の翼の付け根にぶつかるとその内部より、一気に音の振動数を素早くする。
圧縮した音を爆ぜさせるとそれは最大振動数を超え、殲滅黒竜の骨に響かせる。翼の骨は他の部位よりも、細くはあるがそれでも簡単に折れる事などない。
だが、その予想すらもメーガスの音の修羅は覆す。
一箇所のみに集中させる事で、その振動は骨の内部まで響かせると殲滅黒竜が持つ骨梁を破壊した。振動は更に大きくなり、中から骨を崩すと次の瞬間、最後の翼が"パキリ"と音を立て、地面に堕ちた。
「ツカサ様! 全ての翼を堕とし終えました! 最後、お任せします!」
メーガスが声を上げるとそれに応える様、ツカサは殲滅黒竜へと目を向けた。
空を飛んでいたはずの殲滅黒竜は自身の翼を全て失った事で墜落は避けられず、必死に壁に爪を立てて踏みとどまろうとする。
上に立つツカサとそれを見上げる殲滅黒竜、互いに見合うと相手を意識し、惹かれ合う。
その感情をツカサも殲滅黒竜も互いに知らないが、そんな事は今、どうでも良く、目があった瞬間に彼らは動き出していた。
嵐と炎の混ざりにより、地上に立つ事などはツカサには許さないことを確認すると彼は一直線に殲滅黒竜の顎下にある逆鱗目掛けて飛んで行った。
「さぁ! 最後の大仕事! 儂がやらずして、誰がやる!」
右腕のワイヤーを殲滅黒竜の体目掛けて放ち、それを巻き上げる勢いで、ツカサは弾丸の様に一気に迫る。
逆鱗、それは四つの翼を堕とすことで不死性が解かれることで晒される殲滅黒竜の弱点である。
ツカサは真っ先にそこを狙いに行くも、殲滅黒竜もまた、彼がそう来るであろうと理解していた。
殲滅黒竜はワイヤーを大雑把に爪で切り裂くと向かいくるツカサ目掛けて炎を吐きながら、近寄らせない様に牽制した。
ワイヤーが途中で切られてしまうもツカサは壊れた部品をわざと殲滅黒竜へと投げると炎を避けるために左腕に残っているもう片方のワイヤーを壁に向けて放ち、横に逸れる。
ツカサが放った部品は殲滅黒竜の右目に目掛けて放たれており、それが接触しようとした時、自身の傷がつかない様に目を閉じた。
ツカサを見逃さないためにもう片方をバッチリと見開いて。
部品が殲滅黒竜の右目にぶつかった瞬間、左目で追っていたはずツカサの姿が居なかった。
左目の視界限界、ギリギリをツカサはあえて狙って移動していた。
殲滅黒竜は刹那のやり取りでありながら自分が一手出し抜かれたことに気付くもそれは時すでに遅し。
ツカサは準備を終えていた。
彼の敏捷に加えて、【発勁】による壁蹴りによる高速移動で殲滅黒竜の背後に立つとそれの尻尾目掛けて、自らの体を投げ入れる。
そして、見せるのは以前、因果の魔女の信徒、アルコーンが召喚した巨人を狩った際に見せた回転切り。
それを使って、尻尾の先から殲滅黒竜の頭まで、一気に駆け上がる。
「ギャオオオオオオン!!!!!!?」
殲滅黒竜は突然、背中より、襲い掛かる内部に響く痛みに呻き声をあげるもそれでツカサは止まらない。
「あはは!!!! どうした! こんなもんじゃあないだろう! お前は!」
今の回転切りは両腕に"氣"を纏うことで【発勁】を利用した爆発的な推進力と黒曜の鱗すら物ともしない貫通力を得ており、それは肉を切り裂き、殲滅黒竜に大きな傷を負わせる。
それで止まらず、ツカサは今が決着の時だと決め、殲滅黒竜の頭上に飛んだ。
そして、ウィンドベルの風の靴と【発勁】による高速移動で空を駆け、殲滅黒竜の目の前にあえて、姿を現した。
宙返りの状態のツカサを見た殲滅黒竜は彼を燃やし尽くすために大きく口を開き、目の前に炎を見せつけるもそれに動じる事なく、その手に漆黒のナイフを構える。
それは殲滅黒竜の牙により生まれたナイフであり、異界から持ち込まれた特級【遺物】。
能力は未だに不明。
だが、そのナイフは主人であるツカサを認め、その圧倒的な切れ味を敵対する者に刻み込む。
ツカサは右腕に"氣"を集め、刀を投げつけるかの様な異様な形でナイフを振るおうとした。
手から得物が離れる直前に柄頭を親指と人差し指で強く掴むと殲滅黒竜の逆鱗を捉え、【発勁】による刹那の緩急から生まれた動きより斬撃を放つ。
それと同時に不敵に微笑みながら叫んだ。
「秘技・龍解!」
それは風雅の技にフギの【発勁】を加えたホシナミ・ツカサが独自に進化させた必殺の一撃。
殲滅黒竜の炎を物ともせずに、それと下顎を貫くと逆鱗にぶつかると同時に、龍解は【発勁】による"氣"の爆発を起こす。
逆鱗は殲滅黒竜の持つ部位の中で最も強固な部分であるにも関わらず、龍解が携えた【発勁】による爆発はそれを最も簡単に壊した。
「ギャ、ン」
逆鱗が破壊されたことで殲滅黒竜は全身の力が抜け、なんとか保たせていた嵐が消え去り、それは地面に落下してしまう。
落下する中、殲滅黒竜が見たのは自身にトドメを刺した狩人、ホシナミ・ツカサの姿であった。
青年が殲滅黒竜に向けるのは感謝と感動、悦と熱。そして、そこに居る全員でそれを狩ったと言うかつては得ることのなかった共有される喜び。
それら全てが合わさり、見せたのは純粋無垢な笑顔であった。
ツカサに目掛けて、自ら空から飛び降りるゴトーに、シルバに抱き抱えられながら近付くウィンドベル、彼らもまた、同様に笑いながら、その勝利の喜びを分かち合う。
迷宮アストラ八階層にて、異界の最強種、殲滅黒竜は再び狩人とその仲間達によって、狩られた。
感想、レビューいつもありがとうございます!
嬉しくて狂喜乱舞です!
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします!
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます!




