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異世界狩人〜ダンジョンにて、狩猟する〜  作者:
1章 狩人、迷宮を駆る

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三十二話 狩人、試験に挑む 其の捌

***


 それは死、その物を指していた。

 漆黒の翼は広げただけで嵐を孕み、携えた牙はあらゆる物砕き、切り裂く。黒曜の鱗は人の生み出した物では一太刀すらも傷付くことはなく、完全無敵の生物として、それはこの世界に君臨していた。


 そんな怪物に対して、たった1人で挑む者が居た。


「あはは!!!! なぁ! 先生! コイツがこの世界で一番強いんだろぉー!!!!」


 青年の叫び声を聞いた先生と呼ばれた女性はそれに対して、右手の親指のみを上げて答えた。


「なるほど! ならば、狩らねばならないなぁ!」


 怪物は青年を前にして、その視線すらも寄越さず、見向きもしない。それにとって人間とはちっぽけで矮小な踏み潰すためだけの存在であり、相手をする程の者などは一人とていなかった。


 ただ、青年はその巨竜だけを見つめていた。そこに一切のブレはなく、そこに一切の偽りは無い。


 紛れもない【狩人】として、世界に君臨する怪物を狩るためにそこに立っていた。


「いざ、参らん! 殲滅黒竜(ファフニール)狩り!」


***


 【迷宮(ダンジョン)】アストラ八階層にて、6人の【探索者】達がお互いに顔を合わせて、各々の役割を取り決めていた。


 殆どが初めて顔を合わせた者同士ででありながら、互いに背中を預けることになった彼らであったが、そこには一切の打算がなく、この階層に辿り着くほどの実力があると言う事実のみを踏まえているが故に、ある種の特別な信頼が生まれようとしていた。


「先ず、(オレ)が先陣を切って、なるべく奴を惹きつける。全力でお前達に攻撃を寄せ付けないようにする。だから、その間に四つの翼を堕として欲しい。ここの四つの翼がある限り、奴を倒すこと決して不可能だ」


 ツカサは自身が地面に書いた殲滅黒竜(ファフニール)の全体図の翼の部分にナイフを突き立てて、残った全員の目を見た。


「1人での【狩り】では先ず、ここを堕とした。この翼から生み出される嵐は非常に厄介且つ、翼がある状態だと、殲滅黒竜(ファフニール)は不死性を保ち続ける。幾ら傷つけようが死なない。四つの翼で同時に四つの嵐を産み、それは雷を孕むと雨は打たれれば体は鈍り、(いかづち)が容赦無く体を焼かれてしまう」


「翼は何で全部堕とす必要あるの?」


 シルバが手を挙げて、質問するとツカサはそれに丁寧に答える。


「一つだけを堕とすでは意味がない。アイツは翼が一つでもあれば空も飛べるし、不死性を維持し続ける。ただ、嵐の数は減るから落とせば落とすほど後で翼を取る奴らが楽になりはするな」


「となると、最初に翼を落とす人間は荷が重いと言う訳か。ふむ、ならばワシが最初に行こう」


「オイオイ、爺さん、あんた大丈夫か? その歳で無茶したら死ぬぞ?」


 ウィンドベルはアベルが最初の翼を堕とそうとする役目を買って出たことを茶化すもそこには心配の意味も込められていた。


「ふん、ウィンドベルよ、お前もまだまだ若いな。年寄りはな、労わるだけじゃダメなんだよ。年寄りは年寄りなりに若者の前を走る。心配するな、確実に堕として見せよう」


「ならば、最初の翼はアベルが堕とすで決定。二つ目は誰が行こうか」


「なら、二つ目は俺が行くよ」


 ゴトーはアベルが率先して危険を顧みずに引き受ける彼の姿を見て、自身も彼らのために手を挙げるとそれに続く様にメーガス、シルバ、ウィンドベルの3人が口を開く。


「三つ目は私が致しますわ。ウィンドベル様とシルバ様を危険に晒すのは大人として正しくないので。後、アベル様とゴトー様の背中を追うのは悪くないので」


「ん、なら、最後は私だね」


「じゃあ、俺は全員のサポートに当たるか。まぁ、サポートって言っても空飛べない奴らに俺の風を使って浮遊させるだけだがね」


「よし! ならば、これで順番は決定だ! 翼を堕としても動けるのであれば、他の者達のサポートをする。敵の惹きつけとトドメは(オレ)がやる。ホシナミ・ツカサの名前でそれを約束させてもらおう」


