二十九話 狩人、試験に挑む 其の伍
ツカサ達が試験を開始して、既に10時間近くが経過。
現在、トップは相変わらず、ツカサ、ゴトーのペア、ローブを被ったソロ【探索者】、そして、アベル、ウィンドベル、シルバの3人パーティが交わることなく独走した。
既に彼らは七階層まで至っており、見たことのない魔物達に襲われながらも順調に探索を進めていた。
ツカサは狭い中でワイヤーでの立体的な戦闘を封じられていながらも普段と変わらない自身の【狩り】を見せた。
ツカサが元より握りしめていたナイフとベンジャミンより買ったダマスカスナイフ、その二つを巧みに使いこなしながら魔物へと立ち向かう。
七階層、終盤にて巨大な怪物を前にして、ツカサは笑顔で走り出した。
「ゴトー! 真っ直ぐ行く!」
「オイオイ! マジかよ!」
2人が対峙するのは真っ黒な体には蜘蛛の様な八つ足を携えながら、その頭部には牛の頭を備えた物の怪、牛鬼であった。
それに対するツカサはゴトーに一言残し、彼を信じて、真っ直ぐに疾走する。
(今、全身に回る"氣"を足に集中させて、地面を、蹴り上げる!)
牛鬼はツカサのみを追うもその間合いに入った瞬間に突然、姿を消した。【発勁】による爆発的な速度での移動に、牛鬼は追うことが出来ず、その両目を周りへと左右上下縦横無尽に視線を揺らす。
牛の視界は330度、その死角は背後のみ。牛鬼はその視界を持ちながら、銃弾すらも目で追う視力を携えており、一度、狙った獲物は逃すことなく、食い殺していた。
だが、そんな牛鬼です自身の間合いに入り込んだ瞬間に消えたツカサの姿を追うことが出来ず、両目をグリグリと動かしながら彼を追いかける。
そこにもう1人いる事を忘れたかの様に。
「個性解放、双火炎」
ゴトーはツカサよりは遅いがそれでも着実な足取りで両手に握る二つの得物の刃に火を灯すとそれらを牛鬼の足に振るった。
牛鬼は自身の足を断ち切られ、よろめいた瞬間、ゴトーへと目を向ける。
しかし、それは既に遅かった。
ゴトーの【個性】火焔、それは装備に炎を付与させるシンプルな物。ただ、ゴトーはそのシンプルな【個性】を血の滲むような努力によって進化させていた。
【個性】発動と共に肉体をも装備とすることで自身の体の温度を無理矢理上げることで身体能力を底上げすることができる。
ゴトーは七階層に至るまでに二つの剣に炎を付与させる迄に発展させており、その身体能力の底上げの能力も同様に二倍となっていた。
眼にも止まらぬ速度でゴトーは動き回り、燃え盛る刃が一本、また一本とその巨体を支える脚を切り裂く。
(最初は無理だ、そんな風に思ったけど、意外とまだ俺にも伸び代ってのがあるんだな)
牛鬼がゴトーを目で追おうとしたその時、既にそれの八つ足は一本たりとも自立を許されぬ形に断ち切られていた。
「ぐぎゃぁぁぁぁあおおおおおお!!!!」
牛鬼はバタバタと暴れ回る。
牛鬼自身はツカサの記憶を読み込み生み出された魔物であり、彼の居た世界では敗北を殆ど知らないほどの怪物であった。
無意識のうちに持っていた人間と言う存在に対しての驕り、侮り全てが今、仇となる。
牛鬼は自身の持つ治癒能力で再生を試みるも炎によって焼き切られた箇所は治りが遅く、それに憤りを覚えた。
「ぎゃ、ぎゃゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
雄叫びを上げながら、その爆発した怒りに身を任せ、牛鬼はゴトーへと襲い掛かるために残った無理矢理動かし、前進を始め様とする。
「ふふ、遅い」
ツカサはその瞬間を狙っていた。
一瞬にして牛鬼の背後、それの持つ視界の死角である残った30度に移動しており、ゴトーが全ての脚を断ち切るのを待った。
(この分厚い首を、一撃で刎ねるには以前の儂では時間が掛かる! ふふ、ならば! ようやく、見せれるぞ! フギ、風雅よ! ここで今、使わせてもらう!)
ツカサは今の自身の持つ、技術を全て費やし、その首を刎ねるためにナイフを振るう。
三日月流、秘技・龍星の手の動き、そして、そこにフギより学んだ【発勁】、それらを混ぜ込んだツカサだけの一撃を牛鬼の首に叩き込んだ。
ツカサの研ぎ澄まされた"氣"から放たれる【発勁】と凡ゆる物を貫く龍星、二つが混ざり合うとその一撃は牛鬼の首の分厚い肉の宮を切り裂くばかりか、地面にすらも至った。
次の瞬間、その光景が広がった後に遅れて"ドゴン"と言う音が鳴り響くとその割れた地面を前にして、ツカサは目を輝かせた。
(これが【発勁】! これが技! これが儂だけの型か!)
ツカサはここまでに何度も自身の【狩り】に必要な物を見直して来た。自由な自分の【狩り】、その強みをさらに活かすために技術を学び、技を物にし、それは今、新たな【狩猟】へと開花する。
いつもの【狩り】から得られる様な熱と快楽、そして、自身が成長し、それを目の当たりに出来ているというかつての自分では得ることの出来ていなかった喜びと言う感覚。
それが一気に押し寄せて、ツカサは思わず笑みをこぼすにはいられなかった。
(いつ以来だろう。儂が成長で喜びを感じたのは。かつての儂は生きることで必死で【狩り】から得られる幸福を得れるようになったのは先生とあってからだ。そこからはそれしか知らなくなっていた。だから、今、儂はいつも以上に高揚し、興奮している!)
ナイフを握る腕は武者震いを起こし、ツカサは興奮しながらゴトーの下へと近づいた。
「ゴトー!」
ツカサは手を挙げるとゴトーはそれに対して彼もまた手を挙げてハイタッチをする。
2人の手が重なり合い、"パチリ"と音を鳴らすとゴトーは嬉しそうにツカサに声をかけた。
「真っ直ぐ突っ込むなんて思いもしなかった。俺が失敗してたらどうするつもりだったんだ?」
「失敗なんて考えるか! ゴトーなら出来る、そう思えばやる事は簡単さ」
ツカサは自信満々に答えるとゴトーはやれやれとため息を吐くもそれは数時間前の不安から来る物では全くの別物となっていた。
「なぁ、ゴトー!」
「何だい、ツカサさん」
「背を預けながら【狩り】をするのは実に良いものだな! 1人には無い、楽しさがある!」
ツカサは笑顔でそう言うとゴトーは少しだけ微笑んだ。
そして、2人の勝利を祝うかの様に、彼らは眩しいまでの笑顔を浮かべるのであった。
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