二十話 狩人、特訓する 其の壱
目を開くとそこには見覚えのない天井があり、体を起こすと真っ白な空間と真っ白な寝床が用意されていた。
「む、儂は確か、そうだ! アルコーンに最後、叩きつけられて死にかけていたんだ! アイツは! アイツとの【狩り】は!?」
いつもの服とは違う緑色の立ちあがろうとすると自身の肋骨辺りがズキリと痛み、グハッと声を上げ、口から血を吐いた。
「はぁ、はぁ、うっ、ゲホッ。あはは! 痛いな! こんな痛みを受けたのは神馬と【狩り】をした以来だ。でも、あの高さから落とされたのは流石に初めてだったからな。受け身も取れずにいればこれくらいの傷になると言う経験を得られた」
そんな事を呟きながらツカサは何とか立ち上がり、自身の服を探し始める。痛みに耐え、壁に吊るされていた自身の服を見つけると一歩一歩と進む中、その部屋の扉が自動で開いた。
「あ! コラ、何してるんですか!」
開かれた扉の先には珍妙な格好をし、桃色の髪を後ろで軽くまとめ上げていた女が立っており、彼女はツカサを止めようと歩き出した。
「儂はまだ、アイツとの【狩り】を」
ツカサはそれには目を向けず、軍服を着ようとしており、そんな彼を止める為に彼女は声を上げる。
「話を聞かない人にはこうです!」
ツカサと軍服の間に彼女は立つと次の瞬間、彼の腹部に向けて細い腕から突きを放った。
あまりにも自然な流れで放たれた拳にツカサは両腕で防御を取るもその一撃は防御を貫通して、彼の内蔵を揺らした。
「が、は?!」
感じたことの無い痛みがツカサの肉体を走り、再び口から吐血してしまうと彼女は彼を簡単に抱きかかえて、寝床に再び運んだ。
(な、んだ? 今のは? ただの突きがこうも体の中を揺らすのか? まだ、まだ儂も分からない事だらけ。加えて、この女も視線に一切敵意が無かった)
ツカサはそんな事を考えながらも痛みによって、グッタリとし、そんな彼を寝床に載せると彼女はこの瞬間の無礼を謝る為に喋りかけた。
「はじめまして、最初の一発での手荒い歓迎、ご無礼しました。私はリー・フギと云います。WDG専属の医者で、一級【探索者】です!」
翠の眼をパチリと開きながらフギと名乗った女は頭をペコリと下げるとツカサはそれに応える為に口を開く。
「ゲホッ、ホシナミ・ツカサだ。すまない、儂は【狩り】をしていたんだが、気がつくとここに運ばれてしまっていた」
「ええ、そうですね。その、落ち着いて聞いてくださいね。貴方は【因果の魔女】の信徒と戦っていました。しかし、そこで致命傷を負い、WDG本部に運ばれて来たのです」
その言葉にツカサは驚く事もなく、自身がまた、【狩り】と言う規則の中で死に損なった自分を嫌悪していた。
「致命傷を負ったのだろう。なら、儂はアイツに命を奪われるべきだ。それが循環で、それが【狩り】だ」
ツカサの眼には自身の【狩り】の中で死に損なったと言う後悔の炎が込められており、それを落ち着ける為にフギは優しい口調でありながら芯のある言葉を彼に向けた。
「ツカサさん、貴方が信徒と戦っていなければWDG発足以来の多量殺人が起きていた可能性が高かったのです。貴方のおかげで助かった人間が大量に居る、その事実を忘れずにいてください。貴方としてはそれは別に興味がなかったのでしょうし、不本意であるかも知れません。でも、その行動を風雅さんもバサラさんも評価しています。だから、貴方をあの場で死なすべきでは無いとしたのです。お話はここ迄です。後ほど、また、服の着替えと掃除のために伺いますね」
そう言い終え、フギは立ち上がるとツカサに向けて手を振り、病室を後にした。
たった一人、部屋に残されたツカサは天井を眺めながらボンヤリと考えた。
頭に残る【狩り】の中で死に損なったと言う後悔とフギから伝えられた死ぬべきではなかったと言う言葉の意味を。