 ツカサを中心に組み立てた作戦で、全員の役割が決まったのか、一旦その場は解散すると各々がこれからの決戦のための準備を始めた。


(二つ目の翼を堕とす、か。自分からやるって言ったが流石に震えるな、腕。こう言う大一番でこれまで何度も失敗して来た。一級に成れないのもこう言う所なんだろうけど)


 ゴトーは鞄の中にある薬草や、ポーションを確認しながら震える手を落ち着けようとしていた。


(本当に俺にできるのか? ツカサさんがいるんだ。そりゃ、それだけで安心出来る。でも、それはそれ、これはこれだ。俺自身が失敗を恐れてる、いや、失敗した結果、この二次試験を突破出来ない、全員が失格となることを恐れてるんだ。自分の失敗がみんなを巻き込む。あの時と同じで…)


「よう、ゴトーさん、何でそんなに悩んでるんだ?」


 声をかけられてピクリと肩を揺らし、ゴトーは背後を向くと喋りかけたのはウィンドベルであり、彼は手を横に振りながら立っていた。


「すごい汗だな。緊張してるのか?」


「ん、あぁ、そうだね。ふー、うん。ごめんね、君みたいな若い人の前でこう歳がいってる俺がビビっちゃって」


 ゴトーはそう言うと地面を向いた。


「いや、普通に緊張するだろ。俺は別にあんたらみたいに翼を堕とす役割がないから多少気が楽だが、アンタ達は違う。こんな中で緊張せずに自然体なのはホシナミ・ツカサくらいだろ」


「あははは、たしかに、そう、だね。確かにだ」


 ゴトーは表面上は笑顔を浮かべるも、自分もツカサの様な自然体でいたい、そんなことを考えてしまう。


「なぁ、ゴトーさん、俺さ、あんたの迷宮(ダンジョン)探索の配信を見て、【探索者】になったんだよ」


「え?」


「あー、まぁ、なんだ。あんたさ、昔からずっと【探索者】してるだろ? E tubeが出来た直後からずっと、【探索者】として【迷宮(ダンジョン)】探索をしてる。人はあんたのことを万年準一級なんて呼ぶけどよ、俺はあんたの動画を見て、【探索者】になった。あの激動の時代を生き抜いた、あんたに惚れてんだよ」


 ウィンドベル・ヴォーダイン、彼はゴトー・ミキヤの動画配信をいつも見ていた。それは偶々、初めて見た【迷宮(ダンジョン)】探索の動画がゴトーの配信していた物であり、そこから彼の動画を余すことなく見続けた。


 ゴトーが【迷宮(ダンジョン)】に挑む姿は決して、格好がつく様なものでは無く、常に泥臭く、華やかさには欠けていた。それでも、諦めずに仲間達と【迷宮(ダンジョン)】に挑む姿は間違いなく、人を動かす力があり、その情熱にウィンドベルと言う青年を今、この【探索者】として動かしていた。


「ウィンドベル、くんだっけ」


 ゴトーはウィンドベルの名前を尋ねるとそれに彼は短く答えた。


「おう」


 腕の震えはまだ止まらない。

 それでもゴトーの気持ちはこれまでにない程に冷静且つ、静かな闘志が滾り始めていた。


「ごめん、ありがとう。君のおかげで震えが止まった」


「はは! そうか! そうやって言ってもらえると俺も嬉しいよ」


 ウィンドベルはニッと笑い、背を向ける。そして、ゴトーもまた、最後の準備を整えると全員が集まっていた場所に向かった。


「全員! 準備はいいか!」


 集まった面々の顔を見て、ツカサはその覚悟を問う。それに対して1人たりとも欠けることなく、同時に答えた。


「「「「「おう!!!!!!」」」」」


「あはは! 威勢も、元気もいいなぁ! では、参ろうか! 2度目の殲滅黒竜(ファフニール)狩りへ!」

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