三十六話 狩人、試験に挑む 其の拾弍
最初の翼を墜とせなかった時、アベルは殲滅黒竜が生み出した嵐に飲まれたが、ウィンドベルとメーガスの付与してくれていた加護のおかげで何とか、死を免れていた。
そして、自分の手元に残していた、HPポーションとMPポーションを使い、アベルはタイミングを見計らって、一矢報いろうとした。
しかし、ツカサが地面に叩きつけられた瞬間、すぐに彼を助けるためにカモフラージュ用のアイテムを使い、殲滅黒竜の目の前から姿を消した。
そして、ゴトーが稼いでくれた数秒から逆転のチャンスを見出すとアベルとツカサの2人もまた、同様に動き出す。
アベルはゴトーの一撃を通すためのサポートを、ツカサは次は自分が翼を堕とす役割を行う奇襲を画策し、2人は同時にそれを決行するために殲滅黒竜の目を掻い潜った。
「もう一枚の翼、貰い受ける!」
この手に握るのは殲滅黒竜の牙で作り出されしナイフが黒曜石の鱗へと振り下ろされる。
ツカサは自身の"氣"を一箇所に集中させる【発勁】と風雅の型の手の動きから放つ、必殺の一撃を翼にぶつけた。
するとそれは殲滅黒竜の黒曜石の鱗を貫き、翼を堕とした。
「ギャオオオオオオン!!!!」
ツカサはすぐに最後の翼を堕とそうとするも三枚目の翼が突然堕とされたことで殲滅黒竜は呻き声にも似た声を上げた。
そして、最後に残った翼の一枚から嵐を吹かせ、自身の背中にいるツカサはそれに飲まれそうになるとそれを堕とすことを諦め、一旦、退却をする。
しかし、その嵐に向かって、殲滅黒竜は自身の口より漆黒の炎を吐いた。
「オイオイ、マジかよ」
ウィンドベルは地面にいる殲滅黒竜を見ながら叫ぶとその下には人が生きてける様な場所では無くなっていた。
漆黒の炎が嵐に混じり合うとその黒い渦が生まれ、それはその場にいる全員を誰1人残らずに殺戮するための地獄を作り出す。
豪炎が猛る地面から殲滅黒竜は次に、上空にいる人間達6人に目を向け、飛び上がった。迫り来る殲滅黒竜に対して、ウィンドベルはアベルとゴトーを自分達のいる上空まで引き上げる風の便りを通じて、ツカサに喋りかけた。
(ツカサさん! 聞いてるか!)
「む! ウィンドベルか! どうした!」
(下は地獄絵図。だけど、あと一枚であんたの言う、コイツを殺せる条件を組み立てられる。だから、俺も出張るからよ。あと少しだけ殲滅黒竜の気を惹きつけてくれるか)
「あはは!!!! いいな! ウィンドベル! 最初見た時は冷静な奴だと思ったが、それは杞憂だったらしい。その熱意に儂は応じよう! さて、やるか!」
ツカサはウィンドベルの頼みを聞くために、1人だけ殲滅黒竜の下にわざと降りる。
殲滅黒竜とツカサは互いの目があった瞬間、その視線で会話をする様に見つめ合った。
「お前を殺すのは儂だ。儂だけを見ろ」
ツカサの視線から放たれた言葉が通じたのか、殲滅黒竜は目が釘付けになり、追う対象をゴトー達から切り替えた。
「さて、アベルの爺さん、ゴトーさん。あんたらの出番は終わりだ。後半組、命燃やさせて頂きます」
ウィンドベルはそう言うとポッケに入れていタバコを取り出し、口に咥えると銀色のジッポで火をつけた。
ウィンドベルの横に、シルバとメーガスが立つと彼らは殲滅黒竜の下へと飛び込んだ。
「シルバ! 【個性】使え!」
「りー、ウィンドベルー、メーガス、掴まって~! 個性変身、転竜」
シルバが【個性】を使うと彼女の体を銀色の鱗が覆い始め、そこには殲滅黒竜とは違い、大きくはないが軽やかな尻尾と翼を携えた竜が現れた。
「ウィンドベル、行くよー!」
シルバ・ドラニアスの【個性】、竜化は自身の肉体を竜に変えることが出来る能力。銀を携えた美しい竜となったシルバの片脚ずつ、メーガスとウィンドベルは掴まった。