「なら、儂は何処で死場所を見出せばいいんだ?」
そう呟くと痛みを紛らわす為にツカサは目を閉じるのであった。
***
ツカサが目覚めてはや、六日、アルコーンとの決戦より、十日が経った頃。
彼はフギに功夫を習っていた。
ここに至るまでの経緯はこうである。
フギの珍妙な格好は旗袍と呼ぶものらしく、医者という職業は病にふした人間を治す職業であると伝えられた。
(人を治す職業の人間のする格好なのか? 旗袍は)
そんな疑問を浮かべるもフギの治療は的確でツカサを止める為に放った突きのおかげで彼の胃に溜まっていた血が全て排出されたようで次の日から元気いっぱいに動き回った。
体を蝕んでいた痛みは既に治り、ツカサはすぐにでもそこから出たいと考えていたが彼は今の自分ではアルコーンに勝てないと踏んでいた。
(儂には風雅の様な型が無い。それは儂の強みでありながら欠点でもある。ならば、一度、自身に型が何なのかを叩き込む必要がある)
故に、彼はとある決意を固めた。
「フギ、お前に頼みたいことがある。お前の技を学びたい」
二日目の経過観察の時、ツカサに頭を下げられるもフギはそれを最初、断ろうとした。しかし、彼の眼が拒否という言葉を許さない、そんな気迫を感じ取り、自身の仕事の合間だけだが、自身の功夫について教える事が決まった。
「うーん、そうですね。いきなり、技を教えても意味がないので、先ずはツカサさんは"氣"を練る所から始めましょう」
フギは"氣"の練り方をツカサに教えると病室内で彼はそれを寝ずに行った。
坐禅を組み、頭の上から体内、足先に至るまで全て意識を向け、呼吸を整える。
二日間、経過観察と食事、手洗い以外の時間を全てをそれに費やすと五日目の経過観察時、ツカサの"氣"は練り上げられていた。
【狩人】として過ごしていた期間、無意識の内に行っていた気配を消すと言うのは"氣"を練る行動に幸か不幸か繋がっており、一日にしてツカサは自身の体内にある"氣"の存在に気付く。
そして、二日目にして"氣"を全身に巡らせると自身の意志で大きくしたり、小さくしたりと言った細かい操作にすら辿りついていた。
(ツカサさん、動画で見てたけど"氣"を無意識のうちに無くす事ができるから案外すぐに練るのも出来るだろうと思ってたけどこんなに早くとは思わなかった。こうも成長が早いとワクワクしちゃう)
フギは午後の仕事を休みを入れ、五日目の経過観察後、ツカサをWDG本部内にある訓練所に連れて行くと冒頭部分へと至った。
「ツカサさん、"氣"の練りの訓練はここ迄でにして、実践と参りましょう」
フギが構えるとツカサはそれに応じる様に拳を前にした。
「以前、一度お見せしました。"氣"を一瞬だけ相手の体内へと放つ物。それが私が使う功夫であり、【発勁】と言う技になります」
フギの全身には"氣"が満ちており、以前のツカサでは見えなかった物が見える様になったことに少しばかり喜びを感じながらも師である彼女の動きをしっかりと捉えていた。
ゆっくりでありながらもその細い腕から放たれる拳には"氣"が満ちており、ツカサはそれを防御する。
次の瞬間、ツカサの体は浮かび上がり、吹き飛ばされた。
(この前よりも遥かに威力の高い一撃! フギの拳に"氣"が満ちた瞬間に儂に衝撃を爆発させる。あはは! 内蔵がひっくり返るほど痛いな! これが"発勁"か!)
ツカサは吹き飛ばされながらも受け身を取り、すぐに立ち上がるとフギはそんな彼に向けて、笑顔で喋りかけた。
「それではツカサさん、これからの訓練の内容を説明します。私の【発勁】を受け続けてください」
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