十八話 狩人、因果の信徒と相対する 其の参
風雅の怒りは既に頂点を突破しており、それは一周して、感情は一切のブレのない研ぎ澄まされた殺意へと成っていた。
倒れているツカサを抱き抱えると風雅は一度、アルコーンの目の前から姿を消した。
そして、すぐに再び彼の前に戻ってくるとそこにはツカサの姿は居なくなっていた。アルコーンは自分が仕留めようとした獲物が奪われた事で感情がいつもよりも揺れ動き、その怒りが語彙を強めた。
「アイツを出せ」
その言葉に対して風雅は冷静で、一切聞きつけるつもりがない姿勢を見せた。
「誰に命令してるんだ? 俺がお前のいう事を聞くと思ってんのか?」
「チッ、これだから面倒なのだ。人間の処理は」
アルコーンは自身の手で殺そうとした相手が消えた事でツカサと言う一個人に対して抱いた特別な殺意が失せるとすぐに
|十二体の消失させる座天使の背後に立った。
ツカサに破壊されたはずの一体の巨人はいつの間にか再生を始め、動き出すとアルコーンは自身の軍が規律を乱さずに進むのをつまらなそうに眺め始める。
歩みを続ける巨人達の車輪が二階層の森を徐々に消失させながら進んで行くのをアルコーンは眺めているとそんな彼らの前に再び風雅が立っていた。
彼女は自身の個性である狐火の能力を使い、空に浮くとアルコーンと迫り来る
|十二体の消失させる座天使を前にして、抜刀の構えを取る。
「お前を殺す為に俺は今日まで牙を研いで来た」
【遺物】である【星月夜】の柄を握る力は普段よりも強く、そして、ここまで見せてこなかった自分の本気、全力をここで今、解放する為に風雅は叫ぶ。
「遺物解放! 鎮めろ、【星月夜】!」
その叫び声に応じて、【星月夜】は鞘と共に碧い光を見せるとそれらが風雅を飲み込むと同時に、彼女は再び声を上げた。
「固有個性、九尾の剣聖、発動!」
風雅の金色の髪と立派な狐の耳を碧い焔が染め上げ、彼女の尻尾が一本であった物が九本となり、それら全てが雪の様に汚れの一切ない白へと変化する。
風雅の紺碧の眼は真紅に染まっており、その双眸を迫り来る|十二体の消失させる座天使とその背後にいるアルコーンへと向けた。
【遺物】、それは今の人類では再現不可能なエネルギーを持つ人工物であり、最高階級の物は一つが一国が持つ軍事力に匹敵するとされている。
特級、一級、二級、三級と階級によって分かれており、特級【遺物】その所有者は許可が無い限りはそれが持つ本来の力の使用を制限され、WDG事務総長の許可が降りた時のみ、使用が可能。
全ての特級【遺物】には封印機構が備え付けられている。
だが、今、三日月風雅がその封を解いた。
|十二体の消失させる座天使はそんな彼女を気にする事なく、その顕現した理由である全てを消失させると言う物を成し遂げる為に前進した。
「その死の因果、俺が断ち切る」
十二体の死纏う巨人に相対するのは一人の九尾の剣聖。
「個性解放、三日月流、極技・龍星・白夜」
怒りも憎しみも風雅は持ち合わせていながら、抜刀の瞬間だけは自身の意志を鎮め、その一刀に全てを費やす。
そして、その決着は一瞬であった。
碧い焔を纏いし刃が鞘を駆け、型を乱す事なく抜刀を成功させると以前、ツカサに見せた物とは見間違えるほどの巨大な斬撃が全ての|十二体の消失させる座天使へと同時に放たれた。
十三に及ぶ巨大な龍星は風雅の固有個性、九尾の剣聖と力を解放した【星月夜】の異能を交える事で進化を遂げていた。
寸分違わぬ碧い龍が十二の巨人を躊躇う事なく貫くとその一撃が作り出した穴から
|十二体の消失させる座天使の肉体を静かに燃え始めた。
そして、その焔は|十二体の消失させる座天使が召喚させらた意味を、存在の意義をボンヤリと何だったのかと考えをさせる暇もなく鎮める。
【星月夜】の異能の一つ、【鎮魂】。それは相手の意識や、感情を鎮め、戦意を強制的に喪失させるモノ。
風雅から放たれた【龍星・白夜】は自身の秘技である【龍星】に【鎮魂】の能力を付与しながら敵対対象へと全自動追尾を行う、彼女が至った極地であった。
|十二体の消失させる座天使は碧い焔で燃え盛り、その存在を消されると自身に迫る碧い斬撃をアルコーンは眺めていた。
彼に感情の起伏はなく、それでいて人という存在に興味はない。完全なる上位存在として、自身は設計されているとアルコーンは考えている。
故に、【祝福】の能力は使えど、それは決して全力では無く、ただ、【遺物】による攻撃が自分を傷つける事だけを許さない。
風雅と言う存在に目を向けずに錫杖を前に構えた。
「因果の盾」
自身の目の前に因果の【祝福】によって作り出した、盾を構え、それが【龍星】を防ごうとする。
しかし、【龍星】はその防御を拒んだ。前面に作り出された盾の目の前で急停止し、その斬撃は畝りを見せた。
【龍星】の強制防御を無意識に取らされたアルコーンはそれが何が起きたのかさっぱり分からず、急停止した斬撃が盾を避け、防御の隙を突かれたことに気づいた時には自身の左上半身を抉られていた。
【龍星・白夜】は斬撃でありながら【貫く】と言う本質は失っておらず、むしろ、その一撃が通常の【龍星】の数倍の大きさを誇るため、【削り取る】と言う言葉が似合う程の威力を誇る。
アルコーンは穿たれた自身の左上半身に手を置くとそこから碧い焔が燃え始め、徐々に意識がボンヤリとし始めた。
「…」
アルコーンは沈黙する。
今、自分が何故、この場に立っていたのか。その目的も、意味も、あやふやになりながら溶け始める。
(何故、オレはここに? わからな、い、わからないがもう、どうでも、いい)
失いかける意識の中、アルコーンの目の前に何かが見えた。朦朧とする意識の中、彼が見たのは顔を覆うほどの大きな黒い帽子を被り、素顔を隠した女性の姿。
『ねえ、アルコーン。私が君を作った意味を忘れたのかい? 全ての因果を君が失くして【偽の神】から【真なる神】へと成る為だろう? その器がこんな所で死ぬことは許さないよ』
大きな帽子に覆われて、その口元すらも見えないが、ハッキリとその声と言葉はアルコーンの意識に楔を入れる。
そんなアルコーンの首を断つために風雅は空を駆けた。
(今なら殺せる。アイツを、弟の、風太の仇を討てる!)
そして、風雅はアルコーンの目の前に立つとその刃を彼に首元へと迫らせた。
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