三話 狩人、迷宮を駆る 其の参
目を覚ますとそこには見たこともない空間が広がっていた。
意識がハッキリせず、横になっていた体を起こし、手で目を擦ろうとするとそこには生前、最後に握りしめていたはずのナイフがあった。
「うん? これは儂のナイフ? 何だ? このグローブは。それに儂は、さっき死んだはずじゃ?」
そう呟いたツカサは身に纏っている服がいつの間にか変わっている事と同時に、自身の腕が全く違うことに気づいた。急いで袖を捲り上げ、触ってみると筋肉質でありながら太くなく、一切の無駄を削ぎ落としたかの様な機能美を感じ取れる腕があった。
「む? むむむむ? 腕の皺と怪鯨を狩った際に出来た傷跡が無い?」
体が妙に軽く感じ、違和感だらけの中、ナイフに反射される自身の姿を見てツカサは目を丸くした。
「これは儂か? いや、違うこれは昔の儂だ!? 何故、若返ってる?!」
動揺と戸惑い、自身の辺りを見渡すと自分が住んだ樹海でないことと自身が若返っていることの二つが同時に襲い掛かった。
しかし、ツカサは自身の近くに獣の雰囲気を感じ取った瞬間、直ぐ様【狩り】へと本能を研ぎ澄ます。
分からない事だらけでありながらも全身が本能で感じ取った【狩り】への渇望が、ツカサの足を無意識のうちに動き出していた。
一歩一歩と近づくとそこには四人の男女が怪物に襲われている所であり、それを目の当たりにしたツカサは笑って、彼らの下へと疾る。
それは魔物が放つ野生に刺激され、閉じていた【狩り】への本能が一瞬にして開花さており、それと同時に抑えきれない興奮によって、自分が置かれている今の状況の理解などはどうでも良くなっていた。
それら全てをほっぽり出しても脚を止める事など、ツカサには出来なかった。
(あれは、迷宮牛か! 先生に連れられて狩った時は人の形をしていたことに気圧されて、少し狩るのに手間取ってしまった! 今日また合間見れるなんて! なんて幸福だ! 今なんて考えても、意味は無い! 瞬間瞬間、その一瞬の狩猟を全力で楽しむのみ!)
青年は鉄槌を振るう迷宮牛と襲われていた男の間に立つと満面の笑みを浮かべて声を上げた。
「儂に今、殺意を向けたな! 迷宮牛よ! 狩猟は成立した! 始めよう! 儂とお前だけの狩りを!」
***
目を覚ますとそこは知らない天井、ではなく、迷宮特有の模様が刻まれた見知った天井であった。
「俺、死んだはず、じゃ」
ゴトーは自分の体の上には毛布が被されていることに気付き、辺りを見渡すとそこには知らない青年と仲間達が火を囲っていた。
目を覚ましたゴトーの視線にいの一番に気付いたツカサが彼のいる方向に振り向くと彼へと体を向けて、ニッと笑い、声をかけた。
「初めましてだ、ゴトー、俺の名前はホシナミ・ツカサ! 名前を他の奴らから聞いている。儂だけ知ってるのは不釣り合いだからな、よろしく頼む! そうだ! 迷宮牛の肉でも食べるか? よく焼いてあるぞ!」
ツカサは元気よくハキハキとした挨拶をすると横になっていたゴトーに向けて、迷宮牛の肉を焼いた物を渡して来た。ゴトーは戸惑いながら体を起こすと脳の理解が追いつかず、眉間に手を置いた。
「んあ、えーと、何がどうなって今、ツカサ? さんが俺の仲間達と一緒にいるのか全く理解が」
「あー、ゴトー、それは俺から説明するよ」
そう言うとジョンがゴトーに近付き、今あった出来事を全て簡潔に話してくれた。
「な、なるほど? じゃあ、ツカサさんに助けられて、迷宮の【安置】まで連れて来てくれたってことか」
「まあ、そう言うこと。それで今、彼に迷宮について色々説明していた所だ」
ジョンの言葉にゴトーは何か引っ掛かり、少しだけ眉間に皺を寄せた。
「迷宮について説明って、そりゃどう言うことだ? ここの迷宮は場数を踏んでないと入れないはずじゃ?」
ゴトーの説明にジョンは苦虫を噛み潰したかの様な顔をして、その問いに答えた。
「あー、その事について色んなことを聞いていたんだが、まぁ、嘘は言ってないんだろうが、その、こっちの人じゃないっぽい」
「こっちの人じゃない? まさか、そんなこと有り得んのか?」
ゴトーは驚くとツカサに視線を向けた。
ツカサはサクナとツバメの二人と会話しており、彼女達が伝えている迷宮の基本的な知識に目を輝かせていた。
しかし、ツカサはゴトーとジョンの視線に気付き、首を傾げた。
「何だ? ゴトー、儂に何か質問でもあるのか?」
ツカサの紅の眼はゴトーの視線から彼が何を思っていたかを何となく察していた。それに気圧されるものの何とか自分の言葉を伝えようとゴトーは口を開く。
「あー、いや、ツカサさんは探検者なんだよな?」
「儂か? いや、儂は狩人だ!」
「なるほど? 迷宮は初めてなのか?」
「初めてだな! いや、初めてと言うよりも儂は目を覚ますとここに居た! 理由は知らない!」
「???? つまり、記憶喪失、とか?」
「いや、違うぞ! 儂は儂だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「じゃあ、出身は何処なんだ?」
「子どもの頃はもう覚えていないなー! 住んでいた場所なら自殺冥処と言う場所だ!」
元気よく全ての問いに答えるもそれら全ては自身が得ようとしていた答えとは違う回答を受けたことでゴトーは確信した。
この青年に近づきすぎては行けない、と。
しかし、それと同時にゴトーにはとある関心も湧き始めていた。
それはツカサであればこの【魔境】を踏破できるのではとないかと言う、希望とも呼ぶにはあまりにも小さい望みの様な何かがゴトーの心を燻らせる。
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