二十一話 狩人、特訓する 其の弐
【発勁】とは中国武術における力の発し方であり、リー・フギが見せる物は力を"氣"として、一瞬の爆発力を見せるという物。
それは体に至るどんな部位であっても発する事ができ、踏み込みでの【発勁】によって生まれた押し出す力を、続け様に拳に集めて突きに放つ事も可能。
そして、今、ツカサはその技術を得ようとリー・フギと特訓をしていた。
ツカサが目覚めて十四日が経っており、彼はここまで自身が【狩猟】から離れていたことが無かった事に戸惑いながらもフギの【発勁】を用いた一撃を防いだ。
(ぶつかる瞬間の衝撃、それに対して儂は防御に"氣"をまとめ上げるようになってきた。おかげで、散々飛ばされていた距離も縮まったな)
聴覚、嗅覚、共にツカサは普通の人間よりも遥かに優れているが最も優れているのはこれまで凡ゆる獲物を見ていた視覚、そう眼であった。
その真紅の双眸は凡ゆる獲物を逃さないために常に研ぎ澄まされた感覚を持ち、どんな相手の一挙手一投足を見逃さない。
故に、フギの突きを、そこに収束する拳の"氣"を動きを一切、見落とさずに捉える事が出来た。
ツカサは既に防御の瞬間に、"氣"を両腕に集中させており、ここでフギの拳を受け続けて九日にして、"氣"の操作を会得していた。
「ツカサさん、第二段階は終了です。"氣"の操作、そして、散々見てきた私の【発勁】、今の貴方ならすぐにでも到達しえます。それでは三段階目、【発勁】を貴方に叩き込みます」
ツカサはその言葉を待ち望んでいたかの様に「応!」と元気よく答え、彼は次なる高みを目指して進むのであった。
***
『狩人、因果の信徒と相対する』
この動画はE tubeの歴代視聴回数ランキング5位を更新し、今も尚、その視聴回数の伸びが衰えることを知らない。
ツカサとアルコーンとの戦いに加えて、風雅が見せていなかった全てを曝け出した全力の頂上決戦。その配信は、どの動画よりも現実とかけ離れた映画の様な物となっており、視聴者は大いに盛り上がった。
しかし、ツカサが巨人狩りに成功した直後、地面に叩きつけられた後、動かなくなってしまった彼の姿を映した結果、窮地を脱しられたのかは不明となっていた。
また、それ以降、ツカサの配信が無くなっていた事で彼を心配する声が広まっており、動画のコメントはかつてないほどの投稿があった。
⸻⸻
『ツカサー、出てこいよー』
『あの高さから落ちたら死ぬだろ』
『ツカサならワンチャンあるって』
『今の医療技術ならあれなら行けると思う』
『それよか、あのアルコーンってのは何なんだ?』
『WDGに問い合わせてもお答え出来ないって返ってきたぞ』
『なんか秘密でも握ってんのかね』
『【因果の魔女】ってのも聞いた事ねえな』
『なんかきな臭くなってきた』
『これ見て【探索者】なるの諦めた。命がいくつあっても足りない』
『風雅が殺しきれないんじゃ、俺たち誰も無理じゃね?』
『【探索者】ってやっぱり割に合わねー』
『【終末の魔女】の降臨は近い。震えて眠れ』
『誰だよお前』
『誰だよお前』
『陰謀論はSNSだけで語ってろや』
『【週末の魔女】なら良いのにね』
『それも微妙だろ』
『風雅様に弟なんていたんだ。初耳』
『それねー、風雅はあの信徒とか言うのと面識があるっぽい』
『てか、よく消されないなこの動画。いつものWDGだったら即刻揉み消してるだろ』
『ほんそれ、なんか色々忙しいんかね』
『考えたら何で配信止まってないんだ? 所有者が倒れた時点で、合成獣って撮影は行うけど配信は停止するんじゃなかった?』
『なんか前どっかで見たんだけど、博士の合成獣研究と一致してるとかどうとかなかった?』
『ツカサ復活してほしい人はいいね押して』
⸻⸻
憶測と考察、そして、人々は【迷宮】と言う底知れない闇に対して、無意識の内に疑念の種が植えられる。
その疑念が芽生え、世界に根を張らすのはまだ、先のことである。
***
【因果の魔女】決戦から一週間後、WDG本部【円卓会議室】に各部門の代表が集められていた。
WDGは六つの部門で分かれており、本部庁、検察庁、戦務庁、技術庁、広報庁、外事庁が存在している。
巨大な円卓を五人と端末が囲っており、本部長代表席には事務総長代理である 久遠寺永遠が座っており、対応する各席に残った五人が腰掛けていた。
「よく集まってくれた、諸君。やっぱり、【魔女】に関係する事になるとみんな集まりがいいね」
「本部長代理さんは嫌味が言うのが仕事なんか?」
永遠の言葉に対して、円卓に両脚を乗っけ、太々しい態度を取っている黒いスーツを羽織りながら袖を捲り上げ、顔と腕が切り跡だらけの赤髪の男が噛み付いて来た。
「おやおや、技術庁局長サー・アルマンダインくんは安い挑発に乗るのが仕事なのかい? 【サー】の称号が聞いて呆れちゃうな」
永遠は軽口でアルマンダインの小言を回避し、続け様に会議の音頭を取った。
「さて、いつも通り、各庁毎に名乗りを上げて、参加の意思を示そうじゃないか」
永遠の言葉に合わせて、全員が同時に立ち上がると先陣を切ったのは頭に包帯を巻いた風雅であった。
「WDG検察庁検事総長、三日月風雅。参加を希望する」
それに続けて、先ほどまで悪態をついていたアルマンダインは永遠を睨みつけながらもハキハキと自身の意思を示す。
「WDG技術庁局長、サー・アルマンダイン。参加を希望する」
アンマンダイが言い終えると長身で体のラインがクッキリと見えるスーツに身を包み、頭の側面に二本の角が映えている黒髪の女が少しだけ面倒くさそうに口を開いた。
「WDG戦務庁長官、ヴァルキュリア・ヴォーダイン。参加を希望するわ」
ヴァルキュリアの意思表明が終わった瞬間、彼女の横に置いてある一台の【スマホ】、その画面が光るとそのスピーカーから女性の様な音声が流れ始める。
「はいはーい! 今日の円卓会議にはー! WDG広報庁局長! 現ノアがお届けするよー! 最後はWDG外事庁、アダムくんからどうぞ!」
アダムと呼ばれた緑の髪を短く整え、メガネをした堀の深い男はノアから投げられた返事に応えた。
「あはは、僕だけ名前が言われちゃったな。WDG外事庁長官アダム・カルデアス。参加を希望するよ」
WDG六部門の各部門代表がその円卓の間に集ったことを確認すると永遠は会議を始めるために声を上げた。
「WDG事務総長代理 久遠寺永遠が君達の円卓会議への参加を許可する。始めよう、より良い、【迷宮】攻略と世界秩序のための会議を」
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