第30話「作業開始」
「あらためて見るとよ、大分派手に壊されてんな………」
「そうだね。解析に使えるのかな……」
車を降りて、瓦礫の山と化したドライマウアーを見て呟くロジャーに、アランは作業が行われているリーズィヒ級の方を見ながら返す。
リーズィヒ級がまだ、微かに放つ焼け焦げた鉄の匂いの中、クラークが隊員達に牽引作業の指示を、チェスターも作業する側に混じり、他の隊員に混じって装甲の隙間へとアンカーを掛けていた。
次々と巨体に牽引用のワイヤーが伸び、アンカーが金属を引っ掻く音を立てながらフレームとフレームの隙間にしっかりと食い込んでいく。
ウインチが唸りを上げて巻き取ると、ワイヤーが震えながらピンと張られ、僅かにリーズィヒ級の巨体が軋む音がした。
アンカーを打ち終えた者が乗る車のエンジン音と、ワイヤーが軋む音を聞きながらアランは肩の力を僅かに抜いた。トラブルは今のところ起きていない。
これならばすぐにでも終わるかもしれない、と思っていると今度は無線越しにクラークの声が響く。
『警戒に回ってる部隊、周囲の状況は?』
「異常はないよ、他は?」
何もない荒野を見渡しながらアランはそう返す。
牽引作業のメンバー以外は総出で周囲を警戒中だ。
無線がざざっ、とノイズ混じりに他の隊員の声を吐き出す。
『こっちも異常はないぜ、クラークさん!』
『異常ありません、このまま警戒を継続します!』
次々と返ってくる他の隊員の声に、アランは緊張を解くように息を吐いた。
周囲にも警戒しなければいけない分、嫌でも気が張るのは仕方ない。
「アインスの方は?」
アランは無線からの報告が途切れたタイミングを狙い、上空からドライマウアーより向こうを警戒しているアインスに問いかける。
『異常はない、ここから見える範囲では何も』
「ありがとう、引き続き頼む」
『ああ』
ツヴァイに乗ったアインスから報告が届く。
例の四魔将含め、敵が来るとすればアンファングからの可能性が高い。それ故の配置だった。
報告を聞き終えたクラークの声が、今度は牽引作業をしている隊員達へと向く。
『聞いての通りだ。急かしたくはないけど長居する様な用事でもない。こっちも急ぐよ!!』
『おい、クラーク。そろそろ代わってくれ!あっちこっち走り回って疲れちまったっつーの……』
『分かった分かった、暫く助手席で休んでろ』
クラークはそれだけ言うと無線を切り、自身も袖を捲くりながら作業へと加わった。
持ち場を離れられないアランとロジャーはその様子を眺めた後、今度は配置されているドライマウアー跡の方角を見る。
「何もないといいけど……」
「だといいがな……」
不自然に感じるほど静かすぎる状況に、二人は睨むように周囲を見渡した。
いつ、何が起きても迎え撃てるように――。




