第37話「盲目なる狙撃手」
アンファング中心部。
そこに存在する一際高い時計台の屋根の上にその悪魔は立っていた。
彼は這々の体でこちらへ引き返すリャナンシーの姿を確認し、念話を繋げた。
「リャナンシーの撤退を確認。敵影、追撃はありません」
『よくやってくれた。これ以上の攻撃はいい。戻れ、バルバトス』
「はっ!」
盲目の悪魔、バルバトス。
彼は念話より聞こえるシュトレッケバインの指示に従い、手にした強弓を下げた。
長距離狙撃。それが先程、リャナンシーの撤退を援護し、処刑者をほぼ行動不能へと陥らせた攻撃の正体だった。
次いで、再び念話が響く。
『殺してねえだろうな?』
不機嫌そうな、ふとした拍子にこちらに怒りを向けるのが確定するバアルの荒々しい声だ。だが、バルバトスは気にした様子もなく、その眼帯に覆われた双眸を処刑者がいるであろう方へ向けたまま返す。
「その心配はない。生きているよ」
『ならいい。獲物を横取りされたんじゃ堪ったもんじゃねえからよ』
『手応えはどうだ?』
バアルの言葉には答えず、その後に続いたシュトレッケバインの無機質な声に反応し、暫し彼は沈黙。やがて、彼は少し不愉快そうに口を開いた。
「上手く防がれたようです。大した損傷にもなりはしていない。厄介な衣だ」
バアルにああは言ったものの、手心を加えたとはいえ、それでも九割形は殺す気で放った矢だ。
それを防がれたとなると、嫌でも複雑なものが胸に溢れる。
が、それを分かっているシュトレッケバインは淡々と返す。
『よほど、竜帝に気に入られているらしい。この距離では如何にお前の弓といえど、その程度しにかならんという訳か』
『ハッ!いいじゃねえか、それでこそ戦りがいがある。おい、バルバトス。ヤツの魔葬具はどうなんだよ?』
「ああ……………」
再びの静寂。バアルだけでなく、シュトレッケバインも、その所感を求めている事はバルバトスも気付いていた。
処刑者の駆る魔葬具。それが示した暴威を思い返し、彼もまた、淡々とその事実を告げる。
「強い、間違いなく。戦いが素人丸出しのリャナンシー程度ではまるで勝負にならんだろうさ。だが――――――今のままではまるで我々には届かんよ」
そう吐き捨てるように言い残し、バルバトスは姿を消した。