ウィンドベルは先ほど火をつけたタバコを一気に吸い上げ、その吸い殻を殲滅黒竜目掛けて投げ捨てるとシルバから手を離し、声を上げる。
「固有個性、血染めの英雄、発動」
ウィンドベルが【固有個性】を使用した瞬間、彼の髪が白く染まり、その頭側から2本の角が生えた。
ウィンドベル・ヴォーダイン、彼はヴァルキュリア・ヴォーダインの実弟であり、現存する英雄の血筋である。
【迷宮】顕現前、その血筋からは英雄が生まれると呼ばれていたかつての英雄の末裔。そして、その末裔はこの世界に【迷宮】が顕現してから、真の意味での覚醒を遂げた。
ウィンドベルが持つ固有個性、血染めの英雄はヴォーダイン家の血筋であれば誰でも手に入れることが出来る物であり、姉であるヴァルキュリアはこの【固有個性】を常に発動した状態で過ごしている。
しかし、そんな芸当が出来るのはヴァルキュリアのみであり、ウィンドベルがその血染めの英雄を使用出来るのは凡そ3秒ほどであった。
特級【探索者】の姉と英雄の血が薄い自分。
持たざる者は常に比較され続ける人生で、何度、罵声を浴びたのか分からない。
だが、それでもウィンドベルはゴトーの配信を見て、【探索者】になることを決意した。
それは最も姉と比較されるはずの険しい道であり、そこに自ら飛び込むと言うことは自殺行為にも等しい事であった。
それでもゴトーと言う人間が見せてくれた【探索者】と言う職業にウィンドベルは憧れ、そして、自分もその道を選んだのである。そんなゴトーがウィンドベルの目の前で見せた、彼の覚悟の示し方、自分を信頼し、信用すると言ってくれた。そんな彼に報いるために、ウィンドベルは自身の【固有個性】を解き放つ。
(タバコのおかげで10秒間だけは、自分の体に掛かる負荷を和らげてくれる。俺が倒れたら全員地面に落ちて死んじまうんだ。10秒間で決着を着ける!)
血染めの英雄は自分の肉体の限界を越えて、身体能力を向上させる。シンプルだが、その代償で計り知れない程の痛みが襲い掛かり、使用と共に動けなくなってしまう。
ヴァルキュリア・ヴォーダインはそれを自身の【個性】で相殺しているが、ウィンドベルにはそれが出来ない。
だからこそ、彼はその代償による行動不能を抑えるためにとあるためのアイテムを開発した。
それこそがタバコであり、銘柄の名を代償と代価と名をつけた。
それは吸ってから10秒間の間に起きる痛みを全て軽減してくれる物。
ウィンドベルが向かうのは殲滅黒竜の最後の翼がある付け根であり、その拳を振り翳し、声を上げた。
「個性装填! 遮断する嵐の一撃ァァァァァァァァ!!!!」
自身の【個性】である風を指輪に込めて、それを拳に交え、必殺の一撃を放つ。
殲滅黒竜に対して、嵐は意味をなさない、それは周知でありながらあえて、ウィンドベルはその一撃に嵐を纏わせた。
それは上から、狙うメーガスのためで、灼熱の嵐を吹き飛ばし、少しでも狙いやすくするためであり、ウィンドベルが放った拳は黒曜石の鱗を簡単に粉砕する。
英雄の血の覚醒、それ即ち、竜すらも凌ぐ程の力を持ち、その対価は自分の体で支払うしかない。
拳で破壊する事など不可能である鉄壁の鱗を粉々に砕くもその対価として、拳の一つが使いものにならくなってしまうほどの状態になっており、ウィンドベルは自身の限界が来ると察した瞬間、血染めの英雄を解いた。
痛みは無く、それを確認するとウィンドベルは自分が出来ることを行うために残った片腕を上げた。
「シルバ! 頼む!」
シルバはその答えに応じるためにウィンドベルに近付くと彼は彼女の片脚にしがみついた。
そして、それを確認したメーガスは、自身の得物である二丁拳銃を構えて、剥き出しの肉の部分に狙いを定める。
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