第35話「竜の顎」
再び、アインスが攻めに転じた。
手にした銃の引き金を引き絞り、重たい音を立てて闇が放たれた。
極光の様に放たれた闇がリャナンシーの華奢な身体を正確に捉え、貫く。
相変わらず、液体と幻の身体であるリャナンシーにダメージは全くと言っていいほど入らない。
しかし、それでもアインスは変わらず数度に渡り闇を撃ち続けた。
「無駄だというのが分からないかしら?」
若干、余裕の戻った笑みを貼り付けるリャナンシー。嘲笑うかのようにバラバラに散った身体が再び集まり、繋がり始める。
そのタイミングをアインスは逃さなかった。
「罪法、穿刑!!」
マントを振り回し、再び漆黒の針弾の嵐を杯目掛けて撃ち放つアインス。
威力は銃には劣る。しかし、速度は銃撃のそれを凌ぎ、初めに放った時よりも遥かに多い。
身体の再結合のために、僅かに反応が遅れたリャナンシーへの一撃。だが………、
「『Prevent』」
杯を貫く為に放たれた漆黒の暴威。しかし、それはリャナンシーが操る流水の壁により防がれ、杯に届くことなく止まり、水の中で揺らいだ。
「そこまでバカじゃないわよ、アインス。杯を狙ってくるなんて想定済み。とっくに対策は――――――」
「――――弾けろ」
「なっ……………きゃぁ!?」
余裕を見せるリャナンシーと杯を守る為に展開した水壁が止めた針の群れが膨張し、内側からそれを弾き飛ばした。
「混ざり、噛み砕け。罪法――――」
アインスは止まらない。銃をしまい、空いた手を穿刑の生み出した針と、リャナンシーへと向ける。
その手に呼応するかの様に、リャナンシーの操る流水よりも冷たく、暗い闇が混ざり合い、やがてそれは巨大な竜の顎へと形を変え、その口腔に錆びた杯を持つ妖精を捕らえる。
「な、なに……、なによ、これ――――!」
『れ、ろ――――』
「っ?!」
『い、れよ…………受け入れ、よ。受け入れよ―――――』
「誰………、いや、貴方――――」
アインスでも、レジスタンスでもない何者でもない声に、リャナンシーは恐怖し、それを零すと同時、それが何かを理解。
それは、アインスの心の内を覗き、垣間見たあの――――――、
「ラ―――――」
「――――圧刑」
しかし彼女からしてみれば、その悍ましくも恐ろしい……その存在の名を口にすることを赦さないかの如く、アインスの手は無慈悲にも閉じられた。
まるで、獲物を噛み砕く竜の顎の様に、力強く―――――




